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氷点下の売買・流通

文・橋本英明/写真・垂見健吾
協力・JTA

 
  わたしたちが今、マグロをおいしく食べられるのは、冷凍技術の進歩のおかげ、と言うことができる。もちろん、魚は冷凍モノより生鮮モノのほうが旨いに決まっている。しかし、ことマグロに関してはこれが当てはまらない状況にあるのだ。
かつて、マグロは近海魚だった。昔は今のような航海技術もなく船も小さかったため、遠洋まで漁に出向くことが不可能だった。けれども、潮流に乗って日本沿岸に回遊してくるクロマグロがたくさん獲れたのだ。一例を挙げると「明治四十(1907)年といえば、……中略……そのころ、半島の南端に位置する布良村は、毎年、いまの千葉県のマグロ漁船が世界の海から総がかりで釣ってくるマグロ(クロマグロ)より多量のマグロを釣っていたのです。『江戸前の魚』」(※1)。布良村とは現在の千葉県館山市布良のことだ。
ところが、マグロは姿を消した。近海での漁獲高が急激にダウンした。必然的に、マグロ漁船は遠くの海まではるばる漁に行かなければならない。現在の遠洋漁業では一年以上の航海になることも珍しくないが、マグロを良質な状態でもち帰るには船の中で冷凍するしかない。マイナス50度以下での急速冷凍技術がなければ、わたしたちは「今のマグロの味」を楽しむことができないのである。現在、全世界で漁獲されているマグロ、カジキ類は年間140〜160万トン。そのうち日本国内で消費されているのは、その半分近い65万トン。65万トンのうち刺身で食べているのが約51万トン。その他が缶詰、切り身などで食べられている。つまり、全世界の生産量の約1/3を刺身として食べているわけである。
また、刺身として食べている51万トンのうち、日本で生産している冷凍マグロは20万トン、生鮮が6.5万トン。輸入マグロは冷凍モノが17万トン、生鮮が7.5万トン程である。時代は変わった。そして、この冷凍技術が流通に変化をもたらした。
流通とは、大海と惜別したマグロがわたしたちの口に入るまでのプロセスである。この商売に携わる人以外、つまり一般の消費者は流通のシステムをよく知らないだろうし、また、さほど興味を持たないと思われるが、ここでごく簡単に説明しておこう。<br>
 
まず、マグロは産地市場(※2)へ水揚げされ、船主はその販売を卸売人に委託する。荷受けとも呼ばれる卸売人は組合や会社組織の事業体が多く、水揚げ手数料を船主からもらって引き受けたマグロを上場する。それを仲卸人たちが入札やセリで買う。仲卸人は買ったマグロを、こんどは消費地市場(※3)、たとえば築地の魚河岸(※4)へと送る。消費者市場にも卸売人がいて、マグロを仲卸人に入札かセリで売る。買った仲卸人は普通、頭、骨、血合いを落とし、残りの75パーセントを「コロ」にして相応の価格をつけ、寿司屋、魚屋などに売る。そして、わたしたちがそれを買って食べる、カウンターのガラスケースを眺めながら口に運ぶ。マグロ市場の多くを占める冷凍モノの場合は、わたしたちが醤油をつける少し前まではカチンコチンに凍っていたワケで、つまり氷点下のまま取り引き(※5)されているのである。ただし、これはあくまでも基本的な流通のパターンであって、マグロに関しては例外も多い。いや、増えている。
 
全長3m、体重300kgにも達する黒鮪は、本マグロとも、シビとも呼ばれる。マグロの仲間では最大に育つ。刺身、すし種として根強い人気をもつ。なにぶん最高級の大型魚ゆえ、その包丁さばきが値段にも大きく影響する。プロの腕の見せどころである。

俗に言う“腹一丁”の断面、同じ腹身でも特に「かました」と呼ばれる部分は非常に値が張る(キロ3〜4万円)。手前の腹一丁の右半分が大トロ、左半分が中トロ、赤色の濃い部分が、いわゆる赤身である。
  例えば一船買い(※6)。大手買付け業者が、漁船のもち帰った冷凍マグロを、まるごと買い取ってしまうのだ。マグロはそのまま超低温冷凍庫にストックされ、消費市場の値動きをみながら放出するタイミングを決める。超低温冷凍によって、いまではマグロの味や色をほとんど変化させることなく、2年近くにもわたってストックできるとさえいわれている。生鮮マグロの場合は市場取り引きと切り離すことができないが、冷凍マグロの大口取り引きでは産地市場を素通りしてしまうケースが増えてきているのだ。消費地市場の取り引きをもパスする場合がある。市場外の流通である。また、大口取り引きに限らずとも、流通の過程でストックされることはよくある。それは、その時の相場しだいなのだ。
マグロが水揚げされる生産地市場、代表的な漁港は静岡県の清水港、同じく焼津港、神奈川県の三崎港である。この三港のマグロ水揚げ高は群を抜いているが、三港とも冷凍モノの扱いが多く、水揚げ日本一を誇る清水港に至っては、その95パーセント以上をカチンコチンの冷凍マグロが占めている。クレーンで水揚げされる白く凍ったマグロは、魚というイメージとはかけはなれた氷塊である。  
 
 
※1 「明治四十年に布良村だけでクロマグロ60トンの漁獲があったのですが、昭和五十一年の県全体のクロマグロの漁獲は14トン、五十二年は51トンにすぎませんでした。『江戸前の魚』」。
※2 生産者サイドに立った市場。船主は水揚げした魚の鮮度保持を卸売人にゆだね、漁場に急いで戻りたい。これはマグロに限らないが、そのため漁場近くに市場が必要になる。また、短時間に同種の魚を多量に水揚げしても一度にさばけないため、鮮度保持、すばやい処理のできる施設が必要になる。正式名称は生産地卸売市場。
※3 各地の産地市場から魚を集荷して、周辺の消費者に供給することを主な目的とする。消費者サイドの市場。正式名称は消費地卸売市場。
※4 日本最大の消費地市場。正式名称は東京都中央卸売市場築地本場。世界最大のマグロ市場でもある。魚屋など、プロを相手に商売する仲卸業者が店鋪を構えるスペースを「場内」、一般の人間でも気おくれせずに買物ができる隣接した小さな市場のことを「場外」という。
※5 冷凍モノのマグロは凍ったまま売買されるわけだが、たとえ冷凍モノでも品質にはばらつきがある。獲れた場所や時期によって、脂肪のノリ具合や肉質が違うからだ。また、延縄を投入してすぐに掛かったマグロと巻き上げ直前に掛かったマグロとでは、死んでから冷凍するまでの時間差がある。それを見抜くのがプロ。丸のままの冷凍マグロを扱う流通業者、たとえば産地市場の卸売人たちは、尾の付け根の断面だけで品質を判断する。マグロは上場前に計量され、電動ハンドソーで切断した尾の付け根が、そのマグロ本体の上に乗せられる。そして、キロ単位の希望価格を入札板に記し、競争入札。
※6 大手商社や水産会社を中心に行われる一船取り引きは、マグロの現物が港に着く前にすでに終わっていることも多い。マグロはいつ、どの種類が、どこの海域で獲れたモノかで、おおよその品質が判断できるという。つまり、獲れた時点で価格も決まってしまうのだ。船主は港に入る前にトン数や漁場別の尾数など無線で知らせ、買ってくれる業者を捜す。情報だけで取り引きを先行するのだ。また、入港してからサンプルとして少しだけ並べ、残りの分を取り引きしたりもする。この一船買いは、マグロの流通に大きな変化をもたらした。
 
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