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カジキ類の分類学的研究( 14 )
京都大学みさき臨海研究所特別報告別冊
Misaki Marine Biological Institute Kyoto University Special Report
No.4, pp.1〜95 June 10, 1968
中村泉・岩井保・松原喜代松:カジキ類の分類学的研究
NAKAMURA, I., T. IWAI K. MATSUBARA: A Review of the Sailfish, Spearfish, Marlin and Swordfish of the World |
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シロカジキ Makaira indica(CUVIER) |
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本種はCUVIER(1831)がSir Joseph BANKSから送られた9フィート、200ポンドのスマトラ産の標本の図をもとにして新種 Tetrapturus indicus として記載した。しかしCUVIER(1831)の記載が多少不正確であったので Tetrapturus indicus を疑問視する研究者もあって(LA MONTE、1955など)、新種がつぎつぎに発表された。すなわちPLAYFAIR and GÜNTHER(1866)がザンジバルからの標本により Histiophorus brevirostris を、JORDAN and HILL(1926)*がメキシコ太平洋岸からの標本により Makaira marlina を、WHITLEY(1955a)がオーストラリアからの標本により Istiompax dombraini を、DERANIYAGALA(1956)がセイロンからの標本により Makaira xantholineata をそれぞれ新種として発表した。さらに本種の標徴としていちじるしい胸鰭の強直性が中村(1938)、GREGORY and CONRAD(1939)、ROYCE(1957)、MORROW(1957c)などによってはっきりと認められるまでは、本種とインド・太平洋のクロカジキがきわめてよく似ているとの理由で、両種はしばしば混同され、学名の使用にかなりの混乱がみられた(第9表:クロカジキの学名の変遷・第11表:シロカジキの学名の変遷)。そして本種と思われる種類に対し、インド・太平洋からえた標本によりJORDAN and EVERMANN(1926)は3種に、ROSA(1950)は2種・2亜種に区別してそれぞれ報告した。またNICHOLS and LA MONTE(1935a)はタヒチからの標本により新亜種として Makaira nigricans tahitiensis を報告した。本種とクロカジキおよびニシクロカジキとが胸鰭の強直性を除くと、よく似ているので、亜種の段階でこれらを区別しようとして、Makaira nigricans tahitiensis 、Makaira nigricans marlina 、Makaira ampla marlina 、Makaira ampla tahitiensis 、Makaira mazara tahitiensis などがシロカジキに対してかなり多くの研究者によって適用された(第11表)。本種のうちに2亜種 Makaira marlina marlina と Makaira marlina tahitiensis を認める研究者もいた(MORROW、1957c)。MORROW(1959c)は Istiompax indica (CUVIER)の妥当性を提唱した論文を発表した。それ以後、かなり長い間あまり用いられなかった Makaira indica および Istiompax indica が多くの研究者によって再び用いられるようになった。しかしJORDAN and HILL(1926)の原記載になる Makaira marlina も多くの研究者によって本種に対して適用されていた。
属名に関しては、初期の研究者は Tetrapturus 、Histiophorus などを用いたが、本種に対してJORDAN and HILL(1926)が Makaira を適用し、WHITLEY(1931a)が Istiompax を創設して以来、この2つの属が多数の研究者によって用いられた(第11表)。その間にHIRASAKA and NAKAMURA(1947)は本種に対して Marlina なる属を創設したが、この属はGREY(1928)の Marlina mitsukurii によって先取されているので認められない。ROBINS and DE SYLVA(1960)は亜属 Istiompax を本種に対して認めている。
日本近海の本種に対して、中村(1938)、蒲原(1941)、中村(1942)、蒲原(1950)、阿部(1957)、冨山・阿部・時岡(1958)、三谷(1965)などは Makaira marlina を、HIRASAKA and NAKAMURA(1947)、中村(1949)、盛田(1952、1953)、古藤・古川・小玉(1959)、古藤・小玉(1962)などは Marlina marlina を、阿部(1963)は Istiompax indicus を、MORROW(1957c)は Makaira marlina tahitiensis をそれぞれ適用した。最近では日本近海をもふくめてインド・太平洋で1種 Makaira indica あるいは Makaira marlina を認める研究者が多い(第11表)。 |
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●種の記載
記載は成魚について行なった。この類は成長に伴う形態の変化がいちじるしいので、稚仔魚についての詳しいことはそれぞれの種の記載のところに主な文献をあげたので、それらを参照されたい。稚仔魚についての総括的な研究はJONES and KUMARAN(1962a)、UEYANAGI(1962b)、上柳(1963a)などによってなされた。
呼称
シロカワ(東京);シロマザアラ(神奈川県三崎);シロカジキ(紀州田辺);ゲンバ(高知);カタハリ(台湾)。
Marlin、Ahin koppara(セイロン);Kopparan、Kopparaikulla(タミール語、セイロン);Kapparava、Makara、Sapparava(シンハリ語、セイロン);Joo hoo(インドネシア);Pacific black marlin、Giant black marlin、Silver marlin(アメリカ)。
外部形質
第1背鰭38〜42鰭条。第2背鰭6〜7軟条。第1臀鰭13〜14鰭条。第2臀鰭6〜7軟条。胸鰭19〜20軟条。腹鰭1棘2軟条。
体は延長し(体長は体高のほぼ4.8〜5.2倍)、側扁度がやや小さい(体長は体幅のほぼ11.0〜13.4倍)。吻は長く(頭長は上顎長の0.95倍前後)、その横断面はほぼ円形である。鱗は体表に密に分布し、その先端は鋭くて長い(第1図・L)。両顎と口蓋骨に微小な鑪状歯がある。側線はあまりはっきりしないが直線状である。頭は大きく(体長は頭長のほぼ4.0〜4.2倍)、眼は中庸大。第1背鰭基部から眼前部にいたる頭部外縁は著しく隆起する。尾鰭はきわめて強大で強く二叉し、尾柄部付近の両側にそれぞれ2条ずつの隆起線がある。胸鰭はやや下位で長く(頭長は胸鰭長のほぼ1.1〜1.3倍)、その先端は尖り、体側に体してほぼ垂直に直立し、体側に接着させることができない。第1背鰭は前鰓蓋骨の後縁上方に始まり、前端部は体高より低く、後方へいくにしたがって低くなり、第2背鰭起部前方で終わる。第1背鰭の前端部先端は尖る。第1臀鰭は大きく、三角形をなし、先端が尖る。第2背鰭と第2臀鰭はほぼ同形同大で、両者はほぼ対位するか、前者の方が後者よりやや前方に位置する。腹鰭は胸鰭より短い。
第1背鰭の鰭膜は濃青色、その他の各鰭は黒褐色で、ときとして第2背鰭、第1臀鰭などは濃青色を帯びるが、一般に他の鰭は黒褐色である。体側に斑紋はない。体の背部は黒味を帯びた濃青色で、腹側は銀白色である。死後、時間を経過したものは灰白色を帯びるのでシロカジキの名がある。生時は白くはないので、Black marlinの名がある。 |
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第1図
マカジキ科魚類の鱗の配列の模式図。
A. バショウカジキ(成魚) Istiophorus platypterus
B. バショウカジキ(若魚)Istiophorus Platypterus
C. ニシバショウカジキIstiophorus albicans
D. フウライカジキTetrapturus angustirostris
E・F. クチナガフウライTetrapturus pfluegeri
G. ニシマカジキ Tetrapturus albidus
H. マカジキ(成魚)Tetrapturus audax
I. マカジキ(若魚)Tetrapturus audax
J. クロカジキ Makaira mazara
K. ニシクロカジキ Makaira nigricans
L. シロカジキ Makaira indica。 |
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内部形質
嗅房は放射状で50前後の嗅板からなる。肉眼では嗅板上に毛細血管の分布が認められない。内臓の形態はほぼバショウカジキのそれと同様であり、生殖腺は左右相称である。肛門は第1臀鰭起部直前に開く。
頭蓋骨は強固で吻が延長し、眼後部が短いが、全体として幅広いがっしりとした形態をそなえる。鋤骨腹面と副楔骨腹面の前端部の幅は広い。せつじゅ隆起と翼耳骨隆起はほぼ平行して走る。
脊椎骨中央部の血管棘と神経棘は脊の高い台形状で、翼状突起はよく発達するが、クロカジキやニシクロカジキのそれらと比べるとやや発達が悪い(第7図・J)。脊椎骨数は11+13=24。 |
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第7図
カジキ類の中央部脊椎骨の模式図。側面図および腹面図。腹面図は翼状突起の発達の様子を示す。
A. メカジキ Xiphias gladius B. バショウカジキ Istiophorus platypterus C. ニシバショウカジキ Istiophorus albicans D. フウライカジキ Tetrapturus angustirostris E. クチナガフウライ Tetrapturus pfluegeri F. ニシマカジキ Tetrapturus albidus G. マカジキ Tetrapturus audax H. クロカジキ Makaira mazara I. ニシクロカジキ Makaira nigricans J. シロカジキ Makaira indica |
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最大体長
全長で約4.6mに達する(上柳、私信)。LA MONTE(1955)によればタヒチ近海産で、Silver marlinとよばれるものは約4.1m(全長あるいは標準体長)に達するという。
分布
本種はインド・太平洋の熱帯・亜熱帯海域に広く分布する。かなり島嶼性がつよく、東支那海・濠印諸島海域・サンゴ海・中央アメリカ太平洋岸などに濃密に回遊する。例年、秋になると日本海へも回遊し、ときどき若狭湾沿岸の定置網にも入る。
しかし大西洋における本種の明確な漁獲記録はない。塩浜・明神・坂本(1965)は漁船の漁獲記録に従って大西洋からシロカジキの漁獲を報告している。しかしこれが本当にシロカジキであったのか、ニシクロカジキの大型魚を見誤ったのか明確でなく、今後の研究が待たれる。筆者の1人(中村)が1966年・1967年にケープベルデ諸島のサンビセンテ、トリニダッド・トバゴのポート・オブ・スペイン、ブラジルのリオデジャネイロおよびレシフェ、パナマのバルボアなどを基地として大西洋で操業する日本漁船や韓国漁船の漁獲記録を調査したり、魚市場で魚体調査を行なった限りでは、本種の大西洋での漁獲を確認することはできなかった。この点については将来さらに充分な資料を用いて検討する必要がある。
本種の稚仔魚は太平洋ではサンゴ海・カロリン諸島近海などで採集されている(JONES and KUMARAN、1962b;UEYANAGI、1962b;HOWARD and UEYANAGI、1965)。またインド洋ではオーストラリア北西海域・スマトラ島西側海域・セイロン島南側海域などで採集されている(JONES and KUMARAN、1962b)。
付記
本種の稚仔魚はUEYANAGI and YABE(1960)、上柳(1960a)などによって報告されている。 |
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