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マグロ類の分類学的研究( 8 )
 
京都大学みさき臨海研究所特別報告別冊
Misaki Marine Biological Institute Kyoto University Special Report
No.2, pp.1〜51 February 20, 1965
 
岩井保・中村泉・松原喜代松:マグロ類の分類学的研究
IWAI, T., I. N and K. MATSUBARA: Taxonomic Study of the Tunas
 
タイセイヨウマグロ Thunnus atlanticus 《LESSON》 
 
本種は大西洋西部の熱帯海域を中心とする比較的限られた範囲に分布しているので、従来の記録は必ずしも多くない。しかし、そのわりに種名の混乱が多くみられるのは、本種がマグロ類のうちでは小型であり、他種の未成魚と見誤られる機会が多くあったからであろう。
原記載はLESSON(1830)によって発表されたThynnus atlanticusであるが、CUVIER(1831)はその翌年にLESSONの未発表の図にもとづいてThynnus balteatusを発表した。その後、本種の種名は研究者によって前者になったり、後者になったりで一定しなかった。そこへ、FOWLER(1934a)のParathunnus rosengarteniと、MOWBRAY(1935)のParathunnus ambiguusが追加され、タイセイヨウマグロの種名も複雑となり、混乱をまねく結果になった。たとえば、JORDAN and EVERMANN(1926)は本種をビンナガのシノニームとしているし、FRASER-BRUNNER(1950)によればThynnus atlanticus LESSONとThynnus balteatus CUVIERはビンナガの、また、Parathunnus rosengarteni FOWLERはメバチのシノニームとなっている。属名は長い間メバチと同じParathunnusとなっていた。近年になって本種の研究は著しく進んだ。とくに、DE SYLVA(1955)は骨格系の形態学的研究によって本種の種としての価値を確認した。現在ではThunnus atlanticusが本種の種名として認められている(第6表)。
 

●種の記載

呼称
Atlantic blackfin tuna(米国);Blackfin tuna(英領西インド・米国);Bermuda tuna(米国);Albacora(キューバ)。

外部形質
第1背鰭13〜14棘。第2背鰭12〜15軟条。背鰭副鰭8〜9。臀鰭12〜14軟条。臀鰭副鰭7〜8。胸鰭31〜35軟条。1縦列の側線鱗数約190〜220。第1鰓弓の鰓耙数:上枝4〜5;下枝15〜19;総数19〜24。
体は紡錘形(体長は体高の3.1〜4.1倍)。尾部はあまり長くなく、尾柄部は急に細くなる。頭は大きく(体長は頭長の3.2〜3.6倍)、円錐形。体は一様に小円鱗でおおわれるが、胸甲部の鱗はやや大きい。胸甲は小さくて不明瞭。側線は明瞭で、胸鰭上方で彎曲する。胸鰭はやや長く(体長は胸鰭長の3.7〜4.7倍)、後端は若魚では第2背鰭下に達す。第2背鰭と臀鰭はほぼ同形同大で、第1背鰭より高い。眼はかなり大きい。口裂は大きく、後端は眼下に達す。両顎に小円錐歯をそなえる。嗅房の縁辺部に肉質隆起がない。嗅板の縁辺に切込みが発達する(第12図H)。
第2背鰭と臀鰭は黄色。背鰭副鰭は暗青銅色。臀鰭副鰭は暗灰色。体の背部は黒青色、腹面は銀白色。体側に淡色横帯をそなえる個体がある。

  第12図
マグロ類の嗅房模式図。
A. ビンナガ
B. メバチ
C. クロマグロ(成魚)
D. クロマグロ(若魚)
E. ミナミマグロ
F. キハダ
G. コシナガ
H. タイセイヨウマグロ
 

内部形質
肝臓は3葉よりなり、右葉が大きく細長い。肝臓の腹面に脈管条がない。皮膚血管系は発達し、第7脊椎骨の位置に始まり後走する。
頭蓋骨の篩骨域の幅は中庸。上後頭骨隆起の後端は第2脊椎骨上に達す。左右の翼楔骨は腹面で接合するが、眼窩の中央部まで突出しない。基底後頭骨の後突出部の後縁は鈍角。副楔骨腹面が中央部でくぼむのが特徴。
完全血管弧は第11脊椎骨に始まる。腹椎骨の後血管関節突起は長く、針状に突出する。側突起はふつう。椎体下孔は大きく、第22脊椎骨に始まる。第1血管棘は棒状。脊椎骨数:19+20=39。

最大体長
マグロ類のうちでは小型種に属し、体長約70cmになるが、まれに90cm近くある個体も採集される。

分布
大西洋西部の熱帯海域に生息し、メキシコ湾・カリブ海・ブラジル北東岸・バーミューダ島付近からよく採集される。マグロ類のうちでは比較的分布域が狭い。

付記
本種は西部大西洋の限られた海域に生息するので、日本ではまだなじみの少ない種類である。しかし、大西洋におけるマグロ漁場の開発がすすめば、日本の業者の眼にふれる機会も多くなり、また、日本の市場に出現する可能性もある。
小型の種類で、比較的眼が大きく、胸鰭も長いので、メバチやキハダの若魚との区別が困難なこともあるが、鰓耙数が少ない点で両者と見分けることができる。また、生時に副鰭が黄色くないことも本種の特徴となっている。

 
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