京都大学みさき臨海研究所特別報告別冊
Misaki Marine Biological Institute Kyoto University Special Report
No.2, pp.1〜51 February 20, 1965
岩井保・中村泉・松原喜代松:マグロ類の分類学的研究
IWAI, T., I. N and K. MATSUBARA: Taxonomic Study of the Tunas
キハダThunnus albacares 《BONNATERRE》
キハダはマグロ類のうちでもっとも多くのシノニームを含み、種名が長い間混乱していた種である(第5表)。最初の記録はSLOANE(1707)によって図示されたもので、標本はマデイラ島で採集され、Albacores or Thynniと記してある。この図をもとにしてBONNATERRE(1788)はScomber albacaresという種名を与え、これがキハダの原記載となった。つづいてLACÉPÈDE(1800)も同じくSLOANEの図とBONNATERREの原記載にもとづいてScomber albacorusを記載している。CUVIER(1831)は別種Thynnus argentivittatusを発表し、SLOANE(1707)の描いた種はScomber sloaneiとして取扱った。1839年になってLOWEはマデイラの標本をThynnus albacoraという名のもとに発表した。以来、キハダの種名は研究者により、T. albacares(あるいはalbacores)となったり、T. albacoraとなったりして混乱をひきおこすようになった。TEMMINCK and SCHLEGEL(1842)は日本産のキハダを別種と考え、Thynnus macropterusとした。その後、属名はThunnus、OrcynusあるいはGermoなどと変ったが、KISHINOUYE(1923)が新属Neothunnusに編入してからはN. macropterusは太平洋産のキハダの種名として長い間各国の研究者によって認められてきた。こうして、キハダも太平洋と大西洋とで種を分けられるようになったが、さらに各地で極地的な研究がなされ、何種かの新種が追加発表され、JORDAN and EVERMANN(1926)によれば世界のキハダは7種に区別されている。FOWLER(1933)によってタヒチから報告されたSemathunnus guildi は明らかに本種の異名である。また、イトシビ Neothunnus itosibi は JORDAN and EVERMANN(1926)によって、背鰭と臀鰭が著しく延長したキハダの老成魚につけられた種名であるが、かなり長い間、多くの研究者によって種として取扱われ、FOWLER(1928)はキハダをGermo macropterusとし、鰭が伸びてイトシビ型になったものをGermo albacoresとしている。しかし、両者が単なる成長段階の差によるもので、種的な差でないことは中村(1939b)によって指摘されている。
GINSBURG(1953)はJORDAN and EVERMANN(1926)の結果をいくぶん整理して、大西洋・太平洋の両洋をそれぞれ東西に分け、これら4海域にそれぞれ独立種を認め、キハダを4種に分けた。しかし、FRASER-BRUNNER(1950)が全世界のキハダを1種 Thunnus albacoraとしてからはしだいに全世界のキハダを1種として取扱う研究者が多くなってきた。現在では種名としてThunnus albacaresが多く用いられている(RIVAS 1961;COLLETTE 1962;COLLETTE and GIBBS 1963)。
日本産のキハダの学名としては、TEMMINCK and SCHLEGEL(1842)はThynnus macropterusを、北原(1897)はOrcynus macropterusを、JORDAN and SNYDER(1901)はGermo macropterusを、JORDAN、TANAKA and SNYDER(1913)や岸上(1915)はThunnus macropterusを、KISHINOUYE(1923)、JORDAN and HUBBS(1925)、岡田・内田・松原(1935)、岡田・松原(1938)、蒲原(1941)および中村(1949)はNeothunnus macropterusを、蒲原(1955)、松原(1955)、冨山・阿部(1958)および阿部(1963)はNeothunnus albacoraをそれぞれ用いている。
●種の記載
呼称 キワダ;スゲナガ(静岡);イトシビ(三重・和歌山・四国);シビ(関西);オオイトシビ(関西);キワダマグロ(東京);キンヒレ(宮崎);ホンハツ(四国);キハダッコ;キメジ(関東・関西)
Yellowfin tuna(オーストラリア・カナダ・フィリピン・南アフリカ・米国);Yellowfin albacore(セイロン);Atún de aleta amarilla(メキシコ・チリ・スペイン);Thon à nageoires jaunes(フランス);Gelbflossen Thun(ドイツ);Sooca(インド);Желтохвостый тунец(ソビエト)。