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世界のかじき類の漁業とその資源について |
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魚住雄二(うおずみゆうじ 遠洋水産研究所浮魚資源部)
かじき類の漁業及びその資源状態について概説した。かじき類の漁獲は、まぐろ類のそれに比べ安定して推移しており、この25年間で3割増大し、14万トンとなっている。資源状態は、太平洋及びインド洋のメカジキを除いて、MSYを与える資源水準を下回っている種類が多く、早急な管理体制の確立が望まれる。
※この論文は1994年9月5日、東京大学海洋研究所講堂において開催されたシンポジウム「カジキ類の分類・生態・資源・漁業」(コンピーナー:中村泉)において発表されたものです。なお同シンポジウムで発表された論文は、月刊海洋/vol.27、No.2、1995にとりまとめられています。バックナンバー等のお問い合わせは月刊海洋(住所:東京都日野市三沢3丁目45-9 TEL:0425-94-2654)まで。
1.はじめに
かじき類は、まぐろ類と共に古くから利用されてきた。その分布や漁法、利用形態がまぐろ類と類似することから、まぐろ・かじき類として一括して扱われることが多い。しかし、分類学的にも生態学的にもかじき類は、まぐろ類と一線を画する別グループであることは間違いない。かじき類でも、マカジキは、日本では1番価格も高く刺身材として利用されているが、メカジキはそれ程でもない。一方、西洋では、メカジキは、かじき・まぐろ類の中で、ビンナガと肩を並べて珍重されている。このように、かじき類と一括しても、種類によって、そして、国によってその価値は様々である。
ここでは、世界のかじき類の漁獲の現状、そして資源の現状を極めて大まかにレビューした。世界の漁獲統計についてはFAOのYear Book、日本の漁獲統計については農林統計を主に用いた。また、資源の現状については、多くの論文を参考にして整理したが、開発状態などについては、一部筆者の個人的判断も加わっていることを前もってお断りしておく。 |
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2.世界の漁獲量
かじき類の全世界の漁獲量は比較的安定して推移しており、1960年代後半10〜11万トンから1991年の14万トンと3割強程度しか増大していない。大洋別のかじき類の国別漁獲量の変遷を見てみる(図1)。
太平洋の漁獲は、1980年代後半までを6〜7万トンで比較的安定して推移していたが、近年やや増大傾向にある。主要な漁獲国は、日本、台湾で、韓国、フィリッピン、チリーが続く。
インド洋では、1960年代後半より総漁獲量は、急速に減少した。しかし、1970年代後半より再び増大し、近年では1万2〜3000トン前後が漁獲されている。1970年代後半までは、日本と台湾で漁獲のほとんどを占めていたが、それ以降、スリランカ、パキスタンなどによる漁獲が急増している。しかし、他の2大洋に比べると、漁獲水準は極めて低い。
大西洋(地中海を含む)における漁獲は、1980年代までは、2万トン前後で安定して推移したが、その後急速に増大し近年では約2倍の4〜5万トンを漁獲している。主要漁獲国は、他の2大洋と異なり、スペイン、イタリア、アメリカなどが上位に入っており、日本や台湾による漁獲割合は少ない。
図2に大洋別の漁種別漁獲量の変遷を示した。なお、図に示したクロカジキについては、その中にシロカジキの漁獲が含まれている場合もある。また、その他の中には魚種込みで報告している国の漁獲も含まれている場合が多い。
太平洋の場合、メカジキ、マカジキ、クロカジキ類の3種がそれぞれ25〜30%前後を占め、大きな偏りはない。しかし、近年は、マカジキの減少とそれに反して、メカジキ及びクロカジキ類の増大傾向が見られる。インド洋についても3種増大傾向が見られる。インド洋についても、3種がほぼ同じ割合で漁獲されている。その他のかじき類が多いのは、多くの国が魚種込みで報告している場合が多いからである。大西洋は、他の2大洋と異なり、メカジキの割合が圧倒的で、近年では85%以上を占めている。そして、大西洋における漁獲の増大はメカジキの漁獲増であることが分かる。
漁法別の漁獲量は、やはりはえなわが圧倒的で、8割以上を占める。特に大西洋及び太平洋については、はえなわの割合が高い。しかし、インド洋では、日本及び台湾についてはほとんどがはえなわであるが、近年漁獲を増大させているスリランカやパキスタンなどは流し網による漁獲が多いのが特徴である。 |
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図1 かじき類の大洋別国別漁獲量(FAO統計より) |
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図2 かじき類の大洋別魚種別漁獲量(FAO統計より) |
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1)メカジキ
大西洋ではICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)によって資源研究が精力的に行われている。詳細については、中野(1995)を参照されたい。北大西洋の資源は、歴史的に多くの国によって積極的に利用されてきた資源で、乱獲状態にあると推測されている。そのため、ICCATは1991年より、漁獲量及び漁獲体長に関する規制を導入した。南大西洋のメカジキについては十分な資源評価は行われていない。しかし、日本のはえなわの標準化されたCPUEは減少傾向を示している。近い将来、ICCATによって資源評価される予定である。地中海資源については、ほとんど情報がないが、漁獲量が北大西洋に匹敵する量にまで達していること、1部の国のCPUEが1975年以降低下していること、漁獲物体長組成に小型化傾向が認められることなどから、要注意と考えられている。太平洋については、現在CPUEの傾向から、4系群説をとる場合がある。中野(1995)によると北西太平洋系群が最も開発が進んでおり、現在、MSYレベルに達している。他の系群については、CPUEの傾向から資源には余裕があると考えられる。インド洋については、ほとんど資源状態に関する情報はなく、Nominal CPUEに顕著な変化が見られないことから、資源にはまだ余裕があると考えられている(Silas, 1990)。 |
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2)ニシマカジキ
南北2系群としてICCATでは扱われている。これらについては、1992年のICCATのシンポジュームや同年の年次会議の中で資源評価が行われた。しかし、資源評価に用いられる資料としては各国の標準化されたCPUEシリーズ以外に定量的に扱える資料はなく、これらのCPUEシリーズを用いて非平衡条件下のプロダクションモデルによる解析が行われた。北大西洋では日本及び台湾のはえなわのCPUEに加えアメリカ及びベネズエラのスポーツフィッシングのCPUE、一方、南大西洋では日本、台湾、ブラジルのCPUEが用いられた。その結果は、あまり良い解は得られていないが、両資源ともその資源量はMSYレベルを下回っていることが示された。しかし、北の資源については、近年、漁獲死亡係数が減少しており、やや回復傾向にあることが示されたが、南の資源については、漁獲死亡係数の増加が観測され、資源量の引き続く低下が懸念されている。 |
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3)マカジキ
インド洋のマカジキについては、資源構造を明確に示唆するような資料は得られていない。1970年代後半のプロダクションモデルによる解析以降、資源解析は行われていないのが現状である。これらの解析によって得られたMSYは3500トンで、1960年代中頃にMSYを越える漁獲があったが、70年代に入って以降、漁獲水準は、MSYレベルを大きく下回っている。近年の資料を用いた資源解析がないため、現状は不明であるが、70年代以降の漁獲水準から見て、資源はMSYレベル以上にあると推測される。
太平洋のマカジキは、外部形態や産卵場の位置から南北2系群説が現在とられている。各資源の状態については、魚住(1995)によると、北太平洋系群では、漁獲死亡は、1960年代後半にMSYを与えるレベルを越え、それ以降、変動はあるもののMSYを与えるレベルを下回ることはなかった。その結果、資源水準は1980年代中頃よりMSYを与えるレベル以下となった。しかし、漁獲死亡はその頃より減少し、資源水準はMSYを与えるレベル周辺で推移するものと予想される。一方、南太平洋系群は北の系群とほぼ同様の傾向を示すが、近年の漁獲死亡の減少は認められず、更に資源が減少すると予想されている。 |
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4)ニシクロカジキ
ニシマカジキ同様、1992年のICCATシンポジューム、そして、年次会議の中で資源評価も行われた。本資源も大西洋南北2系群として取り扱われている。本種についても、各国の商業漁業及びスポーツフィッシングにCPUEを用いてプロダクションモデルによる解析が行われた。北大西洋系群は、MSYが約1800トンで、1960年代中頃から既に資源はMSYレベル以下になっているという結果となった。その後も低いレベルで推移しているが、近年の漁獲死亡の低下により、資源は回復傾向を示している。南大西洋系群のMSYは約1300トンで、資源の傾向は北の系群とほぼ同様である。しかし、近年、漁獲死亡が急増しており、資源水準の低下も近年著しいものがある。 |
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5)クロカジキ
インド洋及び太平洋とも、産卵場及び水域別のCPUEの傾向から、各大洋にそれぞれ単一の資源があると考えられている。インド洋系群については、1980年初めにプロダクションモデルによる解析が行われ、MSYは1300トンと推定されている。最近年の状態を知る資料はないが、漁獲量が、近年増大傾向にあるものの、1970年以降、500〜2500トンとMSYレベル以下で推移していることから、資源水準は、MSYレベル以上にあるものと推測される(Silas, 1990)。
太平洋については、日本のはえなわのCPUEを用いて行われたプロダクションモデルによる解析によると、資源は減少を続け、漁獲水準は、1980年代以降はMSYレベルを越えた(魚崎、1995)。 |
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6)シロカジキ
本種の資源構造については、インド洋、太平洋とも不明な点が多い。現在、インド洋及び太平洋については、便宜的に各々1系群として扱われている。インド洋の資源状態については、やはり1980年代初期のプロダクションモデルによる解析があるのみで、その結果によるとMSYは約1500トンとされている。近年の状態を知る資料はないが、近年の漁獲水準がMSYレベルかそれをやや上回る水準にあるため、資源は、MSYレベル前後にあると推測される。
太平洋系群については、MSYは推定されていない。しかし、日本のはえなわの標準化されたCPUEの傾向は、多少の変動はあるものの、1950年代当初より減少傾向が継続している。そして、現在のCPUEが1960年代の約30%にまで低下していることを考えれば、乱獲状態になっている可能性が高いと考えられる。 |
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7)バショウカジキ及びフウライカジキ類
バショウカジキ及びフウライカジキ類については、日本、台湾などの主要遠洋漁業国のはえなわ統計が、魚種別に扱われておらず、これらを一括して扱っている。沿岸に分布するバショウカジキ類は、スポーツフィッシングを含めた沿岸の統計もある程度はあるが、沖合域に分布するフウライカジキ類については、その漁獲統計さえないのが現状である。以下に述べる資源については、このような漁獲統計の現状から、資源ごとの状態について不明な点がはなはだ多い。しかし、日本の漁獲統計は、1993年より改善され、バショウカジキ、フウライカジキの漁獲量を種ごとに報告するようになった。今後、これら2種の漁獲割合などを検討することによって、近年のバショウカジキ、フウライカジキ類の資源動向をより明確にすることが可能となろう。 |
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8)ニシバショウカジキ
ICCATでは、本種は東西2系群と考えられている。東系群については、MSYレベルに開発は達していないとの評価であった(ICCAT, 1993)。しかし、近年の漁獲量の増大、セネガルのスポーツフィッシングのCPUEの近年の減少傾向などを考慮するとMSYレベルかそれ以上の開発が現在行われている可能性がある。西系群については、MSYは約650トンと推定された。漁獲死亡は、1960年代中頃より徐々に増大し、1970年代以降は、MSYレベルを超える漁獲が断続的に行われた。その結果、資源は70年代中頃よりMSYレベルかそれ以下の水準になったと推定されている。なお、これらの資源評価に用いられたCPUEシリーズの主たるものは、日本のものであり、上述した統計上の問題から、これらの資源評価の結果は、バショウカジキのみの資源変動を表わしているとは考えにくい。 |
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9)バショウカジキ
インド洋の系群構造については不明である。また、資源状態については、遠洋漁業国の漁獲が200海里宣言によって減少した反面、沿岸国による漁獲が急増している。MSYは、1979年の漁獲レベル(1200トン)よりは上にあると予想されていたが、現在の漁獲水準は、バショウカジキとして報告されたもののみでも約2300トンとなっており、資源状態については、少なくともMSYレベルに達しているのではないかと予想される。今後、資源評価を早急に行う必要性がある。
太平洋については系群構造及び資源状態とも不明である。 |
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10)フウライカジキ
フウライカジキは、バショウカジキに比べ外洋域に分布するため、沿岸漁業によってはほとんど漁獲されない。そのため、資源評価に用いられる資料は、外洋で操業する主として日本、台湾などの遠洋はえなわ漁業のものに限定される。そのため、フウライカジキの漁獲量さえ把握できないのが現状である。従って、全大洋のフウライカジキの資源状態は不明である。 |
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4.資源管理
まぐろ類については幾つかの国際資源(管理)機構が存在している。太平洋では、東部太平洋に全米熱帯まぐろ委員会、中部太平洋にフォーラム漁業機関、インド洋ではインド洋・太平洋まぐろ類開発管理計画、そして、大西洋の大西洋まぐろ類保存国際委員会などである。これらの機関は、多くの場合まぐろ類のみならず、かじき類についても調査・研究が行われている。しかし、現在、調査・研究の結果を受けて実質的な規制を行っているのは大西洋のメカジキのみである。もちろん、一部の資源は未開発状態で漁業規制を行う必要が認められないものもあろうが、前述したように表1を見れば多くの資源が、何らかの形で管理が必要な状態になっている。このように、国際管理機関によるかじき類管理は、まぐろ類より1歩遅れていると言う感は否めない。
一方、沿岸国による管理・規制は、200海里宣言の影響も受け、多数存在している。すべてを網羅することはできないが、一部の例を以下に挙げる。オーストラリアでは、商業漁業に対して、メカジキを除くかじき類の漁獲は禁止されている。また、ニュージーランドでは、一般漁船のかじき類の船内保持の禁止と標識放流の義務づけが行われている。米国では、スポーツフィッシングに対しては、クロカジキ、マカジキ、バショウカジキについて水揚げの体長規制、商業漁業に対しては、船内保持の禁止及び米国内での商取り引きの禁止などの措置を取っている。メキシコでも、沿岸50海里内における商業漁獲の禁止、国内でのかじき類の商取り引きの禁止などが行われている。更に、ベネズエラでも、一部の水域での商業漁業の禁止などの措置がとられている。これらの規制は、もちろん資源保護の意図も充分あるのであろうが、その主要な目的は、スポーツフィッシングと商業漁業間のトラブルの調整、より明確に言えば、スポーツフィッシング保護のための、商業漁業の締め出しを意図している。
1994年の秋に国際海洋法条約が発効した。それを受けて、現在かじき類を含む高度回遊性魚類の管理について国連で多くの議論が行われている。現在、沿岸国と遠洋漁業国との間で意見の対立があり、結論に達するにはまだまだ多くの時間と議論が必要であろう。しかし、高度回遊性魚類の管理については、国際的な統一した管理の必要性についてはコンセンサスができているのであるから、できる限り早い時期に、かじき類の合理的な管理体制を確立する必要があろう。また、かじき類については、スポーツフィッシングと商業漁業との対立と言う側面も存在する。両者の間では、その理想とする資源水準も異なり、管理目標も両者の間では自ずと異なるものとなってしまう。これらを調和させ、共存させるためには、今後、更に広範な議論が必要であろう。
<参考文献>
[1]Cramer, J. and M. H. Prager:Refinements in exploratory surplus-production analyses of Atlantic blue marlin. ICCAT SCRS/ 92/ 128, 11pp(1992).
[2]Farber, M. I. and C. D. Jones:An exploratory stock-production model analysis of white marlin (Tetrapterus albidus) in the atlantic Ocean. ICCAT SCRS/ 92/ 129, 29pp(1992).
[3]ICCAT:Report for biennialperiod, 1992-93 Part 1(1992), 375pp(1993).
[4]Silas, E. G.:Trends in the Fisheries for billfishes in the Indian Ocean. in "Planning the future of billfishes, research and management in th 90s and beyond" ed. by R. H. Stroud. National Coalition for Marine Conservation, Inc., 81-88(1990).
[5]Suzuki, Z. :Catch and fishing effort relationships for striped marlin, blue marlin, and black marlin in the Pacific Ocean, 1952 to 1985. In "Planning the future of billfishes, research and management in th 90 s and beyond" ed. m by R. H. Stroud. National coalition for Marine Conservation Inc., 165-177(1990).
[6]魚住雄二:太平洋のマカジキ資源, 海洋(1995).
[7]魚崎浩司:太平洋クロカジキ資源, 海洋(1995).
[8]中野秀樹:太平洋・大西洋のメカジキ資源, 海洋(1995). |
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