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カジキの類の幼期の形態と生態
 

上柳昭治(うえやなぎしょうじ 東海大学海洋学部)

海洋の生態系の中で、魚類として栄養段階の最上位グループに属するカジキ類は、幼期の形態変化が著しく、頭部、眼径、口裂等の大きい仔稚魚の形態は、“魚食性―成長促進”型の生活史戦略の典型として示される。

※この論文は1994年9月5日、東京大学海洋研究所講堂において開催されたシンポジウム「カジキ類の分類・生態・資源・漁業」(コンピーナー:中村泉)において発表されたものです。なお同シンポジウムで発表された論文は、月刊海洋/vol.27、No.2、1995にとりまとめられています。バックナンバー等のお問い合わせは月刊海洋(住所:東京都日野市三沢3丁目45-9 TEL:0425-94-2654)まで。

1.はじめに

カジキ類の幼期が明らかになったのは、以下のようなマグロ類の初期生活史が解明されて来た事情と軌を一にしている。
第2次大戦後、日本のマグロはえなわ漁業が急速に発展し、年々操業範囲を拡げて1965年頃には、マグロ類の全分布範囲がはえなわ漁場としてほぼカヴァーされるに到ったが、漁業の発展に伴い資源調査の一環として、この漁業に関係する全国の水産試験場の試験船や水産高校の実習船により、国の水産研究所を中心に組織的な協力体制がつくられ、広範な海域から年々大量の仔稚魚採集標本が集められて来た(上柳、1994)。
カジキ類仔稚魚の採集量はマグロ類に比べてオーダーを異にして少ないが、カジキ類の産卵域をカヴァーする広範な海域から資料が得られ、各種類の仔稚魚が同定され、産卵域がほぼ画定された。
マグロ類では最近、親魚養成、初期飼育等の方法により、産卵、初期生態の知見が加えられつつあるのに対して、カジキ類ではこういうアプローチは難しいが、カジキ類幼期の特徴的な形態や最近得られた幼期の食性や成長に関する知見について紹介する。

2.カジキ類の幼期の変態―その意義と特徴

カジキ類のうちメカジキだけは、成熟卵の卵径が約1.6mmと海産魚の中では大きな卵の部類に属するが、マカジキ科のものでは全て卵径は1mmを僅かにこえる程度である。従って、ふ化仔魚は体長3mm前後と小さく、この段階では科内はもとより、他の魚類との識別も難しい。
卵黄を吸収して後期仔魚になる頃には頭部が大きいカジキ類の特徴が現れる(図1)が、筋節数(脊椎骨数に相当する)の他は、種的な形態的形質は発現せず、同定困難である。しかし、以下のように、この段階以降の形態変化は著しい。

ここではクロカジキについて例示した(図1)が、カジキ類の仔稚魚の形態は、頭部が大きく、眼径や口裂が大きいことに加えて、後頭部と前鰓蓋骨縁の棘状化が顕著な特徴である。また内臓部も大きい。これらの形態的特徴は後期仔魚期を通じて発達するが、体長約20mmで、各鰭が形成されそれらの鰭条数が種の定数に達する稚魚期には、頭部の棘化は頂点をこえて、相対的に退縮の傾向を示す。この稚魚期の形態として特徴的なのは、非常に高い背鰭を持つことであり(図1)、これはシロカジキを除くカジキ類(バショウカジキ、フウライカジキ、マカジキ等)に共通している。また、仔稚魚の体背面から体側にかけて体表に黒色素胞の発達が顕著なことも、メカジキを含めた全てのカジキ類に共通した特徴である。

海産魚類の仔稚魚の多様な形態とその機能について、適応的な観点から論じたMoser(1984)の考察を参考として、カジキ類の幼期の形態と機能について以下のような関連が想定される。


図1 カジキ類仔稚魚の形態。上より、クロカジキ後期仔魚(全長2.9mm)、同(4.5mm)、稚魚(23.2mm)、バショウカジキ稚魚(23.5mm)(上柳、1963より)
 

小卵、多産という一般的な海産魚の性質を持つカジキ類が、幼期に、際立って眼径や口裂が大きいことは、すぐれて捕食的(predatory)な性格の発現が早いことを示している。仔稚魚にとって餌となる微小な動物プランクトンが多いのは、海洋表層域であるが、そこでは日中、強い紫外線照射により、体表面に黒色素形成の少ない仔稚魚は致死的な影響を受けることになる。カジキ類の仔稚魚の体表の黒色素形成が進んでいるのは、適応的な意味を持つものと考えられる(図1)。また、海洋表層域にはカジキ類の仔稚魚にとっての餌生物が多いとともに、捕食者も多い筈である。カジキ類の仔魚の頭部の棘状化、すなわち、後頭部や前鰓蓋骨縁の棘の伸長により、鰓蓋を拡げた場合異常に大きな頭部の外観を呈することになり、捕食者に対する被食抵抗の機能として働くように考えられる。稚魚期には相対的に頭部の棘状化は退縮するが、立てれば体高の約1.5倍と高い背鰭(通常は背鰭基底部の鞘にたたみこまれている)が、やはり捕食者に対する抗被食の適応的な意味が示唆される。シロカジキの稚魚は高い背鰭を持たないが、本種にユニークなものとして、体側から直角に水平状に伸びる発達した胸鰭の形態が、同様な機能を持つのではないかと推測される。なお、このような胸鰭の構造が、体の安定化に機能する可能性(シロカジキの仔稚魚が棲息するのは浅海のリーフ近傍のような海水の流動の大きい水域であるため)も考えられている。

以上のようなカジキ類の幼期の特徴的な形態と推測される機能は、Moser(1984)がサバ型魚類の生残戦略として類型化した“large prey-fast growth”strategy、すなわち、大きな餌を摂り、早く成長して、捕食され易い期間を短縮するという生残戦略の典型として示される。

伸長した吻はカジキ類を最も特徴づける形態的形質であるが、幼期における吻の形態には種類により、長、短がみられ(図1)、この形質については、前述のような幼期における適応的な意味は見いだし難い。以下のように、吻の形態の成長に伴う変化は、個体発生における再演的変態とみなされる(上柳・沖山、1979)。
図2は、マカジキ科魚類の吻長/体長(この体長は眼窩後縁から尾叉端までの長さ)の個体発生を通ずる変化を示したものである。仔魚期を通じて吻は伸長し、稚魚期にはクロカジキ属では吻長/体長は20%程度となるが、その他のカジキ類では30%に達する。以降、両者でこの値の変化の傾向が異なり、前者では若魚期にこの値が個体発生を通じて最も小さく、後者では最も大きい値を示す二つのタイプに分けられる。成魚の形態に基づく分類学的研究結果との対応や、成魚において特に吻が短小なフウライカジキが幼期において最長の吻を有することなどから、吻についての変態過程は、カジキ類の類縁系統関係を反映することが示唆される(上柳・沖山、1979)。
 
図2 マカジキ科魚類の吻長/体長の個体発生を通ずる変化(Ueyanagi, 1973より)。1,2,3,4の曲線はそれぞれフウライカジキ、バショウカジキ、マカジキ、クロカジキ(インド・大平洋)を示し、×印、黒丸、黒三角、白丸は、それぞれ大西洋のニシバショウカジキ、クチナガフウライ、ニシマカジキ、ニシクロカジキを示す。体長は眼窩後縁より尾叉端までの長さを示す
 

3.カジキ類の幼期の生態

1)鉛直分布

稚魚網による表層(0〜2m)、次表層(20〜30m深)の同時水平曵採集の結果、昼間には表層での採集が卓越するが、夜間には表層と次表層で出現率がほぼ等しくなる傾向が認められ、カジキ類の仔稚魚が表層分布型であることが知られている。しかし、さらに詳細な鉛直分布の調査が、オーストラリアの大堡礁水域で行われ(Leis et al., 1987)、以下のような結果が得られた。ニューストンネット(表面曵)と、ボンゴネットによる0〜6m、6〜13m、13〜20mの3層の開閉式傾斜曵採集の結果、preflexion larvae(脊索末端の上屈前の仔魚)は、少なくとも昼間には、表層に多く分布するが表面では採集されず、しかし、postflexion larvae(脊索末端上屈後の仔魚)は表面で採集された。尾鰭が形成された段階で仔魚は上方へ移動し表面にも分布するようになると考えられるが、この時期には仔魚の体表面の黒色素胞形成が進んでいるので、このことも関係している(前述した理由で)ものと推測される。

2)食性

魚谷、他による研究(未発表)により、以下のような、クロカジキの仔魚の食性に関する知見が得られている。
仔魚は成長に伴い口径が増大するが、全長約3mmから15mm程度までの仔魚の口径/全長の値の成長に伴う変化についてみると、全長3mmから6mm位までこの値は増加するが、全長7mm前後で口径が全長の3.5割に達すると、以降はこの値に保たれる傾向がみられる。成長に伴う捕食率(摂餌個体数/調査個体数%)の変化も、口径/全長の場合によく対応している。仔魚の消化管内容物は、動物プランクトンよりなり、出現個体数組成(表1)で、かいあし類(Copepoda)のCorycaeus属と枝角類のEvadne属の出現率が卓越しており、それに魚類稚仔が続く。Corycaeus属とEvadne属の体長は1mm以下で、魚類稚仔の体長は3mm以上である。図3は、仔魚の成長に伴う飼料内容の変化を示しており、全長6mm以下ではCorycaeusが卓越するが、成長に伴いCorycaeusの割合は減少し、全長15mm前後では、10%程度となる。Evadneは、仔魚の全長範囲にわたり、30〜40%の割合を占めている。一方、魚類稚仔は、仔魚の全長6〜7mm位から出現し、成長とともに割合を増し、全長15mm前後では50%に達し、魚食性の傾向が明瞭となる。

  図3 クロカジキ仔魚の餌料組成の成長に伴う変化(魚谷他、未発表)
 
表1:クロカジキ仔魚の消化管内容物調査結果(魚谷、他、未発表)
 
● 出現個体数 ● 出現率(%)
●COPEPODA
 Rhincalanus
 Clausocalanus
 Pontella
 Oncaea
 Copilia
 Corycaeus
 nauplius
 Unidentified
1
2
9
3
2
2871
1
1
0.02
0.03
0.15
0.05
0.03
49.15
0.02
0.02
小計 2890 49.47
●OTHERS
 Radiolaria
 Evadne
 Podon
 Appendicularia
 Fish larvae
1
2181
6
8
755
0.02
37.34
0.10
0.14
12.93
小計 2951 50.53
合計 5841 100.00
 
3)成長

図4 バショウカジキの仔稚魚の分布。NECCは北赤道反流域(上柳、1974より)
 
図5 大西洋のニシクロカジキの幼期の成長-日齢(耳石の日輪数)と体長の関係。体長は下顎先端より尾叉端までの長さを示す(Prince et al., 1991より)
 

カジキ類の仔稚魚期の成長についての研究はほとんどないが、バショウカジキの初期成長については、以下のように、産卵後3〜4週間で体長10〜20mmに達する程度のものと推定されている。図4に示したように、本種の仔稚魚の出現分布は陸寄りの水域に限定される性格を持ち、赤道海域における沖合水域での出現は北赤道反流域のみからであることから、これらは西方の産卵場から移送されたものではないかと考えられる。この仮定の下に、移送距離を133°E〜151°Eとし、流速1.7〜1.8ノットとすると、上記のような推算結果となる。
最近、耳石の日輪に基く年齢査定の研究が大西洋のニシクロカジキについて行われ、図5のような結果(耳石日輪数と体長の関係)が得られた(Prince et al., 1991)。初期成長率は低く、上記のバショウカジキの場合と同様であるが、稚魚期から若魚期にかけての成長率が著しく、ふ化後約100日までの平均成長率は約10mm/日と大きい。図中の曲線は、100日までの成長にゴンペルツの成長式、100日以降はベルタランフィーの成長式をあてはめたものであり、この成長曲線に基づけば、生後1年で約170cmの体長(下顎先端より尾叉端までの長さ)に達することになる。カジキ類の若魚期の成長率が大きいことは確かなことと考えられるが、なおこの方法による成長率の検討は進められる必要があると思われる。

4)若魚の食性

体長約数cmから30cm程度のカジキ類若魚の効率的な採集方法が無いため、若魚期についての知見は乏しい。これらの若魚はマグロ類やカジキ類の胃内容物として出現し、また稀にトローリングのルアーで釣られたり、夜間照明下に遊泳して来たところをタモ網で採集されるなどして、シロカジキを除き全種のカジキ類の若魚の形態が明らかになった。少数例による知見であるが、クロカジキ若魚の胃内容物は魚類とイカ類であり、カジキ類幼魚も出現し、共喰いの食性が窺われる。また、若魚の鰓腔内にコバンザメの幼魚がみとめられたことから、幼期の段階より両者の共存関係が生ずることが想定される。

4.カジキ類の産卵場


図6 シロカジキの仔稚魚の出現状況。黒丸は採集位置を示す(西川・上柳、1992より)
  仔稚魚の出現分布より想定されるカジキ類の産卵場については、非常に広範なものから、かなり限定された性格のものまで多様であり、これはマグロ類の場合(上柳、1994)に類似する。クロカジキの熱帯、亜熱帯水域に及ぶ広範な産卵域、マカジキの場合の北太平洋、南太平洋の亜熱帯環流域内の産卵域は、それぞれ、マグロ類のキハダとビンナガの産卵域に相当し、バショウカジキの沿岸寄りの産卵域の限定的な性格(図4)は、クロマグロやミナミマグロの場合に相応する。シロカジキの産卵場(図6)は他のカジキ類と異なり、産卵が特に浅海域で行われるコシナガの場合に類似して、主産卵場は、珊瑚海の大堡礁の浅海域と想定されている(Leis et al., 1987)。
 
終りに、本論のために快く未発表資料を使わせていただいた東海大学海洋学部魚谷逸朗教授に深謝の意を表する。
 

<参考文献>

[1]Leis, J. M., B. Goldman amd S. Ueyanagi:Distribution and abundance of billfish larvae(Pisces:Istiophoridae)in the Great Barrier Reef Lagoon and Coral Sea near Lizard Island, Australia. Fish. Bull., U. S., 85,757-765(1987).
[2]Moser, H. G. :Morphological and functional aspects of marine fish larvae. In Lasker, R.(edited). Marine Fish Larvae. Morphology, Ecology and Relation to Fisheries. University of Washington Press. pp. 131(1984).
[3]西川康夫・上柳昭治:シロカジキ Makaira indica の稚仔について. 遠洋水研報、(29), 1-7(1992).
[4]Prince, E. D., D. W. Lee, J. R. Zweifeland E. B. Brothers:Estimating age and growth of young Atlantic blue marlin Makaira nigricans from otolith microstructure. Fish. Bull., U. S. 89,441-459(1991).
[5]上柳昭治:クロカジキの若魚. 南海水研報, (6), 91-102(1957).
[6]上柳昭治:印度・太平洋のカジキ科魚類5種の仔稚魚期における識別について. 南海水研報、(17), 137-150(1963).
[7]Ueyanagi, S.:Present state of billfish larval taxonomy. In The Early Life History of Fish.(ed. J. H. Blaxter). Springer Verlag, 649-658(1973).
[8]上柳昭治:バショウカジキの初期生態、特に海流による仔稚魚の移送について. 遠洋水研報、(10),189-191(1974).
[9]上柳昭治:マグロ類の産卵、初期生態. 海洋、26(9)、534-539(1994).
[10]上柳昭治・沖山宗雄:魚類稚仔の形質と系統-サバ型魚類-. 海洋、11(2)、93-99(1979).
[11]魚谷逸朗・高津進司・西村茂樹・西川康夫(未発表):クロカジキ仔魚の食性.

 
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