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ビッグゲームを取り巻く環境と制度について( 7 )
 

レジャーによる漁港設備の使用

今回は、前回ご紹介したカジキ釣り大会や遊漁、プレジャーボートなど、海のレジャー(海洋性レクリエーション)が漁港設備を使用することの意味について、少し考えてみたいと思います。

漁港設備設置の意義

漁港には、堤防、防波堤や岸壁、係船岸などのほか、陸上には製氷施設、冷凍・冷凍庫、市場、下水処理場、管理棟など様々な設備があり、漁業操業の為のインフラストラクチャーとして、重要な役割を果たしています。これらの設備は地元漁協の出資により作られる場合もありますが、特に大きな事業は国・県などの行政からの公費支出(税金)により作られます。農林水産省や各都道府県には漁港課、漁場整備課、といった部署があり、税金を有効に漁港設備の造成に使用するため計画・立案・実施を行っています。
以前はこれらの施設の設置はあくまで「漁業のための施設」として位置づけられ、主に食料生産業としての「漁業の振興」が目的でした。よって、たとえば漁港の防波堤で釣りをすることは決して釣り人の権利ではなく、漁業のための施設としての防波堤が設置されたことによりもたらされた「反射的利益」として位置づけられてきたのです。
反射的利益とは法律用語の1つで、「法令が、行政庁と私人との関係について命令、制限、禁止等の定めをしている場合、そのことの反射として第三者が事実上の利益を受けること」をいいます。上の例で言えば、防波堤で遊漁者が釣りをすることから得られる利益は権利に基づく利益ではなく、単に事実上享受しているに過ぎない利益なのです。よってその利益を侵害された場合も法的な救済手段に訴えて利益の回復を求めることはできません(こうした「反射的利益論」は近年、徐々に克服されつつあります。そしてそのことが今後の遊漁者の法的地位について本質的な変化をもたらすと考えます。この点については稿を改めてご紹介したいと思います)。
しかし2001年の「水産基本法」の制定に伴い、近年はこうした関係に大きな変化が現れてきています。海岸は、古くから地域社会において祭りや行事の場として利用され、地域文化の形成や継承に重要な役割を果たしてきました。そして近年は、一般市民のニーズの高度化、多様化に対応して、漁港・漁場はレジャー・スポーツ・体験活動などの場としても適正に利用されることが求められるようになってきたのです。

行政支出の構成

さて、次に漁業関連予算の構成について少し見てみたいと思います。通常の漁業の経済分析では最もシンプルな場合、当該地域の漁業操業によって得られた収入(水揚げ金額など)と漁業の操業に必要な支出(漁具・漁船等の費用や燃料費・人件費など)を測定し、その比較によって経済性を評価します。しかしこの分析は、個々の漁業経営者、あるいは経営者のグループの経済分析を行っているに過ぎません。実際の漁業操業には、こうした漁業者らによる支出以外にも、漁業協同組合による支出や、行政による支出があります。よって、何か新たな政策を提言する際には、それら全体のコストを考慮した上での評価を行う必要があります。いわば、漁業者以外に行政主体・漁協も含めた“連結決算”的な分析をおこなわないと、新政策が社会的に見て本当に効率的なものであるかどうかはわかりません。このような見地からの分析は、政策研究の分野では「取引費用分析」と呼ばれます。
行政の支出構成について神奈川県の具体例を示します。神奈川県の沿岸・沖合漁業の年間漁業生産高は約90億円(遠洋漁業もほぼ同額の生産がありますが、県ではなく主に国により管理されています)、3800隻近くの船が登録されています。これらの漁業に対して、平成15年度は総額約60億円の県予算が漁業関連行政に使われています。その内訳を示したものが下の円グラフです。一番上の研究・情報コストは、県の水産試験場等での研究活動です。2番目の執行・監視コストは、県による監視の為のコストです。神奈川県の場合、34tの監視船が一隻あるのみです。このような監視コストの顕著な低さは、世界的に見るときわめて特殊な(驚くべき)ことです。3番目の意思決定コストとは、漁業調整委員会や県審議会の運営費用です。4番目の維持・増殖コストとは、栽培漁業・放流事業等の予算です。下から二番目は、行政から漁協への財政補助に相当します。

 
 

この図をみて一番にわかることは、インフラ整備(漁港整備)の予算が極端に大きな割合を占めているということです。実に県予算の7割以上を占めており、その額は沿岸・沖合生産高の約50%に相当します。こうした税金の使い方の是非、そしてその税金の流れ(誰が恩恵をこうむっているのか)については現在学会でも議論が続いています。(行政庁内部には永田町同様に特殊な行動原理が働いており、効率化の為には単に予算を削減すればよいという単純な問題ではありません)。とにかく明らかなことは、我々の税金の大部分が漁港・漁場整備に使われているということです。

今後の展望

2001年に制定された水産基本法では、その目的である水産業の健全な発展を図るための施策として、「都市と漁村の交流」をひとつの柱としています。そしてインフラ整備の性質は、これまでのような「漁業のため」だけの漁場・漁港整備ではなく、一般国民の水産業及び漁村に対する理解と関心を深め、健康的でゆとりのある生活ができるようにするため、そしてまた、漁村地域経済の発展のために、さまざまな施設の整備を推進するという性格に変わってきました。最近各地でみられるフィッシャリーナ事業はその最先端の試みといえます。こうした取組みは今後の地域漁業の生き残りのためにも重要なのですが、同時に国民全員の海をいかに有効に活用するか、そして国民の税金をいかに有効に活用するか、というより大きな枠組みの中で考えるようになりつつあることを示しているのではないでしょうか。
それ故、我々一般市民は今後こうした漁港設備の使用に関して主体性を問われることになります。その際には、漁業とレジャーの適切な関係に関するルールを作ると同時に、その使用に関して、レジャー側も責任や義務を負うことが不可欠となるでしょう。
(次回は第5回からの続き、公共信託法理の実際にもどります)

 

 

筆者プロフィール
牧野 光琢(まきの みつたく)

1973年佐賀県唐津市生まれ。愛知県立旭丘高校卒業後、京都大学農学部水産学科入学。ケンブリッジ大学修士を経て、京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は環境政策論。主に海と人との関係について、制度学・経済学的手法と自然科学的知見の結合を目指す。尺八奏者としての号は「琢水」。
HP:http://risk.kan.ynu.ac.jp/makino

 

 
 
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