BIG GAME POLICY 釣りに対する姿勢 会社案内
 
   
 
BIG BLUE CHASE KAZIKI
 
 
HOME KAZIKI カジキの研究報告 ビッグゲームを取り巻く環境と制度について( 5 )
 
ビッグゲームを取り巻く環境と制度について( 5 )
 

米国の資源管理・環境保全(その2)

今回は、欧米における漁業制度・資源管理制度の代表としてアメリカの制度を取り上げ、日本の漁業制度と比較してみたいと思います。そして、アメリカの環境保全・資源管理制度の基本にある、「公共信託法理」という考え方をご紹介したいと思います。

可航水域(Navigable Water)

前回ご紹介したように、アメリカやイギリス、カナダ、オーストラリアなどの国々における制度は“英米法体系”と呼ばれ、フランス・イタリア等の大陸法体系とは区別されます。英米法体系の下にある国々には制度の面で多くの共通点がありますが、漁業制度に関しても、アメリカの漁業制度はイギリスから深い影響を受けています。
イギリスの漁業制度は、その源流をマグナ・カルタにまでたどることができるといわれています。旧来イギリスのコモン・ローにおいては、潮汐の影響が及ぶ範囲の河川水域は海域と共に「可航水域(navigable water)」とよばれてきました。この可航水域は、王室に直接帰属する、いわゆる公水(public water)とされており、私的所有権の対象外とされてきました。そして英国の一般国民は、基本的な権利として、可航水域を自由に航行できると同時に、そこに生息する資源にも自由にアクセスできました。つまり、可航水域に於いては誰でも自由に漁業を操業することができたのです。
イギリス法のアメリカへの継受に伴い、この制度はアメリカにも伝わりました。その際、河航水域の適用範囲については、潮汐の影響にかかわらず主要河川の河央部(沿岸ではない、河川の中央部分)にまで拡大されました。アメリカで可航水域の範囲が拡大適用された理由には、イギリス本国とアメリカ大陸では国土の大きさが全く違うということもありました。しかし同時に、東海岸から始まった植民の西方への移動(西漸運動:いわゆる西部開拓)の過程で、開拓者達の食料を確保する(可航水域では漁業自由だから)という政治的な意図があったとも考えられています。その一方で、河川沿岸部などの非可航水域においては、排他的な私的権利としての漁業権(fishery、piscary)が構成されました。この漁業権は、後に述べるように、主として沿岸の土地所有者に帰属します。

漁業制度の日米比較

では、日米の漁業制度を比較してみると、どのようなことが分かるでしょうか?ここで、指摘するべき重要な相違点は二つあります。それは、資源へのアクセス権の違いと、漁業権の法的な性格の違いです。

1)資源へのアクセス権の違い

まず一つめの、資源へのアクセス権の違いについて説明しましょう。アメリカでは基本的に全ての市民が自由に漁業を行う権利を持っています。映画「フォレスト・ガンプ」の中でも、トム・ハンクス演じる主人公は帰還後突然にエビ漁業者になっていました。またこれは私が個人的に聞いた話ですが、アメリカで弁護士を本業としている人が、「最近儲かるらしい」という理由から、近くの海でタラ漁業を始めた、という話もありました。アメリカの漁業は自由参入・自由退出の競争産業なのです。儲かるとなれば参入し、儲からないとなれば退出するのです。こうした行動原理の中では、その海域の資源を守っていく、子孫に末永く受け継いでいく、という発想が薄いのはやむをえないと言えるでしょう。その一方で日本では、実質的にほぼ全ての漁業がその操業に際し権利・許可等を必要とします。特に漁業権は準物権という強力な権利であり、他者がその利益を侵した場合には、刑事罰が科せられることになっています。このような資源へのアクセスに関する日米の違いは、制度学ではオープン・アクセス制とリミテド・エントリー制という言葉で対比されています。

2)漁業権の法的性格の違い

二つ目は、日米の漁業権の法的な性格の違いです。その違いは、法学研究においては「法定主義と特許主義」、「無制限主義と制限主義」という用語で対比されます。この意味について少し説明をしましょう。
既に説明しましたように、アメリカの可航水域では一般に誰でも自由に漁業を行うことができます。しかし、非可航水域(河川の沿岸部など)においては、独占排他的な権利が設定されます。この権利は、流水の利用やそこに存する資源の採捕などの権利を沿岸土地所有者に一括して付与する、沿岸権(riparian rights)が主流であるといわれています。よって多くの場合、アメリカの漁業権はこの沿岸権の一部として構成されています。つまり、沿岸の土地所有者が漁業権も有することになるのです。
それ故、アメリカの漁業権は「法定主義(所有権漁場主義)」に従うと表現されます。法定主義は権利内容が法により確定しており、免許処分の際の行政側の裁量が小さいという特徴があります。沿岸の土地を取得すれば基本的に漁業権も取得することになるからです。よって、後に説明する日本の特許主義と比べると、将来にわたって確実にその権利の内容が保障される為、不確実性が小さいと言う利点があります(これを権利の持続性(duration)が高いと表現します)。また漁業の内容に関しては、江戸時代の日本の漁村における地先海域利用のような、一定水面に生息・通過する一切の生物資源の採捕行為をなし得る、包括的な「無制限主義(漁場主義)」が主流です。つまり、土地所有の延長としての沿岸資源の利用権なのです。この考え方は、国連海洋法条約における200海里の排他的経済水域設定や、そこにある資源の主権的管轄権という考え方にも共通しています。
一方で日本の「特許主義」では、免許という行政行為によって初めて、漁業権・許可の法的効力が発効します。そしてその際には、既に説明しましたように、地元の漁業者らの総意を反映する漁場計画及び漁業調整委員会の答申が基本となります。権利・許可の持続性にも違いが出ます。法定主義であるアメリカでは永続的な漁業権が設定されますが、特許主義の日本では更新制度が設けられています。定期的に行われる漁業権・許可の一斉更新によって、漁法の変化や海況・環境の変化へ対応できるようにしてあるのです。
また「制限主義」とは魚種漁法を限って権利や許可を付与する方法のことをいいます。これはいわゆる冠漁業とも呼ばれるもので、サンマ棒受網漁業とか、マグロ延縄漁業とか、対象魚種と使用する漁法を特定して、法的な保護を与えているのです。
こうした制限主義では、真の海面利用者に直接に権利を付与し(不在地主的漁業権者を排除できる)、また、本当に法で保護する必要のある漁業についてのみ権利を設けることができます。よって、利用価値のない権利や空権の発生を予防でき、さらに広域の水面における操業ではじめて成立しうるような漁業(主にヒレ魚を対象とした漁業)の経営を容易にするという利点があります。
日本の漁業制度ではこのような漁業権・許可によって、同一海域に多種多様の漁業形態を包摂し、限られた水面を立体的・重複的に利用することを可能としているのです。制度的に見れば、潜在的可能性は非常に高といえます。しかしその反面で、漁業管理は地域的で複雑とならざるを得ないといえるでしょう。

公共信託法理

ではアメリカの漁業制度では、資源管理は誰がどのように行っていくのでしょうか?これを規定するのが公共信託法理(Public Trust Doctrine)と呼ばれる、アメリカにおいて主に判例法として発達してきた理念です。その基本的な考え方は「ある種の自然資源に関する利益や権利は市民一人一人にとって非常に重要である。それ故それらの利益や権利は、全体として公共のために保護され、守られなければならない。これらの資源は私的独占を排して公共に開かれているべきであり、それは公共の利益の為の信託として保持されるべきである」というものです。
ここで信託(trust)とは、信託者と受託者の間の信託財産に関する契約関係のことをいいます。アメリカではまず、自然資源は市民全体の財産であるという前提があり、政府はそれを市民から契約として信託されている受託者なのです。そして、政府は信託者たる市民からの信託財産である自然資源を、市民の利益に反する方法で管理・処分できません(善管義務)。つまり最も重要な点は、市民と政府の間には契約があり、受託者である政府は、水産資源や絶滅危惧種を含めた信託財産としての自然資源全般を、減耗・乱獲から守る「義務」を負っているという点です。よってアメリカでは、多くの場合漁業資源の管理は環境保全行政の一環として行われます。市民の財産である自然資源を守る、という点では、漁業資源管理も環境保全も同一だからです。
そして仮に政府がその義務を履行せず、種の絶滅や自然資源の減耗等が生じた際には、市民は法廷で政府の責任を追及することが出来ます。その際には原告として、環境NGOが主要な役割をはたしています。(アメリカではこうした環境NGOの社会的はたらきを可能にする制度的な基盤として、集団訴訟(Class Action)という仕組みがあります。この集団訴訟制度についてはまた別の機会にご紹介したいと思います。)

まとめ

今回はアメリカの漁業制度を日本と比較しました。また、アメリカの環境保全・資源管理の基本的理念である、公共信託法理について説明しました。次回は、公共信託法理の使われ方を、実際の判例の紹介によって説明したいと思います。そして、公共信託に基づくアメリカの資源管理制度と日本制度の比較を行いたいとおもいます。

 

 

筆者プロフィール
牧野 光琢(まきの みつたく)

1973年佐賀県唐津市生まれ。愛知県立旭丘高校卒業後、京都大学農学部水産学科入学。ケンブリッジ大学修士を経て、京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は環境政策論。主に海と人との関係について、制度学・経済学的手法と自然科学的知見の結合を目指す。尺八奏者としての号は「琢水」。
HP:http://risk.kan.ynu.ac.jp/makino

 

 
 
カジキの研究報告
   
カジキの類の分類
カジキの類の幼期の形態と生態
伊豆近海における突棒漁業とカジキ類の摂餌生態
太平洋のマカジキ資源
太平洋のクロカジキ資源について
世界のかじき類の漁業とその資源について
カジキ・ギネスブック&小事典
マグロ類の分類学的研究( 1 )( 2 )( 3 )( 4 )( 5 )( 6 )( 7 )( 8 )( 9 )
カジキ類の分類学的研究( 1 )( 2 )( 3 )( 4 )( 5 )( 6 )( 7 )( 8 )( 9 )( 10 )( 11 )( 12 )( 13 )( 14 )
上顎の短いクロカジキ
ポップアップ式衛星通信型タグとは?
アーカイバルポップアップタグの可能性について
アルゴスシステムによるポップアップタグのデータ収集、その実際
カジキのトロウリングと我が国の漁業関係法令
かじき類への通常標識の装着について
Still Missing!? ポップアップタグ、未だ浮上せず !!
カジキをもっと知るために〜遠洋水産研究所からのお願い〜
ビッグゲームを取り巻く環境と制度について( 1 )( 2 )( 3 )( 4 )( 5 )( 6 )( 7 )( 8 )( 9 )( 10 )( 11 )( 12 )( 13 )( 14 )( 15 )( 16 )( 17 )( 18 )( 19 )
釣ったカジキの重量は !?
 
 
 
 
 
 
 
Copyright (C) 2006 HATTEN-SHIYOH All Rights Reserved.