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ビッグゲームを取り巻く環境と制度について( 4 )
 

米国の資源管理・環境保全(その1)

前回までは、日本における漁業制度の歴史、つまり、日本での人と海との付き合い方の変遷をご紹介してきました。今回からは、この日本の制度を世界の中で見たときにどのような特徴があるのか、その長所と短所はどのようなものか、について考えていきたいと思います。

海に関する制度の意味

海に関する国際的な制度・条約にはいろいろなものがあります。たとえば日本は1996年から、国連海洋法条約(United Nations Convention on the Law of the Sea: UNCLOS)の枠組みの中にはいりました。この国連海洋法条約は、海における各国の権利と義務を規定するもので、海の憲法とも呼ばれています。そこではたとえば、200海里の排他的経済水域(Exclusive Economic Zone: EEZ)の設定や、そこにある資源の沿岸国による利用・保存・管理に関する権利と義務が定められています。またクジラの保全や捕鯨活動については、国際捕鯨取締条約の枠組みの下、長年にわたり国際的な話し合いや環境団体等による活動がおこなわれています。マグロ類に関しては大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)、ミナミマグロ保存委員会(CCSBT)などといった国際機関によってルールが制定されています。
これらの国際的な制度における海洋生物資源管理の考え方は、基本的に「英米法」の資源管理理念を基礎としています。そしてこの英米法型の資源管理制度、つまり、イギリスやアメリカ・カナダなどの国々における人と海との付き合いのルールは、日本のものと比べると、その考え方・手段共に大きく異なっています。
前回までにご紹介してきたように、異なる制度・歴史の下で発達した資源管理政策をそのまま援用しても、必ずしも成功は保証されません。特に海洋生物資源のように、大幅な変動と地域的な特殊性が大きな資源の管理においては、制度の移植は失敗する可能性のほうが大きいと思います。また日本のように、歴史的・文化的に魚の占める食生活上の位置が大きな国と、魚をほとんど食べずいわゆる家畜の肉を食する国とでは、魚の利用から得られる国民生活上の利益も大きく異なります。よって、世界中の全ての国々が、細かく決められた1つのルールに従うことには無理があるでしょう。しかしその一方で、国際法的には「法の一般原則」といわれる原則があり、日本だけが他の文明諸国とよばれる国々の法規と全く別のものへと移行することは現実問題として困難です。
よって日本にとって必要なことは、現時点では国際的に主流とされている英米法諸国における海と人との付き合い方をきちんと理解し、そしてそこにはどのような長所と短所があるのかを明らかにすることです。その上で、あるべき今後の日本の、そして今後の世界の海に関わる制度を考えていくことが大切です。
まず今回は、世界の多くの国の法制度の基本となっている、ヨーロッパ諸国の法制度の概要を説明します。特に、ヨーロッパの法制度の大きな柱である、英米法(Anglo-American Law)の特長をご紹介したいと思います。そして次回からは、英米法大系の下にある米国の海洋生物資源管理制度とその具体的な使われ方(判例)を紹介し、日本との比較を行いたいと思います。

欧米諸国の法系

ヨーロッパ諸国の法制度は、その性格によって、「英米法(Anglo-American law)」と「大陸法(Continental law)」という、大きな二つのグループ(法系)に分けることができます。
英米法は、別名をコモン・ロー(普通法)といい、大英帝国の旧植民地諸国を中心に受け継がれている法体系のことをいいます。英米法大系の下にある国々は世界中に多数あります。ごく一部を紹介すると、ヨーロッパではイギリス、キプロス、マルタなど、北アメリカではカナダ、アメリカ、ジャマイカ、バハマ、ドミニカなど、アフリカ大陸ではガーナ、ケニア、ナミビア、カメルーンなど、アジア・オセアニアではインド、スリランカ、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドなどです。
この英米法の起源はゲルマン法とイギリス法であるといわれています。ゲルマン法とは、ゲルマン民族に古くから共通して存在する、と考えられている法原則のことをいいます。共同体的な土地の所有や、主従関係を背景とした諸原理を含むところがその最大の特徴です。またイギリス法とは、後で説明するように、このゲルマン法の流れを汲みつつ、イギリスにおいて発達した法体系のことを言います。
ヨーロッパ諸国の法制度の中でもう1つの大きな柱ある大陸法は、フランス、イタリア、ポルトガル、スペイン、ドイツ、ギリシャ、などの国や、中南米などの旧植民地を中心に発達してきた法律です。この大陸法は、ひいては遠く日本、中国、タイにまでその影響が及んでいます。大陸法の起源はローマ法です。ローマ法(Roman law)とは、ローマ建国(紀元前8世紀)以来、ユスティニアヌス一世時代(482―565年)までに生成・発展した法律のことをいい、特に東ローマ皇帝ユスティニアヌス一世が編纂したローマ法大全には、非常に完成度の高い法大系が記されており、現在でも盛んに研究が行われています。
ローマ法はその中核が市民法(ius civile= civil law)であるため、別名を市民法ともいいます。市民法の背後には商業的合理主義があり、いわば都市的な人間関係を基礎としている所に特徴があるといえます。

英米法の基本:コモン・ローと平衡法

さて、英米法の内容を見てみましょう。まず、英米法には二つの基本的な概念があります。それは、英米法の別名としても使われている「コモン・ロー」と、「平衡法(Equity)」です。この二つの概念は、英米法体系の特長を最も端的に表していますので、ここで少しだけ説明をしたいと思います。
1066年、イギリスはフランスのノルマンディ公ウィリアムにより征服され、ノルマン王朝が成立します。ノルマン王朝はイギリスの統治にあたり、古来のイギリスの慣習を尊重するという政策をとりました。このときに、ノルマン王朝の国王裁判所が根拠とした当時の慣習のことを、最も狭い意味でのコモン・ローといいます。やがてコモン・ローは、この国王裁判所で定立された判例の全体を意味するようになっていきます。
このコモン・ローと対する概念として、衡平法があります。国王裁判所が根拠としたコモン・ローは、ノルマン王朝の成立以前の慣習が基本です。しかし、時代の変化に伴い、コモン・ローでは対処できないような問題が生じる場合もありますし、また、ノルマン王朝の政策としてコモン・ローとは異なる法原理を適用することもありました。このようにコモン・ローでは法的判断が与えられない場合、大法官(Lord Chancellor)が正義と衡平の見地から、独自の裁量で判断を下しました。こうして作り上げられていった多くの判例のことを、衡平法といいます。次回環境保全との関連でご紹介する信託(trust)という制度は、この衡平法として発達したものといわれています。
これらのコモン・ローと衡平法は、判例という形で残されたイギリス法の発達を記す記録であり、また法の根源となっているのです。このイギリス法が、大英帝国の植民地拡大と共に世界中に広まり、現在の英米法体系を構成しているのです。では英米法は、大陸法と比較すると、具体的にどのような特長をもっているのでしょうか?

英米法の特徴

英米法の考え方の特徴としてはまず、「法は太古から存在するもので、裁判官が発見し宣言するものである」という考え方を挙げることができます。一方で大陸法では、「法は立法者ないし立法府によって定立され創造される」という考え方が主流です。つまり、英米法においては法は実社会の中から発見するものであり、大陸法においては法は社会の合意によって創造するものである、という違いがあるのです。
このような考え方の違いが、第一法源になにを位置づけるかという際に、違いとしてあらわれてきます。法源とは、法的な判断(司法判断)の根拠のことをいいます。大陸法の場合、その主要な法源は立法者の制定した、つまり人が合意して作り上げた法律です。これらの法律を、制定法、成文法と呼びます。一方で英米法では、第一に重要な法源は過去の裁判記録である判例です。それゆえ、英米法諸国では判例集が法令集にも勝る重要性を有しているのです。
よって英米法諸国の裁判においては、かなり古い判例も現行法の解釈には重要です。たとえば現在の米国やオーストラリアの裁判において、大英帝国時代の判例が参照されることもあります。こうした特長から、英米法は「判例主義」といわれています。
ただしここでいう判例主義とは、法の基幹的な部分が立法府の制定した制定法ではなく、判例法に拠るということです。決して英米法諸国には制定法がないという意味ではありません。アメリカやイギリスにおいても、毎年多数の法律や命令が制定されており、海や環境に関する法律も、制定法として日本の法律と同様の効力をもっています。

米国へのイギリス法の継受

大航海時代以降、スペイン、ポルトガル、イギリスやフランスなどの欧州帝国主義諸国により、世界中で入植(植民地化)が行われました。この過程で、大陸法や英米法がヨーロッパ地域以外の国々に普及していくことになります。
米国へのイギリス法の伝播(これを法律用語では法の継受といいます)について見てみましょう。まず17世紀から、ヨーロッパ諸国による新大陸への入植が行われました。ニューイングランドなどの東北部の開拓は、1620年にメイフラワー号でイギリスから到着した、宗教的に弾圧された貧しい清教徒たちを中心に行われました。一方で東南部では、イギリスの貴族がイギリス国王から開発許可状をもらって開拓しています。またフロリダはスペイン人が、ルイジアナはフランス人が入植しています。
その後、1776年にイギリスからの重課税に対する反発などから独立宣言を発令し、アメリカ合衆国が成立しますが、当初は13の植民地がそれぞれ独立して一つに合した国でした。その後、州の数は増えていきますが、それぞれの州が独自の州法を発達させていきました。例えばルイジアナはフランスから買い取られた州であるため、現在もナポレオン法典が州法の根底にあり、米国の中では大陸法的な性格の強い制度をもっています。またプエルト・リコはスペインから割譲されたので、現在でもスペイン法が通用しています。
イギリスと比較したときの米国制度の最も大きな特長は、憲法にあるといわれています。まず、連邦と各州がそれぞれの憲法を持っています。憲法は一般の法律に優先する、最上位の法として位置づけられ、その改正も容易ではないので、硬性憲法とよばれています。一方で、イギリス本国にもマグナカルタや権利章典などの憲法はありますが、実際はコモン・ローや衡平法がより大きな役割を果たしています。またイギリス憲法は通常の立法手続きで改正が可能であり、一般の法律に優越しない、軟性憲法と呼ばれます。

まとめ

今回は法史学的な見地から、海に関する国際的な制度の基本となっている英米法について、その特徴を説明しました。この英米法の下にある、イギリスや米国、そして旧イギリス植民地諸国などの国々では、海洋生物資源や自然環境の基本的な捉え方に共通した特徴があります。それは、自然資源は政府が管理するものであり、市民はそれを使う権利を有する、という考え方です。この自然資源と国民と政府の関係に関する基本的な考え方は、近年ステュワードシップともよばれていますが、アメリカの判例法においては「公共信託法理(Public Trust Doctrine)」として発展してきたものです。次回は、この公共信託法理について詳しく説明したいと思います。

 

 

筆者プロフィール
牧野 光琢(まきの みつたく)

1973年佐賀県唐津市生まれ。愛知県立旭丘高校卒業後、京都大学農学部水産学科入学。ケンブリッジ大学修士を経て、京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は環境政策論。主に海と人との関係について、制度学・経済学的手法と自然科学的知見の結合を目指す。尺八奏者としての号は「琢水」。
HP:http://risk.kan.ynu.ac.jp/makino

 

 
 
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