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ビッグゲームを取り巻く環境と制度について( 19 )

北方四島一次産業調査(3)

今回は海とヒトとの付き合い方について、この調査で考えたこと、観察されたことの概要をご紹介します。

資源について

まず第一に、サケマス資源は非常に豊富だという印象をうけました。たとえば下の写真をご覧ください。
これはサケマスが産卵のために朔上する河の河口付近ですが、あまりに大量に入るので、酸欠を防ぐため網で制限がしてあるのです。この河をのぞくと、本当に大量のサケマスが上流を目指して泳いでいました。これだけ大量にいると、感動するというより、食傷気味になります。

 
 

移動中、車で河を渡ったらその水面には大量のサケマスの背びれがあってびっくりしました。日本では考えられないことですが、北方四島のサケマスには朔上途中で自動車事故にあうリスクもあるのです。

北方四島でサケマスを釣るのはいたって簡単です。川の中に、餌もつけずに左下写真のような針を入れて、そのまま引っ掛けるように引き抜くと、獲物がつれるという仕掛けです。

 
     
しかし、サケマスを商業で採捕する場合には、法律により許可が必要であり、またその許可には養殖義務がついてきます。これは家島事件で出てきた、日本の第5種共同漁業権(内水面漁業権)と同じ仕組みです。右の写真は非常に珍しい、ロシアの漁業許可証です。  
 

ルールと密漁

しかし、この北方四島でもっとも深刻な問題は、密漁です。密漁品の多くは日本に流れているといわれます。実際に、北方四島から輸入されるカニやウニ、イクラによって、日本の市場に影響が出ています。一説にはロシアから輸入される水産物の8割が密漁か密輸のものとも言われています。そしてこのような大量の輸入には、日本の商社や運輸会社も手を貸しているとも噂されています。数年前、根室付近の複数の印鑑屋がロシア行政局の印を偽造したとして一斉に検挙されるという事件もありました。
密漁品が市場に出ることが意味する一番大きな問題は、密漁された水産物を買い手が非常に安い値段で買い叩くため、正規の資格とルールに従っていては採算が取れなくなっているということです。そのため、正当な操業者は排除され、結果的に皆が密漁をする、という悪循環にはまってしまっているようです。実際、カニやウニ・イクラは既に資源が枯渇してしまっているとのことでした。
ではどうすれば密漁はなくせるのでしょうか?すぐに思いつく対策は、監視員の人数をもっと増やし、刑罰を重くすることです。しかし、監視員の増加にはコストがかかります。そして現在噂されているように行政・監視側のモラルが低下している状況では、この対策は結局上手くはいかないでしょう。また仮に監視が厳正に行われるとしても、海はとても広いのです。その隅々にまで監視を行うためには大量のコストがかかります。はたしてそれで政策としてペイするのでしょうか?
歴史が教えているのは、ルール違反と監視強化、そして新たなルール違反といういたちごっこです。そしてせっかくの海からの恵みを、見張ったり騙したりという、いわばヒトの内部の事情によって無駄遣いしてきたのです。これは明らかに、海の恵みの浪費です。やはり大切なのは資源を利用する利用者たちが、きちんと海との付き合い方を考え、守っていくという姿勢ではないでしょうか。利用者たちが自ら考え、執行していくルールのほうが、行政が強権的(トップダウン)に監視するという方式よりも、効率的で密漁も少なくなるでしょう。そして行政はそういった利用者のルールではカバーできないところを担当すべきなのです。一番大切なのは、監視や刑罰ではなく、海の恵みを享受する者たちの姿勢なのです。このことに、遊漁者や漁業者という区別はありません。そして日本やロシアという国境も無いのです。

付論:北方四島の今後

はたしてこの国々がいつごろ日本に正式に返還されるのかはわかりません。しかし、これだけ美しい自然が何のルールも無しに日本に返還されると、極端なリゾート化やゴルフ場建設が進むかもしれず、とても心配です。北方四島の豊かな自然は、将来世代にとっても、また野生生物にとっても重要です。本当に返還を望むのであれば、どのようにこの島を活用していくのか、どのようにこの自然を保全していくのかについて、まず議論が必要ではないでしょうか。
また、ロシアの水産会社は現在非常な勢いで資本投下を進めています。調査した全ての会社で、経営規模の拡大を計画していました。現地の水産会社で技術指導をしている日本人から聞いたところでは、水産物の質自体は非常に良いそうです。あとは加工技術と衛生面を向上させれば、いくらでも海外に輸出できるとのことでした。実際に水産業の振興は目覚しく、中には毎年30%の伸び率で売り上げを伸ばし続けているという会社もありました。
今の状況であれば、たしかに漁獲努力を増やせばサケやマスの漁獲量は上がるでしょう。しかし、それが持続的かどうかはまた別の話です。それを検証するためには、正確な統計データに基づいた科学的な資源評価・計画が不可欠です。無秩序な資源開発は、単に資源の先取り競争に過ぎません。このままいくといつか資源が疲弊することは、歴史の教えるところです。

こうした水産業と政治経済的な状況も連動します。たとえばこれらの水産事業が上手くいけば、ロシアは容易には四島を手放さないでしょう。外貨獲得の上で、かなり大きな貢献をし得るからです。つまり、水産業が上手くいくほど、日本への返還は遠のくということも考えられます。また一方で、仮に日本への返還が現実味を帯びてくれば、水産会社はこれまでの投下コストを回収すべく、短期的視野からの極端な乱獲に走り、資源枯渇が生じかねません。
どのように四島の豊かな自然と資源を保全していくのか、どのように人が生きていくのか、そしてどのように両者が関わっていくのかについて、今後も自分なりに考えていきたいと思いました。
 
 

 

筆者プロフィール
牧野 光琢(まきの みつたく)

1973年佐賀県唐津市生まれ。愛知県立旭丘高校卒業後、京都大学農学部水産学科入学。ケンブリッジ大学修士を経て、京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は環境政策論。主に海と人との関係について、制度学・経済学的手法と自然科学的知見の結合を目指す。尺八奏者としての号は「琢水」。
HP:http://risk.kan.ynu.ac.jp/makino

 

 
 
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