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ビッグゲームを取り巻く環境と制度について( 16 )
 

大瀬崎ダイビングスポット事件の結末

この大瀬崎ダイビングスポット事件は、1)共同漁業権漁場でダイビングを行う者から漁業者らが潜水料を徴収することは法的に認められるのか、2)もし認められるのであればその法的根拠は何か、という点がポイントです。海という国民全員の財産を市民が利用し、その恵みを享受していく上で、市民は漁業権・漁業者らとどのような付き合いをしていかなければならないのか、という点に関して、裁判所に法的判断を求めたという意味で、とても重要な判例です。
そして第一審と第二審では、裁判官の判断はまったくといってよいほどに異なりました。では、最終的にこの事件がどのような結末をむかえたのかをご紹介しましょう。

最高裁による差戻し

大瀬崎のこの水域には年間約6万人ものダイバーが訪れます。何らかの利用調整をしなければ、とても安全な漁業の操業は出来ません。また、これだけ大勢のダイバーが海に潜れば、漁場が荒れてしまって漁業への悪影響も懸念されます。よって、Yは東京高裁の判決を不服とし、最高裁に上告しました。
上告をうけた最高裁の判断は、潜水料の徴収を不当利得と判断した二審判決を覆すものでした。最高裁は、これまでXがYに潜水料の支払いをした各時点において、XとYの間には一定の合意が成立していると理解できるのではないか、と判断したのです。よって、本来裁判で審理すべきであった点は、この合意の内容とその性格であるのに、二審の東京高裁は十分にその点を審理していなかった。つまり高裁の審理は不十分でありやりなおすべきだ、として東京高裁に差戻したのです。ここで形勢は一気にYに傾きました。

差戻し審の判決

差戻し審で東京高裁は、「Xが潜水料の支払いをした各時点において、Yが漁業権の侵害を受忍し、そこでの操業を差し控え、また潜水の自由と安全性を保障する対価としての潜水料の支払いという合意が成立した」と認定しました。つまりこれは、Xが毎回もぐるたびに潜水料を払っていたということは、そのつどYとの契約に合意したということでしょ、という意味です。そこでは、Xが自主協定に参加しているか否かは関係がないということです。
さらに、この差戻し審ではもう一つ、とても重要な判断が下されました。それは、漁業権侵害に関するものです。漁業権は、漁業法第23条において、「物権とみなし、土地に関する規定を準用する」、と定められています。よってその法律関係には、民法に定められた土地に関する規定が準用されて、法的に保護されています。そして漁業権の侵害に対しては、損害賠償命令や刑事罰が下されます。この漁業権侵害に関連して、差戻し審では以下のような判断を述べました。それは、漁業権漁場における潜水は、たとえ潜水行為自体が魚介類の採捕を目的としていなくても、漁場が荒らされ操業に支障や危険が生じ漁獲量の低減などの悪影響を及ぼすことは明らかであると判断し、ダイバーに対して漁業権侵害を理由に予め損害賠償の請求を行うことは合法であるとしたのです。つまり、ダイビングなどのマリンレジャーが直接的に漁業権漁場の動植物を採捕し、漁業に被害を与えなくても、漁業に迷惑をあたえるだけで漁業権侵害になりうる、ということなのです。なお、一審で話題となった「一村専用の慣行」については何も言及しませんでした。こうして大瀬崎ダイビングスポット事件の判決は確定しました。

家島事件・大瀬崎ダイビングスポット事件のまとめ

この二つの裁判で扱われた、マリンレジャーと漁業の関係についての論点を整理しましょう。まず家島事件では、1)漁業法第129条にもとづいて、国民が遊漁を楽しむ権利としての「遊漁権」という考え方が遊漁者側から主張されました。また、2)遊漁可能海域の設定・賦課金の徴収などの利用制限がおこなわれていました。そして、3)そうした利用制限に関して遊漁者らと地元漁協との間で結ばれた自主協定は「私的契約」であって、協定が決裂した際には、遊漁者側には何も救済手続きが存在しない、という法的判断が下されました。
大瀬崎ダイビングスポット事件でも、家島同様に4)ダイビングスポットの設定・潜水料の徴収などの利用制限がおこなわれました。また、5)そのような利用制限は「受忍料」「手数料」、「協力金」「サービス量」、そして「一村専用漁場の慣習に基づく水面利用料」として認められるという解釈が出ました(一審)。さらに、6)潜水行為による漁業への悪影響を理由に、あらかじめ漁業権侵害の損害賠償を請求することは合法である、という法的判断が下されました(差戻し審)。
では、二つの裁判を比較したときの違いは何でしょうか?二つの本質的な相違点は、家島事件が生物資源にかかる競合を含んでいると言う点です。つまり家島事件は、生物資源の管理に関わる初の判例であるという点です。一方、大瀬崎ダイビングスポット事件の特徴は、一村専用漁場の慣習を、一審では認めたという点、そして漁業権侵害の適用範囲についてこれまでよりもはっきりと広くみとめた点でしょう。
さて次回からは、家島事件・大瀬崎ダイビングスポット事件の二つの裁判によって浮き彫りになったこの論点整理に基づいて、マリンレジャーと漁業の間の問題点を詳しく考えていきたいとおもいます。

 

 

筆者プロフィール
牧野 光琢(まきの みつたく)

1973年佐賀県唐津市生まれ。愛知県立旭丘高校卒業後、京都大学農学部水産学科入学。ケンブリッジ大学修士を経て、京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は環境政策論。主に海と人との関係について、制度学・経済学的手法と自然科学的知見の結合を目指す。尺八奏者としての号は「琢水」。
HP:http://risk.kan.ynu.ac.jp/makino

 

 
 
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