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ビッグゲームを取り巻く環境と制度について( 15 )
 
 

他の代表的な判例との比較:大瀬崎ダイビングスポット事件

前回と前々回は、兵庫県家島諸島周辺でおきた遊漁と漁業の間の裁判をご紹介しました。しかしこの家島事件以外にも、海洋性レジャーと漁業との間で起きた問題をあつかった有名な裁判があります。それは、静岡県大瀬崎におけるダイビングスポットをめぐる事件(大瀬崎ダイビングスポット事件)です。この事件の中でも、家島事件同様、海洋性レジャーと漁業の間の重要な論点が扱われていますので、今回はこの大瀬崎ダイビングスポット事件の内容を少しご紹介したいと思います。

大瀬崎ダイビングスポット事件の概要

まずこの事件の原告・控訴人・被上告人(X)は、横浜市でダイビング機材を製造・開発し、ダイビングスクールを経営している業者です。そして被告・被控訴人・上告人(Y)は沼津市大瀬崎周辺の漁業者らの漁業協同組合です。では事件の概要をご紹介しましょう。静岡県沼津市大瀬崎付近は、日本有数のダイビングスポットです。地理的に気象条件の影響を受けにくく、また海洋生物の種類が豊富でしかも富士山を海から望めるという、人気の海域です。しかし、この大瀬崎周辺の海域では当然むかしから地元漁業者らにより漁労が行われており、共同漁業権が設定されていました。よって、両者の海域利用調整が必要となりました。
そこで1985年5月、沼津市と地元自治会の立会いの下、ダイビングショップ経営者らによって構成されるA潜水協会とYとの間に自主協定が締結されました。この協定は、まずYの共同漁業権漁場の一部に潜水海域(ダイビングスポット)を指定し、安全のため地元漁師はそこでの操業を自粛すること、そのかわりダイバーは一人当たり340円の潜水料(潜水利用券)を購入すること、などが決められました。その後、年間約6万人にのぼるダイバーたちがこのダイビングスポットを利用し、自主協定で定められた潜水料を支払っていました。
ここに、A潜水協会の会員ではないXが登場します。XはA潜水協会の会員ではないため、ダイビングスポットに関する自主協定にも参加していませんでした。しかし、自主協定で定められたダイビングスポットでダイビングを行う際には毎回潜水利用券を購入し、Yに対して潜水料を支払っていました。しかしXはこれを不服とし、本来Yには潜水料を徴収する法律的な根拠は無いはずだということで、1993年静岡地方裁判所沼津支部に提訴したのです。提訴の内容は、これまでXがダイビングスポットを利用する際にYに支払ってきた潜水料の返還と損害賠償の請求でした。
この裁判は、一審は静岡地方裁判所沼津支部にて1995年9月22日に判決し原告(X)の敗訴、二審は東京高等裁判所にて1996年10月28日に判決し、Xの訴えが一部認められました。この判決を不服としたYは上告し、最高裁判所第2小法廷にて2000年4月21日に判決、二審の判決は破棄されて高裁への差戻しとなります。差戻し審は東京高等裁判所にて2000年11月30日に判決が下され、Xの訴えは結局認められませんでした。

判断の分かれた判決

この裁判の争点は、1)共同漁業権漁場でダイビングを行う者から漁業権者が潜水料を徴収することは法的に認められるのか、2)もし認められるのであればその法的根拠は何か、に集中しました。これはダイビングに限らず、海という国民の財産を市民が利用しその恵みを享受する上で、市民は漁業権・漁業者らとどのような付き合いをしていかなければならないのか、という意味でとても重要な論点です。
まず一審ではXの請求を全面棄却しました。裁判官はこの潜水料の性格を「受忍料」、「手数料」、「協力金」、「サービス料」、「一村専用漁場の慣習に基づく水面利用料」として考えることができ、「法的根拠が無いとはいえない」というものでした。ここで「受忍料」とは迷惑料のことです。つまり、地元の漁業者たちはダイビングによって迷惑を受けているのだから、お金をもらってもよい、ということです。また「一村専用漁場の慣習」とは、第2回と第3回の稿でご紹介しましたように、地域漁民による沿岸海域の管理の仕組みのことです。つまり、地元住民や漁業者らによって作られる沿岸海域の利用ルールを、現在も法的根拠として認めてよい、という判決を下したのです(この一村専用漁場の慣習については後でもう一度詳しくご紹介します)。
しかし二審では裁判官の判断が変わります。まず潜水料の徴収について、Xの同意が無いにもかかわらずYが一方的に潜水料を要求する法的根拠は存在しないとしました。よって、潜水料の徴収は不当利得(違法とまではいえないが、適当ではない利益)にあたるとして、Xがこれまで支払った潜水料の返還を命じました。また、「一村専用の慣行」については、太平洋戦争後の漁業制度改革と1962年の漁業法改正によって消滅したと判断しています。その後、Yはこの判断を不服として最高裁に上告しました。

まとめ

今回は大瀬崎ダイビングスポット事件の概要と、東京高裁までの判断をご紹介しました。一審と二審では、判断がまったくといってよいほど異なっています。なぜこれほど裁判官の判断が異なってしまったのでしょうか?そして、はたしてこの事件はどのような結末をむかえるのでしょうか?次回はこの裁判の最終的な結果と特徴、そして家島事件との関連を考えたいと思います。

 

 

筆者プロフィール
牧野 光琢(まきの みつたく)

1973年佐賀県唐津市生まれ。愛知県立旭丘高校卒業後、京都大学農学部水産学科入学。ケンブリッジ大学修士を経て、京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は環境政策論。主に海と人との関係について、制度学・経済学的手法と自然科学的知見の結合を目指す。尺八奏者としての号は「琢水」。
HP:http://risk.kan.ynu.ac.jp/makino

 

 
 
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