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ビッグゲームを取り巻く環境と制度について( 14 )
 

家島事件の判決

さて、今回は第13回にご紹介しました家島事件の判決を見てみましょう。果たしてXの主張である、妨害の不作為請求(妨害行為をやめることの請求)と損害賠償請求、そして国民が遊漁を楽しむ権利としての“遊漁権”は認められたのでしょうか?<br>
まず結果をいいますと、一審判決は神戸地方裁判所姫路支部にて1998年7月27日に、二審判決は大阪高等裁判所にて1999年9月14日に下されました。そしてその両方の判決において、結局Xの主張は認められませんでした。Xは最高裁に上告しますが、2002年2月22日に上告は棄却されました。つまり全て敗訴だったのです。では、なぜ裁判所はXの主張を退けたのでしょうか?以下に裁判官の判断を出来るだけわかりやすくご説明したいとおもいます。すこし法律用語が出てきますがお付き合いください。

裁判官の判断1:遊漁権はなぜ認められなかったか

Xは遊漁権の根拠を漁業法第129条にもとめました。そこでは、内水面漁業権(第五種共同漁業権)が設定されている漁場で遊漁を制限し遊漁料等を徴収するときには、都道府県知事の認可を受けた遊漁規則を定めなければならないと規定されています。つまり、漁業権者が内水面の遊漁を制限する際には、恣意的な制限はゆるされず、定められた手続きに則って公的に認可された規則をつくることが必要条件であるということです。前回紹介しましたように、Xはこれこそ遊漁権が存在する証拠だ、と主張したのです。しかし、裁判官の解釈はすこし異なりました。
裁判官はまず川釣りの特徴として、1)海に比べて接地交通が容易である、2)広範な川釣り人口が存在する、3)資源の性質上増殖が不可欠である、等の事情をあげます。そして漁業法第129条は、これら川釣りの特徴を考慮した上で、漁業権者と遊漁者との利害関係を調整するために規定されたものだと位置づけました。それゆえ、ここで定められている遊漁規則の制定という条件は、漁業との利害調整が特に必要であるという“河川に特有の事実を前提にしたもの”と述べました。つまり裁判官は、第129条はあくまで河川の特殊性を考慮した規定であり、漁業法全体の上では遊漁権なる概念を前提としていないと判断したのです。そして、漁業権者が遊漁を制限する際に条件がある(都道府県知事の認可を受けた遊漁規則が必要)ということから間接的に生じてくる遊漁者にとっての利益は、権利に基づく利益ではなく、単に事実上享受しているに過ぎない利益(これを反射的利益といいます)であるとし、それゆえ法的保護の対象ではないと判断したのです。

裁判官の判断2:遊漁制限・協定の意義について

ではXが「一方的な押し付けである」と主張した、Yらによる遊漁可能海域の設定や賦課金の徴収などの遊漁制限について、裁判官はどのように判断したのでしょうか。まず裁判官は、家島諸島の全海岸線のうち遊漁可能海域は51.4%であり、遊漁船業者に対する賦課金は年12万円程度、またYは積極的に種苗法流を行っていると事実認定をします。その上で、Yによる遊漁制限が著しく不当であると判断する証拠はない、と判断しました。
また、Xが「Yらによる一方的な押し付けである」ことを理由に参加を拒否した協定については、裁判官はこれをあくまで“私的契約”と位置づけ、当事者の話し合いによる解決が基本であって、“協定が決裂した際には遊漁者側にはなんら法的救済手続きが存在しない”と述べました。この“私的契約”とは、一個人が自らの意思で自由にその相手方・内容・方式等を選んで結ぶ契約のことで、国家は一般的にこれに干渉すべきではないとされます(近代市民法における自由市場主義の基幹をなす制度のひとつです)。その上で裁判官は、協定内容が意に沿わないという理由でXが協定を拒否し、協定内容を無視するような行動をとることは、漁業権者や他の遊漁者・遊漁船業者など、これからルールを形成しようとする関係者に計り知れない影響を与えると述べました。以上より最終的な裁判官の結論としては、Yによる協定への協力要請行為は手段に若干相当性が欠けるところがあるとしても許容されるべきである、(つまり不作為請求や損害賠償請求は認められない)と判断したのです。(なおXの主張によれば、YはXやその客に対して実力行使を行っていました。具体的にはマムシや暴力団などを用いて身体的・心理的な損害を受けたと陳述しています。これをうけて大阪高裁判決では、一審の判断を支持しながらもその付言において「Yによる実力行使の事実が無かったと判断したわけではなく実力行使が正当であると判断したわけでもない」と付け加えています)。

まとめ

以上、家島事件の判決を簡単に説明いたしました。しかし、この判決は果たして正当な判決でしょうか?読者の皆さんは、裁判官の全ての判断に納得できますか?
次回からは他の関連判例とも比較しながら、この判決の内容をよく吟味してみたいとおもいます。

 

 

筆者プロフィール
牧野 光琢(まきの みつたく)

1973年佐賀県唐津市生まれ。愛知県立旭丘高校卒業後、京都大学農学部水産学科入学。ケンブリッジ大学修士を経て、京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は環境政策論。主に海と人との関係について、制度学・経済学的手法と自然科学的知見の結合を目指す。尺八奏者としての号は「琢水」。
HP:http://risk.kan.ynu.ac.jp/makino

 

 
 
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