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ビッグゲームを取り巻く環境と制度について( 12 )
 
 

遊魚と漁業(2)

前回ご紹介しましたように、遊漁と漁業の間では様々な問題が生じています。これからしばらく、この問題を少し詳しくみていきましょう。そこで今回はまず、遊漁と漁業との間で生じているさまざまなの問題の社会的背景となっているキー・ワードを、4つほどあげてみたいとおもいます。

遊漁問題のキー・ワード

まず第一のキー・ワードは、「空間の利用上の競合」です。これまで海域の利用は、主に漁業と航行、そして一部埋め立てなど、いわば産業目的によって行われてきました。したがって海域の利用秩序も、漁業・航行・埋め立て等の間で調整され、またそのための制度が形成されてきました。たとえば航路と定置網の設置海域は、お互いに重なることが無いよう、事前に調整が行われますし、埋め立ての際には公有水面埋立法等にもとづいて漁業権者と開発業者の調整が行われます。しかしながら近年は、遊漁を含めた一般国民の海洋性レジャーによる利用の規模が非常に大きくなり、あらたな調整が必要になってきたのです。こうした海域利用調整上の摩擦は、特に利用密度の高い沿岸海域を中心に生じています。また陸上では、別の空間的競合があります。たとえば海洋性レジャー利用者の一部は市街地など地域外の住民であり、そのアクセス手段である車の迷惑駐車が港の周辺で問題となっているということが多く聞かれます。それはそもそも港の設計段階で海洋性レジャー利用者の車の駐車スペースを想定していなかったからです。このように、陸・海ともに空間上の競合が生じているのです。

漁業はその対象として、経済的に有用な海洋生物資源を採捕しています(海の資源にはこのほかにも、経済上の価値が低くても生態上非常に重要な役割を果たしている資源や、人にとってのアメニティーとして大きな価値を有している資源があります)。第二に指摘すべき事実は、海における漁業の対象としての有用生物資源(以下漁業資源と呼びます)の合理的な利用を目指す上で、遊漁者による漁業資源の採捕が無視できないほど大きくなってきたということです。すこし古いデータですが、日本水産資源保護協会が1991年に行った調査では、遊漁による漁業資源の採捕は年間約6万トンに達すると推定されています。現在の遊漁採捕はこれよりもっと大きくなっているでしょう。なかでも、マダイやイサキ、キスなどの魚種では、漁業による漁獲と同等か、それ以上の量が遊漁で採捕されている海域もあると言われています。つまりこれは海洋性レジャーと漁業というセクター間の「漁業資源の利用上の競合」と捉えることができます。

第三は漁業集落、いわゆる漁村に関連する問題です。日本全国の海岸線には、約5キロに一つずつ漁業集落が存在します。この漁業集落は漁業生産以外にも様々な役割を果たしてきました。たとえば、国境の監視や海難・災害時の救助、前浜の清掃や干潟・藻場の管理、伝統文化の継承といった役割は、経済的収入とは直接関係がないものの、国民生活にとってとても重要な役割です。漁業集落が果たしてきた、これらの漁業生産以外の役割のことを、漁村の多面的機能とよびます。そして現在課題となっているのは、過疎や漁業人口の減少によって低下の一途をたどりつつある漁村の多面的機能を、いかに維持し、そして正当に評価していくかということです。この打開策の一つとして、2001年に成立した水産基本法と、その基本的な方針を記した水産基本政策大綱では、都市と漁村との交流を通じた収益機会の増大と活性化が大きな目的とされています。つまりこれは、漁村を活性化していく方針の1つとして「海洋性レジャーと漁業との共存」という基本姿勢がとられていくということを意味しています。

最後は法制度上の問題です。漁業者や漁業従事者には、漁業法や水産資源保護法、都道府県漁業調整規則をはじめとする様々な法的規制がかけられています。さらに漁協の定款や漁業権行使規則、同業者らで自主的に決めたルールなどもあります。つまり漁業操業は、様々な取り決めのがんじがらめの中で行われているというのが実情です。その一方で、海洋性レジャーはこうした漁業操業に関する多くのルールの対象外です(もちろん都道府県漁業調整規則に定められている遊漁に関する既定には従わなければなりません。また前回神奈川県の例でご紹介したように、自主的に遊漁のルールを決めている例もあります)。つまり、漁業操業に関するルールのアウトサイダーである海洋性レジャーが、そうしたルールからは自由に海面を往来し、また漁業資源を採捕しているため、漁業者には漁場を荒らしているように見える、という問題です。これまでも何度か述べてきましたが、その根本の原因は「海洋性レジャーに関する制度的不備」であると思います。

まとめ

今回は、遊漁と漁業の間で生じている問題の社会的背景として、「空間利用上の競合」、「漁業資源の利用上の競合」、「海洋性レジャーと漁業との共存という基本姿勢」、「海洋性レジャーに関する制度的不備」という4つのキー・ワードをご紹介しました。次回からは具体的な事例として、兵庫県沖瀬戸内海の家島諸島周辺にて生じた漁業と遊漁の紛争:家島事件を詳しく分析します。そして、漁業とダイビングの紛争など、過去の他の判例もご紹介し、比較していきたいとおもいます。その後、漁業権と遊漁に関する問題点を法的な見地から考えてみます。そして最終的には、海洋性レジャーと漁業の適切な調整を実現するための考え方を提案してみたいとおもいます。

 
 

 

筆者プロフィール
牧野 光琢(まきの みつたく)

1973年佐賀県唐津市生まれ。愛知県立旭丘高校卒業後、京都大学農学部水産学科入学。ケンブリッジ大学修士を経て、京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は環境政策論。主に海と人との関係について、制度学・経済学的手法と自然科学的知見の結合を目指す。尺八奏者としての号は「琢水」。
HP:http://risk.kan.ynu.ac.jp/makino

 

 
 
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