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カジキのトロウリングと我が国の漁業関係法令

田中克哲

1.我が国の漁業関係法令の体系

漁業関係法令というとすぐ「漁業権※1」という言葉をイメージされる方も多いと思われるが、今回お話しする「カジキのトロウリング」と「漁業権」とは無関係である。そこで、カジキのトロウリング※2に関する法令がどのようになっているかをお話しする前に、その前提となる漁業関係法令の体系がどのようになっているかをお話ししたいと思う。

「漁業法」と「水産資源保護法」

漁業関係法令の根幹となるのは漁業法と水産資源保護法である。この2つは、もともとは1つの法律であったもので、水産資源の保護の観点を重点に置いて、関係する部分を漁業法から分離し、必要な規定を付け加えて議員立法により定められたのが、「水産資源保護法」である。したがって漁業法と水産資源保護法とは渾然一体となって水面の水産動植物の採捕に関し、規制を行うこととなる。なお、漁業法というと「漁業」という営業活動のみを規制する法律のように思われがちだが、実際には、水産動植物の採捕・養殖全般を規制対象とし、水産資源の保護等を行うことにより水産動植物の生産の増大を図ることを目的としている。したがって漁業法を現代風に言い換えれば「水産動植物の採捕又は養殖の規制に関する法律」とでもいうべきものとなる。
ところで、漁業法や水産資源保護法の水面利用調整の基本は「磯は地付き、沖は入会※3」というものであり、極沿岸の定着性の水産動植物については、地元の漁民集団に管理を任せるため、漁業法の規定に基づき物権とみなされる漁業権の免許が行われ(なお、海面においては基本的には魚は漁業権の対象からはずされている)、大型の漁船で行われる漁業については指定漁業(沖合底びき網漁業、以西底びき網漁業、遠洋底びき網漁業、大中型まき網漁業、捕鯨業、遠洋かつお・まぐろ漁業、近海かつお・まぐろ漁業、中型さけ・ます流し網漁業、北太平洋さんま漁業、日本海べにずわいがに漁業、いか釣り漁業)として漁業法の規定に基づき、隻数などの規制が行われている。そしてそれ以外の水面利用については、漁業法第65条及び水産資源保護法第4条に基づき定められる農林水産省令(大臣承認漁業:ずわいがに漁業、東シナ海等かじき等流し網漁業、東シナ海はえ縄漁業、大西洋はえ縄等漁業、太平洋底刺し網等漁業 届出漁業:かじき等流し網漁業、沿岸まぐろはえ縄漁業、小型するめいか釣り漁業、暫定措置水域沿岸漁業等)や各都道府県の沖合海面を対象に定められる都道府県漁業調整規則(知事許可漁業の制度による隻数制限、禁止区域・禁止期間・体長制限、遊漁者等の漁具漁法の制限、試験研究等の適用除外など)によって規制が行われている。
 なお、漁業法第67・68条では、これらの規定以外に「漁業調整委員会の指示」という仕組みが作られている。これは、漁民の選挙によって選ばれた漁民代表や学識経験者、公益代表からなる漁業調整委員会が漁業調整規則では対応できないような臨機応変な漁業調整を可能にするためつくられた制度である。
 また、法律に基づくものではないが、水産庁の指導により遊漁関係者、漁業関係者、学識経験者等から構成される「海面利用協議会」が都道府県毎に設置され、遊漁と漁業との紛争防止、遊漁に係る規制、マナーの普及啓発に関する協議、調和ある漁場利用に向けた活動等が行われており、行政機関等も遊漁も対象とした各種規制を導入する際には、海面利用協議会の意見を聴くような手続等について配慮することとなっている。
このような漁業関係法令の体系の中でカジキのトロウリングに関する漁業関係法令の主のものは、都道府県漁業調整規則及び漁業調整委員会指示である。

 
※1. 漁業権は、共同漁業権、区画漁業権、定置漁業権の3つに区分される。このうち、養殖業を営む漁業権である「区画漁業権」と定置網漁業を営む「定置漁業権」は水面を占有しないと営めない漁業(漁業法上漁業とは養殖業も含んでいる)であるので、排他的権利(物権)としての漁業権が免許されているが、共同漁業権については地域の漁民集団(関係地区漁民)による自治的管理を認めるために漁業権が免許されている。
入漁権については、他漁協に免許された共同漁業権と特定区画漁業権の漁場に入漁できる権利で、これも物権とみなされている。漁業権と入漁権は、民法の入会権の「共有の性格を有する入会権」、「地役権の性質を有する入会権」に対応するものといわれている。
※2.本誌では漁船で網を引き回す『トロール漁業(trawl)』と『trolling 』を区別するため、また正確な発音表記に沿い、スポーツアングラー達が行う『trolling』を『トロウリング』と表記する。
※3.江戸時代の漁業行政の一般原則としては、徳川幕府の定めた「山野海川入会」があり、そのなかに「磯猟は地付き、根付き、沖は入会い」と表現されている。「磯は地付き」というのは、「磯」すなわち沿岸部では、地元の漁村、または一人ないし数人の仲間に漁場の独占利用を認めることであり、「沖は入り会い」というのは「磯」の沖合部は、付近の漁民が共同利用する入り会い漁場とするという事である。現在の漁業権も沿岸部だけに限定して免許されているのは、これらのことを受け継いでいるからである。
 
 

漁業法
(漁業調整に関する命令)

※1.第六十五条
主務大臣又は都道府県知事は、漁業取締その他の漁業調整のため、次に掲げる事項に関して必要な省令又は規則を定めることができる。<br>
一 水産動植物の採捕又は処理に関する制限又は禁止
二 水産動植物若しくはその製品の販売又は所持に関する制限又は禁止
三 漁具又は漁船に関する制限又は禁止
四 漁業者の数又は資格に関する制限

(海区漁業調整委員会又は連合海区漁業調整委員会の指示)
※2.第六十七条
海区漁業調整委員会又は連合海区漁業調整委員会は、水産動植物の繁殖保護を図り、漁業権又は入漁権の行使を適切にし、漁場の使用に関する紛争の防止又は解決を図り、その他漁業調整のために必要があると認めるときは、関係者に対し、水産動植物の採捕に関する制限又は禁止、漁業者の数に関する制限、漁場の使用に関する制限その他必要な指示をすることができる。

(広域漁業調整委員会の指示)
※3.第六十八条
広域漁業調整委員会は、都道府県の区域を超えた広域的な見地から、水産動植物の繁殖保護を図り、漁業権又は入漁権(第百三十六条の規定により農林水産大臣が自ら都道府県知事の権限を行う漁場に係る漁業権又は入漁権に限る。)の行使を適切にし、漁場(同条の規定により農林水産大臣が自ら都道府県知事の権限を行うものに限る。)の使用に関する紛争の防止又は解決を図り、その他漁業調整のために必要があると認めるときは、関係者に対し、水産動植物の採捕に関する制限又は禁止、漁業者の数に関する制限、漁場の使用に関する制限その他必要な指示をすることができる。

水産資源保護法
(水産動植物の採捕制限等に関する命令)

※4.第四条
農林水産大臣又は都道府県知事は、水産資源の保護培養のために必要があると認めるときは、次に掲げる事項に関して、農林水産省令又は規則を定めることができる。
一  水産動植物の採捕に関する制限又は禁止
二  水産動植物の販売又は所持に関する制限又は禁止
三  漁具又は漁船に関する制限又は禁止
四  水産動植物に有害な物の遺棄又は漏せつその他水産動植物に有害な水質の汚濁に関する制限又は禁止
五  水産動植物の保護培養に必要な物の採取又は除去に関する制限又は禁止
六  水産動植物の移植に関する制限又は禁止

都道府県漁業調整規則例
(目的)

※5.第一条
この規則は、漁業法(昭和二十四年法律第二百六十七号)及び水産資源保護法(昭和二十六年法律第三百十三号)その他漁業に関する法令とあいまって、○○県における水産資源の保護培養、漁業取締り、その他漁業調整を図り、あわせて漁業秩序の確立を期することを目的とする。

 

2.カジキのトロウリングは、「ひき縄釣り」漁法である。

漁業関係法令においては、水産資源の保護培養、漁業取締り、その他の漁業調整の観点から、漁具漁法の規制が行われており、カジキのトロウリングについても規制があるが、各都道府県の漁業調整規則をみてもトロウリングという用語は出てこない。それでは、カジキのトロウリングは、漁業関係法令上、どのような表現になるのであろうか? 
ところで、漁業関係法令を調べてみると「トロール漁業(trawl)」というのがでてくる。しかしながら、これはトロウリングとは全く異り、漁船で網を引き回す漁法を指している。
漁業関係法令において「トロウリング」は釣り漁法の中の「ひき縄釣り」に該当するのである。なお、釣り漁法は、「ひき縄釣り」「手釣り」、「竿釣り」の3つに大別されており、トロウリングで竿を使うからといって「竿釣り」の分類とはならないのである。

3.カジキのトロウリングに関する規制の状況と静岡県の動向

水産庁の示す都道府県漁業調整規則例では、遊漁者等、一般の人々が行える漁法が次のように制限され、手釣りや竿釣りは認められているものの、ひき縄釣りについては禁止漁法になっている。なお、都道府県漁業調整規則例は平成14年に改正され、現在の形になったが、それまでは「非漁民の漁具漁法の制限」とされていた。これについて水産庁は、「遊漁者等が水産動植物を採捕する場合の漁具漁法の規制を『非漁民等の漁具漁法の制限』と総称しているが、この『非漁民等』という表現については、対象者が誰であるのか理解しにくい、現在の遊漁の状況及び遊漁者の立場を踏まえていない等の批判的な意見があることから、これをより明確かつ適切な表現として『遊漁者等』に改めることとする」としている。

 
都道府県漁業調整規則例
(遊漁者等の漁具漁法の制限)

第五十一条 漁業者が漁業を営むためにする場合若しくは漁業従事者が漁業者のために従事してする場合又は試験研究のために水産動植物を採捕する場合を除き、次に掲げる漁具又は漁法以外の漁具又は漁法により水産動植物を採捕してはならない。
一 竿釣(つり)及び手釣(づり)
二 たも網及び叉手網
三 投網(船を使用しないものに限る。)
四 やす、は具
五 徒手採捕
 
水産庁のホームページ、「遊漁の部屋」で調べると「都道府県漁業調整規則で定められている遊漁で使用できる漁具・漁法」というのがある。これを見ていただくと解るように現在のところ、静岡県と滋賀県を除いてはひき縄釣りは禁止されている。したがってマイボートを使って「ひき縄釣り=トロウリング」をすることはほとんどの場合、漁業調整規則違反に該当することとなるのである。
ところで、静岡県においても、これまで一般の人々の「ひき縄釣り」は禁止されてきたが、平成14年3月に漁業調整規則が改正され、新たに「ひき縄釣り」も認められることとなった。これは、漁業調整規則の禁止規定が、実態とあわなくなり、多くの遊漁者が「ひき縄釣り」を実施する中で、海区漁業調整委員会の「承認」を得たものに限り、遊漁者にも「ひき縄釣り=トロウリング」を認めることとしたもののようである。
なお、静岡県では、次のような条件を満たす者に対して「ひき縄釣り」の承認を行うこととしている。
 ・5日以内の短期採捕であること。
 ・静岡県内の漁港等を根拠地として行うものであること。
 ・地域の関係者の了解を得て行うものであること。
 ・漁業協同組合の同意を得ていること。
 
静岡県漁業調整規則
(非漁民の漁具漁法の制限)

第46条の2 漁業者が漁業を営むためにする場合又は漁業従事者が漁業者のために従事してする場合を除き、何人も次の各号に掲げる漁具又は漁法以外の漁具又は漁法により水産動植物を採捕してはならない。ただし、試験研究のために水産動植物を採捕する場合は、この限りでない。
(1) たも網又はさで網(火光を利用する場合を除く)
(2) やす又はは具(火光又は水中眼鏡を利用する場合を除く)
(3) くまで(幅15センチメートル以下のものに限る)
(4) 投網(船舶を使用する場合を除く)
(5) さお釣又は手釣(から釣及びまき餌釣を除く)
(6) 徒手採捕
(7) ひき縄釣
 

静岡県海区漁業調整委員会指示
第13−10号(平成14年3月)

静岡海区におけるひき縄釣による水産動物の採捕について、漁場利用の適正化を図るため、漁業法(昭和24年法律第267号)第67条第1項の規定に基づき、次のとおり指示する。
1 定義
ひき縄釣りとは、釣り糸及び釣り針を有する漁具を船舶によってひきまわして行う釣漁法をいう
2 採捕の承認
ひき縄釣りにより水産動物を採捕しようとする者は、船舶毎に別記1:ひき縄釣採捕承認事務取扱要領に基づき、静岡海区漁業調整委員会(以下「委員会」という。)の承認を受けなければならない。ただし、別記2:ひき縄釣漁業届出事務取扱要領に基づき届出を行った漁業者が漁業を営むために行う場合及び漁業従事者が当該届出を行った漁業者のために従事する場合並びに同要領により届出を行った試験研究期間が試験研究のため当該漁法を用いる場合は、この限りでない。
3 承認の基準
承認は、次に掲げる条件をすべて満たす者に対して行うものとする。
(1)当該漁法を用いることにより水産資源の保護培養及び漁業調整上重大な支障が起こる恐れがないこと。
(2)5日以内の短期採捕であること。
(3)静岡県内に所在する漁港等を根拠地として行うものであること。
(4)地元が開催するイベントに参加して行われるものである等、地域の関係者の了解を得て行うものであること。
(5)ひき縄釣を行う予定の区域が県内漁業者の操業対象区域となっている場合には、当該漁業者が所属する県内の漁業協同組合の同意を得ていること。
(6)地元漁協が開催するイベントに参加して行われるものである等、地元漁協の業務上問題ないものとして、同漁協の同意を得て行うものであること。

−以下略−

 
試験研究等の適用除外規定について
都道府県漁業調整規則例第52条では、試験研究、教育実習又は増養殖用の種苗の供給を目的として、特別に知事の許可を受ければ、ひき縄釣りであっても行うことができる規定がある。
(試験研究等の適用除外)
第五十二条 この規則のうち水産動植物の種類若しくは大きさ又は水産動植物の採捕の期間若しくは区域又は使用する漁具若しくは漁法についての制限又は禁止に関する規定は、試験研究、教育実習又は増養殖用の種苗(種卵を含む。)の供給(自給を含む。)(以下本条において「試験研究等」という。)のための水産動植物の採捕について知事の許可を受けた者が行なう当該試験研究等については、適用しない。
2 前項の許可を受けようとする者は、別記様式第十号による申請書を知事に提出しなければならない。
 

4.水産庁の最近の動向

ここでは、平成14年に水産庁から示された通達のうち、トロウリングに関係するものを紹介する。これによれば、水産庁は、1.遊漁船業の発達、プレジャーボートの増加による遊漁者の増加、行動範囲の広域化等、今日の遊漁の状況は大きく変化していること。2.昨年6月に制定された水産基本法では、遊漁を含めた水産資源の保存管理の推進、都市と漁村の交流の促進、遊漁船業の適正化等の施策を講じることが規定されていること、等から、漁業者、遊漁船業者及び遊漁者が相互に共存の努力をすることが必要となっているとしている。
そして、遊漁を含めて水産動植物の採捕規制を行う場合には、遊漁と漁業の実態を踏まえ、それぞれの規制のバランスを考慮し、遊漁に対して過度の規制とならないよう留意する必要があるとしている。
そして、ひき縄釣については、ほとんどの都道府県が遊漁での利用を禁止してきたが、近年、地方公共団体、漁業協同組合の後援や協力のもと、カジキ類のひき縄釣大会が開催され、漁業者団体が開催の一翼を担っている事例や、漁業者が兼業している遊漁船業においても利用される事例が見受けられる状況となっているとし、実態に即さないものとなっている規制については、漁業調整上の支障がない範囲で遊漁に対するひき縄釣漁法の全面的な禁止措置を見直す必要があるとしている。なお、この場合、都道府県ごとの実状に応じて、調整規則において、他種漁業との漁場利用調整のため、ひき縄釣漁法による採捕禁止区域、禁止期間を設定する、あるいは、暫定的措置として、海区漁業調整委員会指示に基づき操業区域、期間、隻数等を制限することとするなど、随分とその態度に変化が見られている。


静岡県下田沖で開催される国際カジキ釣り大会(JIBT)は今年で25周年を迎えた。自治体が後援し、地域の活性化にも大きく貢献している例である。
 
カジキ釣り大会(JIBT)の最終日のパーティー風景。総勢1000名近いアングラー達が一堂に会する。
 
JIBTでは多くのカジキがタグ&リリース(標識放流)され、カジキ類の調査研究に寄与している。写真のカジキは、タグを打ったアングラー達の記念撮影用のイミ テーションである。
 

海面における遊漁と漁業との調整について
(平成14年12月12日付け14水管第2968号水産庁長官通達)

海面における遊漁と漁業との調整については、これまで「海面における遊漁と漁業との調整について」(昭和47年5月9日付47水漁第3111号水産庁長官通知)による基準例及び実際例を参考に、都道府県漁業調整規則(以下「調整規則」という。)の整備等をお願いしてきたところであるが、遊漁船業の発達、プレジャーボートの増加による遊漁者の増加、行動範囲の広域化等、今日の遊漁の状況は大きく変化している。また、昨年6月に制定された水産基本法では、遊漁を含めた水産資源の保存管理の推進、都市と漁村の交流の促進、遊漁船業の適正化等の施策を講じることが規定され、今般、「遊漁船業の適正化に関する法律」の一部改正、漁業協同組合が定める資源管理規程の対象に遊漁船業を含めることとする「水産業協同組合法」の一部改正が行わ れたところである。
このような状況を踏まえ、水産資源と海面の調和のとれた利用を促進し、漁業と遊漁の共存を目指し、下記のとおり遊漁と漁業の調整に係る指針(ガイドライン)を作成するとともに、調整規則等の整備が必要と考えられる事項を別添のとおり取りまとめたので、執務の参考とされたい。
なお、上記水産庁長官通知は廃止する


1.水産基本法における遊漁の位置付け
平成13年6月に制定された水産基本法においては、
(2)また、漁業者は水産資源の持続的な利用の確保を図りつつ漁業生産活動を行う等主体的に取組む努力が求められ、遊漁者・遊漁船業者は、水産に関する施策の実施に協力しなければならない旨規定されている。(第6条)
(3)一方、遊漁等の海洋性レクリエーションを通じた都市と漁村の交流が、水産業と漁村に対する国民の理解を深め、健康的でゆとりある生活に資するとの観点から、都市と漁村との交流の促進、遊漁船業の適正化等の施策を講じることとされている。(第31条)

 
以上のように、水産基本法は、漁業とともに遊漁を水産資源の適正な保存及び管理のための施策対象と位置付け、都市と漁村との交流の促進等の観点からも、遊漁と漁業との共存を指向したものとなっている。
 
2.遊漁と漁業との調整についての基本的姿勢
現在の遊漁の実態は、遊漁船業の発展、プレジャーボートの増加等、調整規則の制定当時から相当変化しており、漁業者、遊漁船業者及び遊漁者が相互に共存の努力をするとともに、資源の持続的な利用が可能となるよう資源の保存管理に努めることが必要となっている。具体的な取り組みについては、遊漁と漁業の実態が各地で異なっているため、従来から調整規則、海区漁業調整委員会指示のほか、漁場利用協定等の当事者間の自主的な取り極め等により、各地域の遊漁と漁業の実態に即した調整が行われてきているが、今後も同様の姿勢で臨むことが適当である。なお、遊漁を含めて水産動植物の採捕規制を行う場合には、遊漁と漁業の実態を踏まえ、それぞれの規制のバランスを考慮し、遊漁に対して過度の規制とならないよう留意する必要がある。
 
(別添)遊漁と漁業との調整のための規制の整備について
1.遊漁に係る規制の見直し
(3)ひき縄釣に係る規制措置の見直し
ひき縄釣は、漁具を曳航して行う漁法であるとし、主に漁場利用調整の観点からほとんどの都道府県が遊漁での利用を禁止してきたが、近年、都市と漁村の交流の促進策として、地方公共団体、漁業協同組合の後援や協力のもと、カジキ類のひき縄釣大会が開催され、漁業者団体が開催の一翼を担っている事例や、漁業者が兼業している遊漁船業においても利用される事例が見受けられる状況となっている。
このような状況を放置することは、都道府県が調整規則の規定に抵触する行為を容認しているものとの誤解を与えかねず、漁場における秩序を維持する観点から極めて問題が大きいものと考えられる。
このため、このように実態に即さないものとなっている規制については、漁業調整上の支障がない範囲で遊漁に対するひき縄釣漁法の全面的な禁止措置を見直し、遊漁の実態と調整規則の規制との乖離を是正する必要がある。なお、この場合、都道府県ごとの実状に応じて、調整規則において、他種漁業との漁場利用調整のため、ひき縄釣漁法による採捕禁止区域、禁止期間を設定する、あるいは、暫定的措置として、海区漁業調整委員会指示に基づき操業区域、期間、隻数等を制限することとする。
 

5.マリンレジャーと漁業との調和をめざして

以上、トロウリングの規制に関する法体系と水産庁の最近の動向をお話ししてきたが、これからの将来に亘ってマリンレジャーと漁業が仲良くやっていくためには何が必要なのか、個人的な意見を述べさせていただくこととする。
まず、第一に必要なのは互いに相手の立場を理解しようと努め、話し合いの姿勢を持つことであろう。そしてその話し合いからもたらされる結果は、「みんなハッピー」である必要がある。片方には何のメリットもなく、我慢だけが押しつけられるような結果は例えそれが一時的には成立しても、将来必ず破綻することとなる。
例えば、マリンレジャーを楽しむ方々が「海は誰の所有物でもない」、「海はみんなのもの」というのを曲解して一方的に主張し(これについては、今後本誌において一度詳しく述べる機会を持ちたいと思う)、これまでの地元漁民集団の決めている漁場の利用ルールである漁業権行使規則や、例えば神奈川県における「湘南海のルールブック」のような地元における海面利用のローカルルールを無視し、地元の人たちの迷惑を顧みない勝手な行動をとるようなことになれば当然にトラブルは起こることとなる。
また、シーズン中は週末毎に浜辺で繰り広げられるバーベキューが終わった後は、大量のゴミが残され、地元の人たちがこれを片づけざるを得ない状態になっている状況もしばしば見うけられる。釣りに限って言えば、毎週末に釣り客がどっとが押し寄せ、違法な駐車をし、彼らが帰った後の防波堤には、撒き餌の袋等の悪臭を放つゴミや、外道として捨てられ、干からびてしまったあわれな魚達が残される。海の中も捨てられた釣り糸や釣り針が散乱し、撒き餌によって海底はヘドロ化している。さらに、釣りであれば何を取っても自由と考え、漁業権の対象となっているイセエビやタコを釣ってしまう。そのような実態を目の当たりにしている地元の人たちに都市住民が「海はみんなのもの」といっても空虚なものにしか響かないのではないだろうか?

今後、海面の利用のあり方を検討していく上で重要なのは、都市住民と地元の漁民集団が互いに相手の立場を尊重し、相手方に自分の意見を一方的に押しつけるのではなく、話し合いの中で相互理解に努め、そのなかでローカルルール等については尊重していくことなどが必要なのではないだろうか。  
JIBTのスタート・フィッシング風景。100艇に及ぶ船が一斉にスタートする様は壮観である。
撮影:鈴木克宏
 

著者・略歴
田中克哲 たなか・かつのり

昭和30年生まれ
昭和53年東京水産大学卒業
同年水産庁入庁後、62年企画課課長補佐(マリンレジャーと漁業との調整担当)、平成2年中央水産研究所漁業経営経済研究室長(マリンレジャーと漁業権等漁業制度に関する研究)を経て退庁後、6年漁村振興コンサルタント(漁村振興研究所)業務開始。ボランティア集団・磯遊び研究会をつくり子供たちや海好き仲間と海沿いの遊び方の実践活動展開。
著書と著作:平成5年「ダイビング・スポット開設と利用料徴収の法社会学的考察・伊豆半島地域の事例」(漁業経済研究第38巻1号)、「海洋性レクリエーション対策の手引き・タイプ別水面利用調整等指針」(共著、平成6年度報告書・全漁連)、8年「海面管理の慣習と利用料徴収の実例」(『海の「守り人」論』まな出版企画)、9年『マリンレジャーと漁業権』(浜本幸生共著、漁協経営センター)、14年「密漁監視員のための密漁防止マニュアル」(平成13年度報告書、全漁連)、『最新・漁業権読本』(まな出版企画)

 
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