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WHAT'S THE SPORT FISHING BOAT?

フィッシングボートの基礎知識(3)
コックピット

文・写真・図/中島新吾

 

フネのフィッシャビリティが最も集約されているのがコックピットである。陸から行うフィッシングの延長上にボート上でのそれを単純に置き換えてしまうと、フネは水上に浮かぶプラットフォームでありさえすれば、それでかまわないということになる。実際、その程度の造作で“フィッシングボート”を名乗るフネもある。しかし広さが限られ、しかも揺れるというデメリットと、それ自体が動き回れるというメリットもそこには存在しているのだ。

コックピットの意味

ウェブ・マガジン『スポーツアングラーズ』の読者諸兄の中には、まさかそういう人はいないと思うが、いまだに、フネのコックピットというのが、操舵席のことだと思っている方々が日本のボート界には存在している。少なくとも、国内ボートビルダーのカタログやパンフレットの文章を書いたりしている人のかなりの部分は、そう考えているらしい。これは、ことコックピットに限らず、他のいくつかのフネ用語にも似たような話はあって、その種の“勘違い用語例”を集めると実はけっこうな分量になる。
たしかに、日本語の辞書なんぞには、コックピットすなわち操縦席、というような説明があるし、たまたま小生の机上にある英和辞典にも“(飛行機の)無蓋の操縦士室”という訳はあるが、コックピットという言葉は、飛行機という乗り物が発明される以前からフネに使われているのである。
大方の英和辞典には、操縦席云々の他に、闘鶏場という訳も載っているはずだし、もうひとつ、旧式帆船の最下甲板の後部にある青年下級士官や士官候補生の室で、戦闘時は病室として使われる、みたいなことも書いてあるはずだ。で、コックピット(cockpit)という言葉がコック(cock=雄鶏)とピット(pit=穴ボコ)の組み合わせから出来ていることを考えれば、闘鶏場というのがそもそもの意味であったことは分かる。そういう言葉が、フネに用いられた詳細な経緯は不明だが、雰囲気や形状にどこか類似点があったと考えるのが普通だろう。最下甲板の後部という低い位置にあった部屋なのだから、少なくとも“ピット”であるのは間違いない。
小型艇の場合は、もっとダイレクトに闘鶏場的ニュアンスがある場所をいう。つまり、デッキから掘り込まれたような凹状の場所のことである。コンバーチブルのようなフネならば船尾のトラックの荷台風の場所だし、ランナバウトのようなフネならシートが並べてあるような場所だ。操舵席がコックピット内に置かれているかどうかというのは、その名称とは関係がない。そこに無いフネもあれば、あるフネもある。コックピットというのは純粋に造作を示す名称なのである。
飛行機の操縦席がコックピットと呼ばれるようになったのは、その昔、飛行機の胴体上部に凹んだ場所を作り、そこに操縦士が座るようになったからである。これも本来は操縦装置云々よりも、その造作が凹状であったという造作上の命名なのだ。

コックピットの造り

デッキに作られた凹状の場所がコックピットだといっても程度は種々あるわけだが、アチラの用語辞典は、“a well or sunken”という表現をしている。
wellは井戸とか井戸状の造作で、フィッシュウェル(fishwell)のwellもそれ。sunkenはsinkの昔のスタイルの過去分詞(今は形容詞として使われる)で、水没したとか沈下したとかの意。目が落ちくぼんだ状態などもsunken eyesなどと言うから、けっこうゴボッと沈む感じ。
フネの造作の一部で“水没した”とかいうことになると、また意味が変わってしまうから、それはないとしても、デッキからは相当に低められた場所ということになる。つまり、コックピットというのはデッキの一種ではなく、デッキに設けられた、ある種の開口部と考えたほうが分かりやすい。当然、開口部なのだから、小型艇ではその底は船底だが、それでは人間がそこで過ごすのに都合が良くないから床を作る。この床はソール(sole)と呼ばれるのが普通。“底”に設けられた床なので、感覚的にも分かるような気がする。小型艇の場合、キャビンの床も同様な位置付けなので本来はソールである。
Fig.1は小型艇の構造を概念的に示したもので、Fig.2はそれをバラしたところ(というか、組み立てるところというか)である。もちろん、実際のフネは、単純化して一体成形としてある部分もあるし、逆に、もっと複雑な組み合わせとなっている部分もあるが、概ね、こんなものだと思っていただいてかまわない。

 
Fig.1
小型艇の構造はだいたいがこういったスタイルである。デッキを四角く“切り取って”設けられているのがコックピット。こういったスタイルのデッキは、完全に張られているデッキに対して、一部が開口しているというところから、ハーフ・デッキと呼ばれたりもする。コックピットを開口した残りの部分がデッキだから、前方はフォワード・デッキ、両脇がサイド・デッキ、後方がアフター・デッキである。この図のフネでは、コックピットの内壁は設けられていないが、コックピット全体をバスタブ型に成形し、コックピットソールから内壁まで一体のものや、さらにデッキからコックピット内壁、コックピットソールまで一体成形というものもある。これをバラしたのがFig.2だが、一連の図は、逆に下から見ていただいたほうが、実際の組み立て順に近いので、分かりやすいと思う。
    Fig.2    
デッキに設けられた四角い開口部がコックピットで、その下に設けられている床がコックピットソール。このソールはハルに取り付けられたフレームに設けられている。実際のフネでは、ソールにハッチを設けて、その中をストレージやフィッシュボックスにしたりしているわけだ。
最近の小型艇の中には、デッキからコックピットソールまでをバスタブのようなスタイルで一体成形としているものもあって、そういうフネだと、ハルが1発成形、デッキからコックピットも1発成形、強度部材として入れられるストリンガー(縦貫材)やフレームを除くと、2個の大きなパーツのみというものもある。FRPのフネというのは、基本的に大きなプラスチックモデルなのだから、これは当然かもしれない。
    デッキ。実際にこういったシンプルなものはほとんど無い。コックピットの内壁などとは別体でも、操舵席のインパネを一体にしたり、コックピット開口の強度のための折り曲げなどを設ける。中央が凸状の弧を描いているのはキャンバーといって、強度確保の他、デッキの排水性を良くするための造形。
       
    ビーム(梁)とコックピットソール。ビームはデッキを支える強度部材だが、かなり大きなフネまで、デッキがその形状のみで強度を確保できるものとなった現在は、省かれることが多い。古い資料では、ビームに張られるのがデッキであるのに対して、フレームに張られるのがソール、という定義もある。
       
    フレームとストリンガー(縦貫材)。この程度のフネで、こんなにゴツイものは使わないが、多かれ少なかれ、FRP艇にはこんなカタチのものが組み込まれる。フレームの下半分はバルクヘッド(隔壁)的な役割もある。材質は合板などだが、ストリンガーには発泡素材をFRPで巻いたようなものも多い。
       
    バウのバルクヘッド(隔壁)とトランサムボード。トランサムのそれはハル成形時に積層内部に組み込まれることも多い。このフネのバウのバルクヘッドは、いわゆるウォータータイト(水密)で、バウに浮力室を設けるなどの役割も担っている。材質は通常合板で、FRPコーティングなどを施す。
       
    ハル。小型艇のハルは一体成形で、型も分割型としないケースが多いため、逆テーパー(メス型内部から製品を抜き出せないようなカタチ)を用いないようにする。一見逆テーパーに見えるようなものでも、ハルを抜き出すときに真上には抜かず、斜め前方へ抜き出すようにして対処しているケースもある。

機能的な造作と装備

フィッシング向きに作られたボート、それもアンダー30フッターの、比較的小型のものでは、船上のスペースも限られるし、やたらとフネを重くするというわけにもいかない。大きなモデルならば、フィッシングに必要となりそうな装備を片っ端から選んで取り付けることが可能だし、その方法にしても、場所にしても、それなりの自由度があるが、小型艇でそれをやってしまうと、アングラー自身の居場所がなくなってしまう。そこで、とある大型コンバーチブル(70フッター)のベイトプレップ(冷凍庫やタックルロッカーなどを収めた本格的なもの)が占める面積を調べたら、なんと、それだけで25フッタークラスのバウカディ・スポーツフィッシャーマンのコックピットを3/4も占領することが分かった。さすがにこれは極端な例だが、あれも必要、これも必要と、なんでもかんでも好き勝手に取り付けていくと、それだけでけっこうな量になってしまうのだ。

 
両舷にフィッシュボックス、中央にポンプ給水/ビルジ排水のウェル。周囲には非常にしっかりとしたボルスターがあり、トランサムのそれは折り畳みベンチのバックレストを兼ねている。トランサムの両舷にあるのは、浅めのベイト用トレイ。フネは30フィート。
 
フィッシュボックス片側は取り外し式で、どちらに入れるも自由。船尾中央にはベイトプレップとなるウェル、両舷にウォッシュダウンノズルが見えるが、片側が海水で片側が清水。船尾の船外機ブラケット兼用プラットフォームへのドアも両舷。これで23フッター。
       
 
インボードエンジン仕様の25フッター。シンクやウェルの備わったベイトプレップがエンジンボックスを兼ねるため、邪魔にはならない。中央のフィッシュボックスにはスカッパーが見えるが、これは船底貫通ではなく、その下のプロペラシャフトの点検口。
 
写真自体は42フィートのコンバーチブルだが、小型艇にも希にこういったチーク・ソール、チーク・カバーリングボードの付いたコックピットを備えるものがある。雰囲気もさることながら、日光の照り返しを防ぎ、素肌に優しいといった、実用面も見逃せない。
         
フィッシングを第一の目的として建造されたフネには、他の種類のフネにはない特徴的な装備がいくつもある。フィッシュボックスやフィッシュウェルといった魚の収納場所は、どんなにキャッチ・アンド・リリースを旨とするアングラーでも、たまには必要となるものだし(ベイトを入れるということもある)、クラスの異なるロッドの何本かは手の届くところに置いておきたいはずだ。小物の置場もあったほうが便利に違いないし、ベイト加工のための設備や、コックピットを洗い流せるような蛇口もほしい。こういったものの一部には、フィッシングに関わりなく作られたフネの装備品でも間に合うものもあるが、やはりフィッシングを大前提としたフネのそれには、とてもとても機能的には追い付けない。
Fig.3は、25〜30フッター程度のバウカディ・スポーツフィッシャーマンをイメージして描いた平面図である。実際のフネではなく、筆者の頭にあったいくつかのフネの特徴をミックスしたもので、エンジンやカディ内部のことなど全く考えていないが、それでも、こういったフネに近いものは少なくない。で、今回はいろいろなフネの、いろいろな部分の、いろいろな造作を、この図に当てはめてご紹介することにしよう。
         
 
1. 炎天下、ゆるゆると動き回ることの多いこの種のモデルでは、サンドジャー(日除け)は必需品。こういったハードトップは定番。このクラスだとハードトップ上のロケットランチャーも定番。季節や天候を問わず頑張るためのエンクロージャー(囲い)も定番。
 
2. シートの基部を利用したフィッシュウェルは小型艇に多い装備。水の汲み入れはもちろんポンプだが、吃水より高い位置なので排水は自動。ポンプが故障したとしても、とりあえずはバケツなどで水の汲み入れは可能だし、排水だけは行えるから安全である。
       
 
3. ヘルムステーション(操舵席)とコックピットを隔てるような位置に設けられた、シンクとタックル入れの組み合わせ。これはヘルム回りをあえてコックピットと隔てて、ちょっとだけ寛げるようにする意味もある。もちろん、ベイトプレップとしての役割が主。
 
4. 典型的な取り外し式のフィッシュボックス。この種のフィッシュボックスは氷詰めが基本なので、ボックスや蓋に断熱材を使っているものも少なくない。取り外し式にするのは、持ち運びを考慮して、というだけでなく、その下に点検すべきものがあるケースも多い。
         
   
5. コックピット側壁(つまり舷側の内側)に設けられたホリゾンタル・ロッドラックと上部に張られたボルスター(パッド)。ロッドラックはロッドだけでなくギャフやテイラーなどを収めるにも有効。上部のボルスターは揺れる船上での身体ホールドに役立つ。   6. サイドデッキに前後して埋め込まれたロッドホルダー。このフネは写真の左がバウで、前方のものは30度ほど外側に振り出してある。サイドデッキの幅があまりに狭いと、この振り出し角に自由度が無くなる。ロッドホルダー間にはチークのカバーリングボード。   7. コックピットに埋め込まれたフィッシュウェル。アクリル製の水はね防止用中蓋付き。給水はポンプ、排水はビルジに落としてビルジポンプ。船底貫通型と異なり、隔壁の不具合で浸水することもない。ビルジポンプ故障を知らずに水を抜いても、量は知れている。
         
   
8. コックピットの最もトランサム寄りに設けられたフィッシュボックス(写真左がトランサム)。把手の付いた向こう側はもちろん、実は手前も取り外し式。これはちょうどこの下にラダーシャフト(舵軸)があり、そのメンテナンス・ハッチを兼ねている。   9. これはトランサム外付けの防水布製のウェル。簡単なものだが、水は海水ウォッシュダウンなどを使って注ぎ入れることもできるし、不要な場合は畳んでおけばいいので、それほど邪魔にならない。価格的にもそこそこだが、いまのところ国産品は無いようだ。   9'. これは少々大きなフネのディテールなのだが、同様のものは小型艇でも見られる。トランサム中央にウェルを設け、ここにライブベイトを入れておくと、ウェルからベイトを引き出した後、最小限の移動距離で、それを水中に放てるというわけだ。
         
   
10. 最近はスポーツフィッシャーマンといえども、ストイックにばかりはしていられないようで、ウォッシュダウンノズルの他にシャワーなども装備するようになった。このフネは船尾にあるスイムプラットフォーム兼用船外機ブラケットとの通路にそれを設けた。   10'. 場合によっては魚などのため、かなり汚れるコックピットを洗い流すための、コックピット・ウォッシュダウン・ノズル。海水ウォッシュダウンと清水ウォッシュダウンがあり、その両方を装備するフネも少なくない。写真のフネもその両方を装備する充実ぶり。   11 スポーツフィッシングに供されるボートの特徴的なクリート・システム。ホーズホールで導いたロープを、内壁のクリートに止めるというこの方法は、コックピット周囲に突起物を出さない。スポーツフィッシング向けのフネでは古くから採用されている。
 

揺れるからこそコックピット

陸から行うフィッシングとフネからのそれの決定的な違いは、フネが水面に浮いているというところだ。だからこそ、陸からのフィッシングでは狙えないゲームを相手にすることもできるのだし、水面に浮いていればこそ可能な釣法というのも存在するのである。しかしまた、水面に浮いているからこそ、起こる問題もある。それは足元がユラユラと揺れてしまうことだ。
フネが揺れる原因は、実は大まかに分けると2通りある。ひとつは船上での重心移動、つまり、たいていは乗っている人間が動き回ることによって起こる問題。もうひとつは、フネを支えている水が動くことによって起こる揺れ、要するに波だとか、うねりだとかいうものが原因の揺れだ。この他、風によってもフネは揺れるが、セールボート(要するに帆の付いたフネ)でもないと、風によってフネが揺れるような状況下では、その風によって起こる波の方の影響が大きいから、これはあまりフィッシングボートには関係がない。で、少なくともソルトウォーターの世界においては、この揺れ、特に波やうねりのそれは、まず避けることができない。
コックピットというところは、最初に述べたようにデッキから凹ませてある。だから周囲にはある程度の高さの“壁”があって、そこに寄り掛かることができ、それで身体を支えることができるわけだが、問題はその深さなのである。ゲーム相手にファイトし、それをランディングすることのみを考えれば、コックピットは浅くてもかまわない。むしろ、あえてコックピットではなく、回りに何もないプラットフォーム状のものでもかまわないだろう。ところが逆に揺れた場合の安全性を考えたら、コックピットは深ければ深いほど安心だし、その深さが人間の背丈以上あれば絶対確実、ともいえるのである。

参考までに、身長168センチ

以前からよく言われているのは、「コックピットの深さは膝以上で腰以下」ということである。とはいえ、それにはだいぶ差があって、足の短い筆者にとっても、40センチ以上の違いは確実にある。
この項では、その深さの違いがどういったものかを簡単な図で示してみようと思う。掲げた人体モデルは身長168センチ。これは日本人男性の平均だそうだが、実はこの“平均身長”というヤツは結構問題がある。仮に身長180センチが5人、身長156センチが5人だったとしても、平均身長は168センチ。だからといって、その平均だけを考え、168センチ用の服を作っても、だれもそんなものは着ない。昔からいう『帯に短し、襷に長し』の典型である。で、こういう場合はどうするかというと、その数値のどちら側を取るか、作るものの性格によって決めるべきなのである。たとえば、部屋の天井高は180センチの人に合わせて決める。通常使う戸棚の高さは156センチの人に合わせて決める。という具合にだ。ひと昔前の人間工学というヤツは、このあたりをほとんど考えなかったから、数値的には一見まともそうで、実は使いにくいという品物を作り出していたのだ。
とにかくこういうわけだから、この項の図は、たまたま身長168センチの人だと、こうなりますよ、というのが大前提。身長、釣法、海況などで、話はかなり変わる。

Fig.4 ロッド保持時の姿勢

スタンディング姿勢でロッドを保持し、膝をコックピットの内壁に押しつけたスタイルで揺れに対処するため、膝は軽く曲げた状態。どこにもつかまってないのが前提。

             
             
50cm
デッキ高はほとんど膝の位置。フネがグラリとくるとけっこう危ない。姿勢や立ち位置、海況を考慮しないと、このコックピット深さはつらい。
  60cm
一応、膝より上で身体を支えられるが、腰よりは膝に近いから、波のあるときなどはあまり舷側に寄り掛かりたくはない。あと数cm深いとだいぶ違う。
  70cm
デッキ高さは大腿部の上部。このくらいあると、いきなりグラリときても、慣れればなんとかなる。ファイト時に膝の屈伸を多用しても大丈夫だろう。
  80cm
これだけあるとさすがに安全。完全に下半身は支えきれる。ただ竿尻とデッキがほとんど同位置になるため、それが問題になるケースも想定される。

Fig.5 リーダー・キャッチ時の姿勢

リーダーをつかむ以外にも、アウトリガーのハリヤード操作などで片手をのばすケースはある。片手はどこかにつかまることが可能だが、姿勢としては少々不安定である。

             
             
50cm
片手でどこかにつかまり、確実に身体をホールドするのが必須条件。この深さでは、よほどの静水面でないと、ちょっとこの姿勢はとれない。
  60cm
片手をデッキに置くことができるとだいぶ安心できるが、とどかない。このコックピット深さでは、安心して腕を伸ばし切れるという感じではない。
  70cm
ある程度は大腿部で身体を支えられるし、空いている片手をデッキに置いてこちらでも身体を支えられる。ただし足が滑らないような履物が条件。
  80cm
こういった姿勢は、コックピットが深ければ深いほど安心なのはいうまでもない。こういう姿勢だけなら、コックピットは深いにこしたことはない。

Fig.6 ランディング時の姿勢

完全に舷外に身体を乗り出す姿勢である。実際に水面に手が届くかどうかは、コックピットの深さのみでなく、フリーボード(乾舷)高やデッキ幅にも影響されることになる。

             
             
50cm
しゃがみ込むようなカタチで内壁に寄り掛かると、フリーボードが特に高いフネでなければ、比較的容易に水面まで手が届くはずだ。
  60cm
姿勢は少し中途半端になる。フリーボードの高いフネなどだときついだろうが、一般的なフィッシングボートなら、水面に手が届くはずの深さである。
  70cm
けっこうきつい。思い切って舷外に身を乗り出せばなんとか、という程度だろう。フリーボードが高いフネやデッキ幅の広いフネだと、少々無理か?
  80cm
特に手が長いとかいう人でないと無理だろう。届くには届いても、それで作業が出来るという感じではないはず。ランディング・ドアがほしい状態。

Fig.7 造作の違いによる効果

コックピットからその周辺のデッキまで、バスタブ式に一体成形すると、内壁はツルリとした仕上がりになる。しかし、デッキがコックピットにかぶさるというか、いくらかでも手前に迫り出すような形状となっていると、ガンネル下にスペースができる。ここは、ロッドラックなどとして使われているが、膝がデッキ下に入るため、身体のホールドがやりやすくなるという効果もある。さらに、ボルスター(コックピット周囲の内壁上部に張られるパッド)が取り付けてあると、よりしっかりとしたホールドが望める。もちろん、バスタブ式のコックピットでも、ボルスターがあるだけで、同じような効果が得られる。図は深さ70cm。前ページのそれとは少々姿勢が異なる。

         
 
 
         
ロッド保持時の姿勢
膝が深く入り、ボルスターを下から押さえるようなカタチで姿勢を安定させる。重心もより低く、やや後気味にできるため下半身はより安定する。
  リーダー・キャッチ時の姿勢
下半身の安定感はロッド保持時と同様だが、片手と大腿部でデッキを挟むように押さえるカタチになる。内壁に大腿部の引っ掛かりがあるのも安心。
  ランディング時の姿勢
大腿部をボルスターに引っ掛けるようなスタイルなので、ツルリとした内壁に比べると安定性は倍増する。ただし水面に手が届くかどうかは別問題。
         
フネのコックピットというのは、機能的で、安全で、さらにフィッシングボートを名乗る以上、フィッシングを行いやすくするものでなければ意味がない。しかし、フィッシングのスタイルもさまざまなら、使う人間の寸法もさまざま、そして海況も常に変わる。すべての条件を満足させるものというのは、結局存在しないのだろう。
         

Fig.8

浅目のコックピットの場合、どうしてもスタンディングファイトでの安心感がいまひとつである。むろん、静かな湾内とか、たとえ沖でのフィッシングであっても海況に恵まれれば問題はないわけだが、そうでない場合というのもある。そんなとき、釣法にもよるが、それほど大げさでない範囲のフィッシングチェアなどを利用することを考えてもいいと思う。小型のフネの場合、たとえチェアを使ったとしても、ゲームとのやりとりは十分にスポーツとして楽しめるものである。

 
 
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フィッシングボートの基礎知識(1)
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