WHAT'S THE SPORT FISHING BOAT?
フィッシングボートの基礎知識(2) エンジン配置
文・写真・図/中島新吾
今回は、誰もが小型船舶操縦士免許の教程で習う、エンジン配置の話をしよう。とはいっても、教程で習うのはあくまでも配置そのもののこと。それだけではフィッシングボートの基礎知識にならないので、ここでは、エンジン位置とフィッシャビリティや船内配置の関係などについて説明することにする。
お馴染みの3方式
誰もが知っている3種類のエンジン形態がある。船内機、船内外機、そして船外機だ。しかしまあ、こんな漢字ばかりの言い方よりも、英語のほうが分かりやすかったりもする。そもそも船内外機なんて言い方はある種の語義矛盾といえなくもないわけで、ここはひとつ、きっちりと定義する必要がある。
で、船内機がインボードエンジン、船外機がアウトボードエンジン、というあたりは誰でも思いつくだろうが、それでは船内外機はというと、これは正確には、インボードエンジン・アウトボードドライブということになる。よくイン・アウトという言い方もするが、それは省略形。エンジンそのものの形式から考えると、船内機の仲間だし、駆動装置から考えると船外機の仲間ということになる。そもそもの生い立ちからして、インボードエンジンにアウトボードエンジンの下半分を取り付けたのだから、これは当然のこと。だから、エンジンだけに着目して、単に船内機といった場合、本来はこの船内外機というヤツも含まれるわけだ。きちんと区別しようと思ったら、一般にいう船内機は、インボード・エンジン・ダイレクトドライブなんていう言い方が適切ということになるだろう。当ウェブ・マガジンでは、船内外機をさしてスターンドライブという言い方をするケースが多いが、これは駆動方式に着目しての呼称。自動車で前輪駆動か後輪駆動かなんて言い方をするけれど、要はそれと同じ。インボードとかアウトボードに相当するのは、フロントエンジンとかリアエンジンとかいうことになる。結局は、一番分かりやすいのがいいわけで、船内機はインボード、船外機はアウトボード、問題の船内外機は船内機の一種といえなくはないから、いっそのこと駆動方式だけに着目してスターンドライブ、というのが、英語圏での一般的な用語の使われ方だ。よく省略形として、I/B、I/O、O/Bなんてのが出てくるが、これは頭文字である。
で、他にエンジンの配置とか駆動方法はないかというと、そうではない。たとえば、水を吸い込んで後に吐き出しながら走る、通称ウォーター・ジェット・ドライブは、スターンドライブとも、インボードともいえないものがあるし、ベイライナーが開発した、船外機の上部をハルに組み込んで、下半分だけ可動式としたLドライブなんていうのもある。もっとも、フィッシングボードではどれもまったくの少数派ではある。
メリットとデメリット
それぞれのエンジン配置や駆動方式には、もちろんメリットもあればデメリットもある。Fig.1〜Fig.3は、それぞれの形式を概念的に表したもので、フネは概ね30フィートクラスのスポーツフィッシャーマンだと考えてほしい。
Fig.1 こういったフネの場合は、通常、エンジンルームの上をヘルムステーションとして使う。後部コックピットは広く使え、フィッシャビリティは間違いなくいいが、どうしても高速航走能力がイマイチ。
Fig.3は、アウトボードのケース。最近はアウトブラケットが多くなってきたが、それについては後述するとして、このエンジンのメリットは、なんといってもコンパクトなことである。ただし、そのコンパクトなボディから大きなパワーを得るために、ほとんどは2ストローク。それを5000rpmもの回転数で回すことになるため、カッ飛ばすと急激に燃費が落ちるのと、低速時でもカンカン・バラバラという音は気になる。
小型インボード艇のキャビン
オープンスタイルのスポーツフィッシャーマンはだいたい前項で触れたとおりだが、デッキハウスがあり、その中にキャビンを設けるとなるとちょっと事情が変わってくる。特にインボード艇の場合、ミッドシップにエンジンルームがあるため、それをどう避けるかが問題になる。もちろん、フネが大きければ、エンジンルームの上にデッキハウスを作って、サロンの床下にエンジン、という方式でかまわないわけだが、せいぜい30フィート内外のクラスでそれをやろうとすると、フネが妙にのっぽになってしまうのだ。 しかし実際には30フッタークラスのフライブリッジ付きインボード・モデルは、いくらでもある。希代の名艇、バートラム31がそうだし、同社には28もある。ブラックフィン29やフェニックス29もそうだ。
スターンドライブとキャビン
キャビンの広さを第一の目的とするならば、スターンドライブの方が有利である。もちろん、アウトボードという手もあるが、アウトボードのフライブリッジ艇というのは非常に希(まったく存在しないわけではない)だし、基本的にはエンジンを一番船尾にぶらさげるだけだから、アレンジはなんとでもなる。というわけで、スターンドライブに話を戻すことにする。 なにしろ、スターンドライブのエンジンは船尾にべったりと寄せてあるのが普通(エンジンとドライブユニットを中間軸で結んだものもあるが)なので、その部分を除けば、船殻のすべてをキャビンとして使うことさえ可能なのだ。だから、国産艇、輸入艇を問わず30フッター程度で、キャビンの居住性を重視したフネは、ほとんどがスターンドライブを採用することになる。 しかし、フィッシングということになると、そう簡単にはいかない。前項でも述べたように、コックピットの床をフィッシングに最適な高さ(というか低さというか)に設定すると、スターンドライブはエンジンボックスが突出してしまう。2基掛けならば、2基のエンジンでほぼビーム一杯となるだろうから、コックピットのスターン側に段差が付き、そこだけ浅いという、実に使いにくいスタイルとなってしまう。 コックピットをとにかく平らにすることを考えると、エンジンの上の高さでソール(床)を張るしかない。そうすると、水面からはかなり高い位置にあるコックピットとなる。もちろん、そこから人が転げ落ちるようではコックピットとして使えないが、だからといって、フネ全体のフリーボード(乾舷。水面からデッキまでの高さ)をむやみやたらに高くするわけにもいかない。その結果、どうしてもコックピットは浅くなり、それを補うべく、周囲にグラブレールを設置したりすることになる。Fig.7はエンジンをコックピットの下に収めた、スターンドライブ艇の概念的なモデルだが、ここまで極端でなくとも、この種のフネは多かれ少なかれ、こういった造りになってしまうわけだ。
スターンドライブというのは、さまざまな面で高速滑走艇にとって、非常に優れたパワーユニットだし、小型のフライブリッジ艇などではキャビンスペースの確保にも役立つものだが、ことフィッシングとなると、どうしてもコックピットの高さが問題になってしまうのである。
小型軽量のアウトボード
アウトボードエンジンというのは、とにもかくにも、ボートを動かすのに必要なすべてが(もちろん燃料は別だが)一体化している。エンジンンがあり、トランスミッションがあり、さらにプロペラが付いている。それを、まんま操向して、フネをコントロールしようというのだから、重さが1トンも2トンもあったのでは困るし、嵩がやたらにあっても困る。だから、アウトボードエンジンは、とにかく軽く、しかも嵩張らないというのが、大前提となるのだ。 現在、通常のボートに使われているアウトボードエンジンには300馬力のV8まである。しかし、軽量小型を旨とするエンジンだから、ごく一部を除いてすべてが2ストローク。当然、トルクよりも回転数で馬力を稼ぐタイプだから、そのV8でも5500rpmも回ってしまう。それでも重さは280kg強。同馬力のスターンドライブ・ユニットが500kgを軽く超えていることを考えれば、非常に軽量ということができるだろう 軽量小型は、フィッシングのためのスペースを広く取りたいボートにとって、非常に重要である。しかも、アウトボードというくらいで、舷外に取り付けられるわけだから、コックピットにエンジンボックスが突出することもない。実に便利な存在なのである。そこで、その便利な存在をさらに便利に使うため、さまざまな工夫がされてきた。 スポーツフィッシングのためのボートに限らず、昔から行われてきた“普通”の方法というのがFig.8のトランサムへの直付けである。もちろん、ある程度の大きさのフネになると、エンジン取り付け部自体はかなり低いから、その前方に船尾から打ち込む水を受けるためのモーターウェルが必要になるが、トランサムとの関係は変わらない。
アウトブラケット新時代
コックピットの広さということだけを考えたなら、これはもう、エンジンを完全に外に追い出したアウトブラケットが一番である。当初は、Fig.9のような、トランサムに後で取り付けるようなスタイルで、材質も全アルミ製。パイプ組みのようなものも市販されていた。この種のブラケットの利点は、とにかくどんなフネでもアウトボード仕様にできるということで、器用な人はもともとインボードだったフネをエンジンの寿命を期に、自分でアウトボードに改装するというようなこともけっこうあったようである。 アウトブラケットの利点は、単にエンジンをフネの外に追い出せるという、スペース効率上の問題だけではない。トランサムからエンジン(正確にはプロペラを)を遠ざけることにより、滑走時の抵抗を減少させるということもできるのだ。