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WHAT'S THE SPORT FISHING BOAT?
フィッシングボートの基礎知識(9)
ハル(2)
文・図/中島新吾 |
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前回は、ハル形状についての最もとっつきやすい部分、船首尾線に対して垂直な断面の話だった。今回は、その断面がどういう風に変化していくかを考えることにする。通常見ることのできる断面というのはトランサム付近のみだが、同じトランサム形状をしていても、実はミッドシップにかけての船底形状の変化で、ハル特性というのは随分と変わるものなのである。そして、その変化に基づいた船型の分類というのも存在しているのである。
バトックライン
今回はまず、ひとつの用語を覚えておいていただきたいと思う。これはフネの艇体線図などでよく使われる用語で、バトック・ライン(buttockline)という。もともとはハルの船首側がバウで、その形状を表す線をバウ・ライン、同じく船尾側(の主にボトム周り)をバトック、その形状を表す線をバトック・ラインと呼んだところからで、正確にはバウ・アンド・バトック・ライン(bow and ――)ということになるのだが、これだとやたらに長いし、バウ・ラインというと、船首舫い綱というような意味もあったりするから、バトック・ラインだけで通用するようになっている。で、これはハルのボトム形状、とくに船首尾方向への変化をうまく表現できる線である。具体的にどういうものかというと、船首尾線と平行な垂直面で、ハルを縦割りにしたときにできる線(Fig.1)あたりを考えると分かりやすいと思う。実際には、ハルができてからこの線を考えるわけではなく、設計段階でハル形状を検討するために用いられるものなのだが、もちろん、出来上がったハルからそれを類推することも可能だ。 |
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特に、そのボトムが、どのくらいの仰角を持っているかについては、バトック・ラインを考えるのが一番である。バトック・ラインが前下がりならば俯角、前上がりならば仰角、といった具合だ。また、フネの平面形というのは先細りだから、バウ側でのバトック・ライン(というのは変で、バウ側では本来バウ・ラインというべき)は当然前上がりになるわけだが、その上がり方や描く曲線、さらには複数のバトック・ラインの間隔で、トップサイド(ハルの舷側部分)に付いたフレアーの具合(開き具合)、エントリー(バウ下部の水に突っ込む部分)の鋭さなども類推できる。ただ、バトック・ラインの仰角云々は、フネが水平状態での話である。
前上がり、前下がり、水平
バトック・ラインというのは、フネのボトム下を通る、水の流れを表したものでもある。もちろん、ボトムの下を通る水の流れというのは、すべてが船首尾線と平行というわけではないが、それでも、フネのボトムに、その流れがどういう作用を及ぼすかということについてもモデルを考えるうえで、便利であることはいうまでもない。
一本一本の線というのは、基本的に3種類しかない。前上がり、前下がり、そして水平である。曲線の場合は、当然ながらその部分部分の接線を考えることになる。
前上がりのバトック・ラインが示される部分は、水に対して仰角を持っているということになる。仰角を持ったボトムの下を水が流れれば、そのボトムは持ち上げられるようになるわけだが、これが、滑走艇が滑走するための揚力となる。速度やフネの重量で若干の違いはあるものの、この仰角は2〜3、4度程度が良いとされている。ただ、以下に述べる前下がりや水平のバトック・ラインの場合でも、フネ自体がバウを上げれば、当然バトック・ラインも前上がりとなる。一般的なフネのバウというのは、皆前上がりのラインを持っている。これは当たり前のことかもしれないが、バウが波のなかに突っ込まないためには、結構重要な事実である。
前下がりのバトック・ラインというのは、それだけでは存在し得ない。つまり、どんどん下向きに下りていっても、どこかで前上がりにならないと、一般的なフネのバウができないからだ。そのため、通常前下がりのバトック・ラインはフネの後半部分に現われる。結果として、そういったフネのボトムというのは、飛行機の翼の断面を天地逆にしたようなかたちになるから、揚力を発生するどころではなく、全体としては負の揚力、つまりフネが水に沈み込む力が発生することになる。つまり、滑走艇のボトム形状としては、あまり適していないことになるわけだ。
最後の水平なバトック・ラインというのは、フネの姿勢によって容易に、仰角も、俯角も、取りうるものということができる。もちろん、これも前述の前下がりのそれと同様、バウまでずっと水平というラインは存在し得ないから、最終的には前上がりとなる。
下の図は、前上がり、前下がり、それらが混在したハルなどを模式的に示したものだ。そっくりそのままのハルというのは存在しないが、似たものは結構ある。 |
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ボトム後半のラインはすべて前下がりというハル。船尾側からの図でも、ミッドシップまでのすべてのボトムが見える。ハル前半では揚力を得られるが、後半は揚力が生まれない。滑走型のハルとしては不適当だが、ボトム下をスムーズに水を流すという考え方で、低速の排水量型艇には用いられる。 |
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ボトム外側ラインaは前上がり、内側ラインbは前下がりというもの。ワープトV(ねじれたV)の一種。フネが前進すると、とりあえずは容易に揚力を得られるが、速度が上がると、ボトム外側の仰角が大きくなりすぎる。ボトムのねじれ具合の大小で、いろいろな速度域のフネに対応している船型だ。 |
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ボトム後半のラインは水平かつ平行。船尾からの図でも分かるように、ミッドシップまでボトム形状は変化せず、船幅が広がる分だけチャイン位置が高くなる。いわゆるモノヘドロン船型で、図のようにデッドライズの深いそれはディープV系である。仰角=前後トリムで、速度に対して強力に維持される |
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ミッドシップ形状はFig.4とまったく同じだが、キール位置を変えずに船尾のデッドライズを若干浅くすると、図のようにすべてのラインが前上がりになる。Fig.4に比べるとハンプ越えなども容易だが、強力な前後トリムの維持という面は薄れる。これも、ワープトV船型の一種といえよう。 |
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