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HOME CHASE フライでカジキを釣る BILLFISH ON FLY(4) メキシコ、プエルト・アヴェンチュラ沖のアトランティックブルーマーリン

BILLFISH ON FLY(4)
ATLANTIC BLUE MARLIN ON A FLY

メキシコ、プエルト・アヴェンチュラ沖の
アトランティックブルーマーリン

文/ジャック・サムソン
訳/編集部

 
  筆者のジャック・サムソンは世界でただ1人のフライロッディングによる7ビルフィッシャー。これまでにも世界各地のホットスポットを釣っており、ベスト・オブ・ベストがどこなのかを知っている。そこで、これからビルフィッシャーを目指すフライロッダーのために、今回から数回に渡って、そういったベストスポットでのフィッシング・ストーリーを紹介していきたい。紹介するほとんどのスポットは、日本のアングラーにはなじみの薄い所ばかりだが、全て実績のある場所なので情報の確かさとしてはかなり信頼できる。ぜひ日本人アングラーにも挑戦していただきたい。さて、今回はプエルト・アヴェンチュラ沖のアトランティックブルーマーリンである。プエルト・アヴェンチュラは、メキシコのユカタン半島、カンクンの南に位置するリゾート地で、セイルフィッシュやホワイトマーリン、ブルーマーリンのスポットとして知られている。
エメラルド色に縁取られた砂浜から、たった100ヤード沖でいきなりロイヤルブルーに変わる海なんて、ハバナにある有名なドロップオフで見たのが最後だった。それも1978年の第1回ヘミングウェイ・インビテーショナル・ビルフィッシュ・トーナメントに参加した時のことで、随分と昔のことである。「My God!」と私は思わず叫んでしまった。23ftのSeacraft「エル・ピカンテ」のキャプテン、ウェス・ラグルズに「海底はどこにいっちまったんだい?」と訊ねると、彼は笑いながら、「これが〈The Wall〉さ」と答えた。「オレの知った限りじゃ、長さは地球の4分の1周ほどにもなるらしい。ところでリグはどうする」とウェス。「なんせビルフィッシュのフライフィッシングは初めてなもんでね。アウトリガーは使うのかい?」
「右舷だけだ」と私。「コックピットの左舷でキャストするから、リガーは邪魔なんだ、コナヘッドを右舷のリガーで流して、フックなしのバラオベイトをもう1本のロッドでタワーから君が操る。右舷のルアーを巻き取るのはメイト、バラオは君だ、ウェス。ティージングは、魚の鼻先までギリギリに寄せておいてから、グイッと引っ張って引き離せばいい。そのスキに私がフライをキャストするから、その時に、モーターをニュートラルに入れてくれ」
「分かった」そう言うと、ウェスはすぐに若いブロンドのメイト、ブッチ・ブイーに右舷のアウトリガーを下げるように指示した。
 

メキシコはカンクンの南、プエルト・アヴェンチュラにある「ホテル・オアシス」が今回の基地。
  私はソフトプラスティックでできたスクイッドのデイジーチェーンを右舷のクリートに結びつけ、ティーザーとしてトランサムの後方約20ftに流した。こうしておけば、ビルフィッシュが来てもそのまま放っておける。そしてベイトウェルからバラオを取り出し、ウェスのロッドにフックレスでリギングして引き波のなかへ投げ入れた。バラオベイトは約60ft後方、ブッチが右舷のアウトリガーから流しているイエローとグリーンのストライプ模様のコナヘッドとほぼ同じあたりにある。ウェスは235馬力の船外機のスロットルを調節して、小さなボートをトローリングスピードで走らせた。
 
海はかなり荒れていて、北東の風が常に吹いている。私は30ftのシンキング・シューティングヘッドと20Lbのクラスティペット、それから100Lbのショックティペットとフライをすべて引き出して、コックピットの左舷隅にきちんとコイル状に置いた。後はトランサムにフライロッドを立て掛けて、トローリングしているコナヘッドとバラオベイトを見守るばかりだった。
「エル・ピカンテ」による出船は、今回の釣行の土壇場、最後の最後にいわば突発的に決まったことだった。元はと言えば、ビルフィッシュのフライフィッシングをビデオにしたいので同行してもらえないかというアリゾナのビデオ制作会社からの1週間前の電話が発端だった。フライロッドでビルフィッシングができるならどこへでも行くというのが私の信条だが、それが決して簡単な釣りではないということだけは一応テレビクルーに伝えておいた。キューを出せばいつでもビルフィッシュが登場すると思ったら大間違いである。フライの場合は特にそうだ。だが、こうした私の苦言を聞いた後でさえも、彼らは撮影にかなり意欲的で、是非トライしたいと主張した。
ところが、今朝はその意欲もどこかへ消えてしまっているようだった。ビルフィッシュの登場を波に揉まれて待ち続け、昨日1日をまったくの無為にしてしまったのが原因らしい。私が準備万端で現れると、撮影隊を仕切る若いプロデューサーは、今日はトローリング・アングラーたちと一緒に海へ出ることにしたと言う。とりあえずビルフィッシュがフックアップしてファイトするのをフィルムに収めたい。それには通常のトローリングのほうが確率が高い。それがその若いプロデューサーの言い分だった。
「もちろんフライでの挑戦も考えてますよ」とプロデューサー氏。「クルーが番組に必要なだけの絵を撮影した後でね」
じゃあ私は今日1日何をすればいいのかと思いながら、しぶしぶ承諾した。
 
戦闘的な風貌のシークラフトは、「EL PICANTE」“ホットな奴”の意味を持っていた。
 
仕方がないので、私はビーチで寝そべることにした。それこそ無為な時間である。そこらじゅうで肌を焼く美女の群れに心を動かされることもなく、私の思考は宙ぶらりんのまま洋上を漂っている。Tシャツ短パン姿の愛想のいい男が現れたのは、ちょうどその時だった。「すみませんが」と男。「先ほどの会話が耳に入ってしまったんですが、あなたはフライをなさるんですか?」私は頷き、男と握手した。「実はですね。私は小さなボートを持っているんです。どうです、我々と釣りに行きませんか。フライでビルフィッシュを釣るというのはまだ未経験なもので」
それから我々が出港するまでに、20分も掛からなかったはずである。
カンクンの南60マイルに位置するプエルト・アヴェンチュラは、ビッグゲームアングラーにとってはヨダレもののロケーションを誇っている。沖には数マイルに渡って絶好のドロップオフが続き、15マイル先のコスメルを望むことができる。事実、3月から5月のシーズンには、コスメルからも数多くのゲームボートがセイルフィッシュやホワイトマーリン、アトランティック・ブルーマーリンを求めてドロップオフへやってくる。

この釣行でアトランティックブルーをキャッチしたバラオ(バリフー)のイミテーションパターン。
  「ビルフィッシュ!」突然そう叫んだブッチが、アウトリガーで流していたコナヘッドを巻き取ろうと、ロッドに飛びついた。見ると、フックなしのルアーの周りでビルが飛沫を上げている。私がフライロッドをつかむと、今度はバラオベイトのほうにアタックを始め、ウェスがリーリングするよりも先にそれを飲み込んでしまった。ウェスはバラオベイトのティーザーを魚から引き離そうと必死だったが、こうなってはもう後の祭りである。ラインの抵抗を感じたのか、40Lbほどのセイルフィッシュは、テイルウォークを始めてしまった。結局、この「ファイト」は100ヤード後方でセイルがいやいやベイトをを吐き出すまで続くことになった。
「エル・ピカンテ」の周囲には他のゲームボートが何艇もあって、ウェスはそれらのキャプテンたちと絶えず無線で交信した。すでにセイルフィッシュをキャッチしているボートも多かったが、我がテレビクルーをのせたアングラーたちは不幸にも依然として釣果に恵まれずにいた。
 
「5月後半のこの時期はかなりいいはずなんだ」とウェスは言って、我々は再びトローリングを始めた。「ここ数日の間は泣かず飛ばずだったが、おそらくビルフィッシュは北に移動を始めているんだと思う。夏や秋になってもコスメルとのチャネルでは相変わらず好調は続くはずだが、そろそろシーズンも終わりなのさ」
ティーザーの後ろに再びビルが見えたのはそれから1時間後のことだった。ウェスはすぐにロッドを持ち、魚のチェイスを誘うようにバラオベイトを必死にリーリングした。勢いのついた魚はすでに射程距離にある。
「ニュートラルだ!ウェス!」私はバックキャストに入った。ボートがスローダウンした時、バラオをイミテーションした私のフライはちょうど魚の横に着水した。それから素速く1回ストリッピングすると、ビルフィッシュは水を割ってフライを飲み込んだ。コナヘッドを回収したブッチは、今度はスクイッドのデイジーチェインを回収している。ビルフィッシュは水柱を立てて飛び上がると、そのままジャンプを繰り返した。
「マーリンだ!」ウェスがそう叫んだ時にはすでに30Lbのバッキングが数百ヤードも出されていた。「光を反射してホワイトかブルーかは分からないが…」
「小型のブルーじゃないかな」と、スクイッド・ティーザーを手繰りながらブッチが言った。「背ビレが尖っていたから。ホワイトの背ビレは丸いからね」
マーリンはバッキングを300ヤードも引き出してからようやくジャンプを止めた。ウェスがすぐにリバースを掛けてボートをバックさせると、海水が波のようにトランサムを越えてきた。
その小さなブルーマーリンはタフな魚で、ジャンプの次は潜り始め、キャッチまでに20分を要した。ボートの左舷側に魚を寄せると、ブッチがすかさずビルをつかんだ。フックは口の角にしっかりと掛かっていた。ウェスはタワーの上から写真を撮っている。それからフックを外し、眩しいほどにストライプを輝かせるマーリンを無事リリースした。推定重量は65Lbである。
「このあたりでブルーマーリンがフライでキャッチされたのは初めてじゃないかな」とウェス。「ホワイトやセイルはコスメル沖で釣られているが、フライでブルーがキャッチされたという話は聞いたことがない。まあ少なくともエル・ピカンテでは最初だよ。それは絶対だ」
 
アトランティックブルーとファイト中の筆者。フライロッドによるファイトはかなりエンジョイアブルだ。
 
私にとっては、フライでキャッチした2尾めのアトランティック・ブルーマーリンだった。1983年にジャマイカ沖でキャッチしたことがあるが、キャッチやリリースの瞬間を写真に撮ったのはこれが初めてである。
例のビデオ・プロデューサーが慌てたのは言うまでもない。ウェスと私はその小型のブルーマーリンがフックアップ後に17回も元気よくジャンプしたことなどを詳細に話してやった。実際、フライに掛かったアトランティック・ブルーマーリンをビデオに収めたものはいないのだ。彼らにもう少し忍耐力があれば、その栄誉は彼らのものになったはずなのだ。「あんな凄いアクションを撮り逃すなんて、もったいなさすぎるよ!」肩を落としてホテルのロビーを去るプロデューサーにウェスが止めの一発を与えた。
「しかし考えてみると……」とウェスがつけ加えた。「君は君で映画スターになりそこねたってわけだよね」
キャプテン・ウェスリー・ラグルズと「エル・ピカンテ」を予約するには、カリフォルニア州TEL:(805)684-6390のキャビータまで。メキシコのプエルト・アヴェンチュラにいるキャプテンに直接電話するなら52-987-41375まで。
  筆者紹介/ジャック・サムソン(JACK SAMSON)
「フィールド&ストリーム」誌の前編集長。現在は「マーリン」誌のフライフィッシング部門、及び「フライロッド&リール」誌のソルトウォーター部門の編集を担当。ソルトウォーター・フライフィッシングの洗礼を受けたのは60年代半ば。ボーンフィッシュ、パーミット、ターポンといったフラットの釣りから始まり、やがてドルフィンフィッシュ、ツナ、アルバコア、ワフーといったオフショアまでカバーするようになる。ビルフィッシュに取り憑かれたのは、1972年のトーナメントがきっかけ。フロリダキーズ沖でアトランティック・セイルフィッシュをキャッチした後、83年にはジャマイカ沖で43Lbのアトランティック・ブルーマーリンを上げる。アトランティック・ブルーをフライでキャッチしたのは世界で2人目。85年にはコスタリカにて105Lbのパシフィック・セイルフィッシュをキャッチ。続いてメキシコのマサトランにて131Lbのストライプト・マーリンを射止める。89年の第1回インターナショナル・フライフィッシング・トーナメントでチーム優勝。91年にはオーストラリアにて50Lbのブラックマーリンをキャッチ。同年10月にはベネズエラで60Lbのホワイトマーリンをキャッチ。両洋のセイルフィッシュと4種類のマーリンをフライでキャッチしたのは、ビリー・ペイトに次いで2人目。そして92年の8月、念願のパシフィック・ブルーマーリンをキャッチし、史上初の7ビルフィッシャーとなった。フィッシング&ハンティングに関する著書は計15冊にも及び、中でも「ソルトウォーター・フライフィッシング」は名著の評価が高い。
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