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1774年12月24日、大英帝国の偉大なる探検航海家ジェームズ・クック船長は、この日、南太平洋の真只中にポツンと浮かぶ、珊瑚礁に囲まれた宝石のように美しい小島を発見した。(さらに詳しく語れば、この島はハワイの南方1,300マイルに位置するギルバート群島の一つであり、総面積は140平方マイルで、正式名はキリバス共和国という)
タック船長は、発見した日にちなんで、この島をごくあっさりとクリスマス島と命名したが、それがいかにこの島にふさわしい名前だったか、むろん当時の彼には知る由もなかっただろう。 |
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いにしえの昔から、クリスマスは、特に子供たちにとって数々の忘れがたい思い出が作られる、年に一度の心踊るイベントである。ちと無理なコジつけかもしれないが、無垢の大自然の美しさ、純朴な島民、そして、何よりも重要な魚影の豊富さは、釣り人にとってこの南洋の楽園での日々をまさにクリスマスと化させるのである。
かつてこの島で過ごした一週間は私にとって生涯最高の釣行であったが、その最終日の朝食の席で、同行の釣友ボブ・トンプソン(元南カリフォルニア州判事でソルトウォーター・フィッシングの名手)は、冗談半分で「この釣行記を書くのはきっと苦労するだろうね」と私に告げた。「まったく、あまりにも素晴らしすぎて、正直に書けば書くほど、読者は眉に唾をつけたくなってしまうだろう。ほんとに信じがたい釣果だったからね。形容詞も足りなくなってしまうんじゃないかな」 まったく彼の言う通りだった。この島での釣りがいかに素晴らしいものであったか、それを伝えるのは、ほんとに至難の技なのである。この釣行をお膳立ててくれた旅行会社『フロンティアーズ』のスージー・フィッツジェラルドでさえ、私の絶賛ぶりをごくごく控えめにしか受け取ってくれなかった。彼女はこう私に言った。「ニック、あなたはこの島がほんとうに好きになったみたいね」私にすれば“恋におちたのね”と言ってもらいたかったが……。 |
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当時の、30年あまりに及ぶ釣り人生のなかで、私はそれまでに世界各地の有名な釣り場でグッド・フィッシングを楽しんできたが、釣行全体の充実度という点にかけては、クリスマス島の右に出るものは断じてなかったといえる。まさに、すべての釣り人が見る夢をそのまま具現化したのが、この島なのだ。対象魚はバラエティに富み、釣り方も千差万別で、どんなタックルを持っていこうか、ということに頭を悩ますのが、唯一の問題といえるだろう。フライによるフラットのボーンフィッシング、磯やボートからのスピニングリールを使うライトタックル・フィッシング、スタンダップ・ギアを使ったヘビータックル・フィッシング……等々、そのどれもがあまりにも素晴らしすぎて、いったいどれに照準を絞ったらいいのか、ご馳走を前にした欠食児童のような心境になってしまうほどであった。 |
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釣り自体のアドバイスは無数にあるが、まずはタックル別に順を追って書いていくことにしよう。まずはフライフィッシングから始めよう。私はカリブ海とフロリダ・キーズで20年以上ボーンフィッシュをフライで釣ってきたが、その魚影の濃さは、クリスマス島に比べれば、まことにお粗末だったと言わざるを得ない。ソルトウォーター・フライフィッシングは決して素人向きの釣りではないけれど、ここクリスマス島では、たとえビギナーでも、時として信じがたい釣果を得ることが出来るのだ。カナダのバンクーバーから参加したヘンリー・ビューダイとカリフォルニアのディック・シャウアーもそんなビギナーのひとりであった。或る日の午後3時から5時までの間に、ヘンリーは合計7尾のボーンフィッシュをフライで釣りあげ、そのどれもが体長25インチ以上あったのである。その前日、私は地元で“パント”と呼ばれている平底舟でフライフィッシングをしていたが、そこでも彼は8Lb以上あるボーンフィッシュを見事にランディングした。それから数日後、我々はフラットでウエーディングしながらフライフィッシングをしていたが、そこでも彼は大型のボーンフィッシュをヒットさせた。だが、そのボーンフィッシュは、不運にも途中でブラックティップ・シャークによって見事に“刺身”にされてしまったけれど……。
一方、ディックの方は、フライによるボーンフィッシングが生まれて初めてだったにもかかわらず、そのまさに初日に合計11尾のボーンフィッシュをランディングしてしまった。なかでも彼の最上の釣果は、わずか3時間のうちに、合計12尾のボーンフィッシュをランディングしたことで、そのうちの4尾は体長30インチ以上の大物であった。1週間で、彼とボブ・トンプソンは、合計92尾のボーンフィッシュをランディングし、その半数は体長28インチを越えていた。それくらいのサイズになると体重も5〜9Lb近くあり、ヒットすると90ftのフライラインはアッという間に出てしまい、バッキングまで達することが度々あるのである。フラットを遊泳する魚影を見ながら、そこにフライをキャストする。すかさずボーンフィッシュがそのフライを追ってきて、パクリと口にくわえ、銀色の体をキラめかせて澄み切った海中を躍動する光景は、まさにソルトウォーター・フライフィッシングの最高の醍醐味ではなかろうか。クリスマス島では、さして珍しいことではない。それだからこそ、この島を訪れた多くのソルトウォーター・フライフィッシャーはリピーターになってしまうのだ。それも無理のないことではある。
クリスマス島でお勧めのフライタックルは8番。フライラインはウエイトフォワードフローティングだ。私は、特にフラットでは、オービスのトロピック・ウエイトフォワード・フライラインを用いたが、その優れたキャスティング性能と扱いやすさから、この選択が正しいものであることが実感できた。ボーンフィッシュはストライク直後に凄まじいばかりの突っ走りを見せる。それゆえに、使うリールにはスムーズで優秀なドラッグが備わっていることが肝心だ。釣り人の中には、数多くのボーンフィッシュとファイトした結果、ドラッグが焼きついて、事実上のフリースプールになったリールを使用しなければならなくなった人もいた。ここでのアドバイスは簡単明瞭だ。要するに、投資すべきものには、ちゃんと投資をしておけ、ということである。 |
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クリスマス島でのフライパターンは、カリブ海で使用されているものと趣ががらりと違っている。ここでは、パターンの単純化ということが基本になる。つまり、粗密なほどベターな結果を生むのである。なかでも、ブラウン、タン、イエロー、コパーまたはゴールド等のカラーを用いた「クレイジー・チャーリー」は、とりわけ素晴らしい釣果を残した。必要とされる唯一の改良点は、速い潮流の中ですみやかにフライを沈めるために、1ダースほどの1/32ozのレッド・アイをタイイングしておくことだ。私の経験から言えば、クリスマス島のあらゆるフラットでこのパターンを試した結果、その中でも、とりわけパリス・フラットは5Lb級の大型ボーンフィッシュがもっとも確実に捕獲できる場所であることが判明したのである。そのときの私の気分は、まさに『I love Paris〜』という歌を唄いたくなるほどで、むろん次に続く歌詞は『〜on a falling tide〜』となるのだが……。 |
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