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萩の黒鮪

見島沖八里ケ瀬のブルーフィン・ツナ
その幕開けの時

取材/スポーツアングラーズ編集部
撮影/津留崎健

 
ブルーフィン・ツナ(クロマグロ)の背ビレが見える。長さ300m、幅80mほどのナブラが立ち、40kgクラスの全身ジャンプが見られることも多いという。

  かれこれ8年も前になる。私は萩に行こうと思った。どうしても生きたいと思った。ブルーフィンが釣れるのである。あのクロマグロ、いや、ホンマグロが釣れるのである。「とにかく凄いんだから。幅にして約80m、長さにして、そう300mくらいかな、それくらいのナブラなんだから。それも全てホンマグロだヨ。40kgクラスものが全身ジャンプをするんだから、……。100kgクラスもかなり混じっているようだし……」当時、山口県、宇部マリーナの佐々木さんの案内で、そのナブラを目の当たりにしてきた亀井さん(神奈川県、藤沢市でトータル・マリン・サービスの会社を経営)の声は、心なしか上擦っていた。よし、それなら取り敢えず100kgクラスを目標にしようじゃないか。今回はリサーチということで“イナバの白兔”ならぬ“萩のスポーツアングラー”てな訳で、そのホンマグロのナブラの上を歩いてみようということになったのである。風が吹いたり、潮が悪かったりで2転、3転した山口行きであったが、12月13日、私達をのせた全日空「山口宇部行」699便は、年の瀬の慌ただしい羽田空港を飛び立ったのである。
萩のブルーフィン・ツナ(クロマグロ)が注目され始めたのは、当時、私達が初めて釣行した年の、僅か1〜2年のことであった。そのフィールドは、萩港から北北西330度、約45kmの沖合に位置する見島、さらにその北約20kmの海域にある八里ケ瀬がポイントである。平均水深30〜80m、東西約10kmのこの瀬は、タイ、イサキ、青物の好漁場として知られ、数々の好記録が生まれている。それまでにもタイ釣りに行った釣り人の仕掛けにキメジがヒットしたり、ブリの大物がコマセ籠ごと仕掛けを持っていった等の話は山ほどあった。ただ、1990年8月、お盆を過ぎた頃にヒットした大物は、それまでの外道とは異なっていた。「かなりの大物がいる。それもホンマグロのようだ……」という話があっという間に広まり、同年9月中旬、17〜27kgのホンマグロが4尾、宇部マリーナのメンバーによって釣られたことで、八里ケ瀬のマグロ釣りは俄然、注目を浴びることとなったのである。ただ、回遊魚の大物釣りとしては、ブリ漁が中心であっただけに、そのフィッシング・メソッドについては、当時は模索の域を出ていないのが現状であった。
そういう状況の中で、このホンマグロ釣りを、スポーツ・フィッシングのターゲットとして、さらに地域活性の目玉として、本格的に取り組み出したのが前述「宇部マリーン・クラブ」の佐々木御兄弟である。

「いやあ、最初は試行錯誤の連続でした。昨年(1990年)は、9月から12月の29日まで、通算10数回ホンマグロ狙いで船を出しました。(釣果は4本〜21本、平均すると8本前後で、平均20kg程度)。ペンやフィン・ノールの50Lb〜80Lbクラス・リールにトローリング・ロッドというタックルですが、問題はリーダーです。今は14号から18号のシーガーを使っていますが、これはやはり細い方が確実に食いがいい。サルカンを付けると極端に食いが悪くなるし、フックも、それこそありとあらゆるものを試してみましたが、それなりのものでないと簡単に折れてしまいます。それに結びも重要で、根ヅケなどもいろいろと試してみましたが……」
と、御長男の佐々木敦司さんは当時、私の持参した石鯛バリの17号や、南方石鯛の20号などをいとも簡単に折ってしまうのであった。おまけに、根ヅケでは食いが悪いと言われ、私が前夜シコシコと編み込んできた根ヅケ針は、何やらまるで立場がなくなってしまったのである。当初、私は16Lbラインでチャレンジしようと思っていた。しかし、亀井氏から、釣り場は30〜50mと浅く、おまけにアンカーを打って、オキアミのチャミングでナブラを寄せ、フカセで釣っているという状況を聞くに及び、取り敢えず30Lbか50Lbラインで強引にまず一本を釣ってみて、そのサイズとファイト具合により、20Lbから16Lbラインに切り替えていくことにしたのである。16Lbラインで大物がヒットすれば、直ちにアンカーを回収し、アンカー・ロープへのラインの絡みを防ぐと同時に、50kgを超すサイズであればボートのフォローも必要となるだろう。もちろんファイティング・スタイルはスタンド・アップ・ファイトである。
マグロ類等に小さなフックや細いリーダーを使う際は、リーダーはできるだけ短く取るようにしているが、更に私はリーダーとフックの強度を考慮した上で、船の乾舷の高さと、使用するロッドによってその長さを決めている。

 


パワフルなことで知られるホンマグロだが、30kgクラスだと、50Lbタックルではやはりオーバー・バランスである。30Lbタックルだとそれなりのファイトが楽しめる。ただ、潜行スピードにはこのクラスでも目を見張るものがあり、ランディングの際はドラグを弱めにし、スプールを押さえることでライン・テンションを加減し、急激なダイブに備える必要がある。リーダーはシーガーの14号を使用したが、このクラスだとさらに細いクラスの方が食いがいいようだ。


当時の釣行の際の2本のクロマグロ。ただ、次回はこのクラス以下はリリースする勇気と理性を持ちたい。

  「今年(1991年)は6月に初ヒットがあり(17kg)、私達、宇部マリーナの記録は9月下旬に50Lbラインで記録された57kgが現在までのベスト記録ですが、63kgというのを釣った方もいますヨ。100kgを超すものもかなりいるようですが、残念ながらまだ釣れていません。ただ、あれだけのナブラが7月から12月にかけて八里ケ瀬周辺で見られるようになったのは、タイ釣り等で使うマキ餌にマグロがつくようになったからでしょうが、どうもこのマグロは、台湾北東海域で孵化後、北上してきたものとは違うようなのです。瀬付きの期間が長いのはマキ餌のせいもあるでしょうが、どうもそればかりではないようです。まだ解明されていない回遊ルートもあるのではないかと思います。現在はリサーチという見地から、とにかく釣ることを優先してチャミングにかなりのオキアミを使用していますが、この海域での平均サイズやファイトのパターンも大体分かってきたので、今後はライブ・ベイトやデッド・ベイト・トローリング、さらにルアーやカイト・フィッシングで広範囲の海域を探る方法に切り替えて行こうと思います。チャミングは、やはり最小限に押さえ、八里ケ瀬の健全なコンディションについても常に考えていかねばならないと思います」(佐々木隆文氏談、当時)

明朝、といっても昨夜は遅くまで話がはずみ、おまけに宇部のホテルにもどった後も、佐々木御兄弟のアドバイスを取り入れたライン・システムを準備したりという按配で、超寝不足のまま私達は萩に向かった。午前4時、宇部から萩までの、夜明けきらぬ時間帯を車で飛ばすこと1時間30分、萩港では佐々木氏達がいつもチャーターする「瑞勝丸」と「第2瑞勝丸」が私達を待っていた。船戸満さんは「瑞勝丸」息子さんの勝典さんは「第2瑞勝丸」、共にライバル意識を持った素晴らしい親子二代の船頭であった。(電話08382-8-1078)

 


萩の海で、本格的なスポーツ・フィッシングの幕開けを夢見る佐々木敦司さん。ツナ・カップへの期待は大きい。


『宇部マリーナ(電話0836-32-0656)』は、山口県におけるマリン・スポーツのオルガナイザーとなるだろう。チャーター・ボートの紹介及び各種マリン・スポーツのコーディネートもしてくれる。

  朝、まだ光のない12月の午前5時30分、萩の港を一路見島から八里ケ瀬に向けて走る2時間を私はぐっすりと眠った。「瑞勝丸」には私とカメラマンと亀井氏、「第2瑞勝丸」には佐々木敦司氏が乗っている。マッチ・レースと洒落てみたが、お仕事の都合で釣りには参加できなかった弟の隆文さんの、昨夜の恨めしそうな顔が脳裏をよぎる。
午前7時半、アンカーを打ち、両手でオキアミを強く絞り、水分をできるだけ取り除いた状態でチャミングを続ける。できるだけ潮目に沿って、海面を漂うようにオキアミを流し、60mほど流したラインの周辺にマグロを寄せるのである。潮の動きが悪く、ナブラが遠い時はウキを使用すると効果的である。
右舷のロッド・ポストには亀井氏のタックル(ロッドはビスケイン#1042:30Lb4本継、リールはフィン・ノール6/0)、左舷側には私のタックル(オリジナル.スタンド・アップ・ロッド30〜50Lb、リールはペン社インター50TW)、ラインは共に100kg級を備えてアンディの50Lbである。ドラグは不意のストライクに備え、バックラッシュを起こさない程度のテンション。エサのオキアミはサイズが小さいため、フック(南方石鯛バリ20号)にセットする際、2匹でやや大きめの一匹を演出するようにセットする。表層に漂うオキアミを追ってかなりエキサイトした状態でクロマグロのナブラが移動するため、敢えてドロップ・バック用のラインを取るほど神経質に対応する必要はないようだ。
約1時間程経過した午前8時25分、私のロッドに最初のアタリが来た。ドラグ・テンションが弱いせか急潜行はせず、海面に対し30度程度の角度で100mほどのファースト・ランがあったものの、それほどのパワーはない。ドラグをノーマル・テンションに上げ(6kg)、10分ほどのファイトで、この日最初のクロマグロをランディングした。目指す100kgサイズには程遠いものの、次に期待をかける。
それから1時間半後、再び私のロッドにアタリがあった。フック・アップに至るまでと、ファイトのパターンも最初のものと大差はない。15分ほどで海面まで寄せたものの、サイズは最初のものよりやや大きい程度。共に胃内容物はオキアミの他に20cm程度のトビウオ。結局、この日はこの2尾のみで、その夜、私達は見島に宿をとった。
見島は周囲18km、7〜10世紀頃に造られたといわれる石積みの古墳が残る「ジーコンボ遺跡」が有名で、勾玉(まがたま)やスプーンなども発見され、古(いにしえ)の高い文化を残す島である。私達が泊まった「赤崎旅館」は食事も素晴らしく、八里が瀬を狙う際のベースとするには最適の宿であった。

翌日の海はベタ凪、おまけに春先を思わせるような陽気で、とても12月の日本海と思えるような海ではなかった。潮は停滞し、遠くでヒレを出して泳ぐクロマグロのざわめきが聞こえるものの、まるで食いが立たない。この日は、30ポンドのタックルに落とし、昨日以下のサイズであればリリースする手筈であった。昼前、私のタックルにかなり強烈なアタリが来た。ファースト・ランは300mほど。そして、そのラインを250mほど回収したところで、今度は400mほどラインを出されてしまった。確実に60kgはあるように思えた。動きが一瞬止まった後、次は猛烈なスピードでボートに向かってきた。時としてリトリーブが間に合わない。結局、鈎掛かりが浅かったのか、私のリーリング・スピードが奴に対応できなかったのか、フックを外されてこのゲームは20分ほどでエンドとなってしまった。私はうなだれ、亀井さんはニタリと笑う。カメラマンの津留崎健は、私をジロリと睨み、この日、同じ船に御一緒してくれた佐々木敦司さんだけが、私を温かく笑顔でなぐさめてくれた。

 


宇部マリーナをベースにしたSF51のオーナー、野村氏の釣行スナップ。釣果は全てクロマグロである。


佐々木隆文氏は、ツナ・カップの可能性を求めて、さまざまな構想を語ってくれた。
  「須賀さん、がっかりすることはないですよ。80kg、100kgクラスはざらにいるんですよ。今日は潮が悪くて、もう期待できないでしょうが、来年、ベスト・シーズンにやれば、こんなもんじゃないですよ」
佐々木さん達は、『ブルーフィン・ツナ・トーナメント』を計画している。それもインビテーションで、日本一格式のあるトーナメントにしたいという。萩の海がおもしろくなりそうだ。
 

ブルーフィン・ツナ・トーナメント

1935年、カナダのノヴァ・スコシアで、フィッシングにおける「デビス・カップ・マッチ」の実現を夢見た男がいた。対象魚はブルーフィン・ツナである。スポーツ・フィッシング・シーンに数々の功績を残し、多くの著書を残したことでも知られるキップ・ファリントン・ジュニア、その人である。彼は、「インターナショナル・ツナ・カップ・マッチ」を実行に移し、その大会の名誉のために作られたトロフィーは『Sharp Cup』と称された。テニスの「デビス・カップ」もしくはヨットレースの「アメリカズ・カップ」のフィッシング版と考えれば、関係者の名誉と思い入れが想像できるだろう。

 

 

このトーナメントには、米国、カナダ、英国、ニュージーランド、オーストラリア等から多くの著明なアングラーが集い、IGFA設立の立て役者となったマイケル・ラーナーや、エリウッド・K・ハリーをはじめ、多くのIGFA関係者も参加している。また、ビッグゲームを愛する各界の名士も多く集い、同時に純粋に釣りと海を愛する無名のアングラー達も競って参加したことが、この大会の格式と名誉を確かなものとした。
日本にも、30年、40年、そして50年と語り継がれる格調あるフィッシング・トーナメントがそろそろ誕生してもいい頃だろう。フィッシング・トーナメントを維持して行くことは、同時に豊かな海を維持することの前提があってこそ成り立つものであり、単にトーナメントの運営のみを考えるだけでは片手落ちとなることは言うまでもない。結果、釣魚のリサーチと共に環境の保護、効果あるリリースという発想も生まれてくる。日本では非常に高い値のつくクロマグロゆえに、その価値を最大限に活かすためのトーナメントの有りようが問われることになる。すでに国内ではビルフィッシュ・トーナメント、またアヒ(キハダ)・トーナメントも開催されている。本格的なブルーフィン・トーナメントは国内ではまだ前例が無いだけに、是非とも実現したいものである。スポーツ・アングラーの在り方、チャータ・ボートの在り方、職漁師との対話、地域イベントとしての在り方等を最も望ましい方法で探ることは難しいことであるが、対象魚がクロマグロであるだけに、格式ある、スポーツマン・シップにのっとったトーナメントとして成立すれば、その波及効果は非常に大きなものがあるだろう。

須賀安紀

 
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