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SHARK HUNTING in DOWN UNDER
SEA OF JAWS
オーストラリアのシャークハンティング
スポーツフィッシング先進国、
オーストラリアでのサメを巡る周辺事情
By Steve Starling
Translation & Columns/K. Amagai
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しかし、実際のところ、オーストラリアではかなりの種類のサメが釣られているのである。タスマニアの亜寒帯域にはマコやブルーシャークがウヨウヨしているし、クイーンズランド北部からノーザンテリトリーにかけての熱帯海域にはホエラーシャークやタイガーシャークが徘徊している。とはいっても、最先端のゲームフィッシャーマンやレコードハンターたちを魅きつけ、高純度の刺激を常に約束するホットスポットとなると、かなり絞り込まれてくる。 |
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「ホワイトポインター」あるいは「ホワイト・デス(白い死神)」として知られるホワイトシャーク(学名/Carcharodon carcharias)は、地球上に現存する最大の肉食生物であり、全長6m、重量2,500kgに達する。日本を含め、世界中の温暖な海域に分布しているが、数と型の2つを満たしているのは何と言ってもサウスオーストラリアである。映画「ジョーズ」の水中撮影がサウスオーストラリアで行なわれたのは決して偶然ではないのだ。もっとも、スティーブン・スピルバーグは実際のホワイトシャークがどのくらいの大きさになるのかを見た後で、今度は機械じかけの偽物を作り上げねばならなかったが…。(編集部注:しかし、日本近海におけるホオジロザメの数と型にも注目すべきものがあるのではないだろうか。というのも、日本では「サメ=海洋生態系を構成する重要な種」という認識がまだ育っておらず、「サメ=悪」の意識が根強い。そのため、サメに関する研究はほとんど行なわれていないが、時折報じられる被害例だけを考慮しても、日本沿岸での数が決して少なくないことを充分に物語っている) |
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金槌型の頭部を持つハンマーヘッドシャーク(シュモクザメ)。全9種のうちオーストラリアには3種が生息。 |
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事実、IGFAルールに則って釣り上げられた最大のホワイトシャークは、「ジョーズ」の撮影が行なわれた海域からほんの目と鼻の先なのだ。1959年、屈強な庭師アルフレッド・ディーンによって釣り上げられた1,208kgのとてつもないホワイトシャークは、現在ではほとんど伝説として語られている。しかし、130Lb(60kg)ラインクラスとオールタックルの両方で今もなお記録は破られておらず、アングラーが釣りあげた最大の魚としてレコードブック上に堂々たる存在感を放っているのである。また、この1,208kgのホワイトシャークは、ディーンが釣り上げた6尾の1トンオーバーのうちの1尾であり、さらに言えば、サウスオーストラリアで釣り上げられた無数の1トンオーバーのうちの1尾である。 |
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ディーンの記録は実に30年以上に渡って破られずにきたわけだが、その間にはもちろんウエイトがわずかながら及ばなかったり、あるいは1,208kg以上の重量がありながらIGFAルールに抵触していたりで、記録を塗り替えるには至らなかった例も数多い。そして、ついにディーンは自らの記録が破られるのを見ることなく、史上最大の魚を釣り上げた男としての名声をそのままに、1991年、100歳近い長寿を全うした。 |
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推定1,000Lbオーバーのホワイトシャーク。バトルは最終段階を迎え、この後タグ&リリースされた。 |
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ティーザーに襲いかかる約900kgのホワイトシャーク。ティーザーは5kgもあるピンクスナッパー。 |
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ポートリンカーンやストリーキーベイ、セデュナといったサウスオーストラリアの海でアルフレッド・ディーンがシャークフィッシングをしていた頃は、すべてのサメがギャフィングされ、殺されていた。当時、サメは「マンイーター(人食い)」として考えられており、サメを殺すことが一種の社会奉仕とも受け取られていたのである。しかし、こうした社会のムードはしだいに変化していった。今日では、地元のアングラー、外国からのアングラーを問わず、この獰猛で気高い生物をタグ&リリースすることに抵抗を感じる者はいない。チャミングに集まったサメを観察し、それから80Lbや130Lbタックルで1時間程度バトルする。しかし、レコードフィッシュでもない限り、巨大な死骸を検量所で吊し上げることは少ない。このような新しい保護倫理がアングラーと一般の人々の間に定着したおかげで、サウスオーストラリアは今後もグレートホワイトの楽園として、その地位を保ち続けることだろう。 |
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サウスオーストラリアでは、ホワイトシャークは1年を通して確認される。だが、最も数が多く活発に活動するのは夏から秋にかけて、11月後半から4月くらいの間である。この時期、ホワイトシャークはアザラシの群れを目当てにカンガルーアイランドやペイジ、ネプチューンアイランド、デンジャラスリーフ、ストリーキーベイ、セデュナといった場所に集まる。また、アザラシばかりでなく、ピンクスナッパーやツナ、エイや小型のサメなどの群れも追いかける。このように沿岸の浅場にまで回游してきて、時にはアデレード周辺のビーチにまで姿を現わす。そのため、この一帯では毎年必ず1人か2人の不幸な犠牲者がでる。しかし、こうした悲惨な被害にもかかわらず、オーストラリアの人々はホワイトシャークを地球上で最大の肉食生物として保護しているのだ。 |
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中には、ライトラインによる信じられないような記録もある。15kg(30Lb)テストラインクラスの現世界記録になっている619kg(1,365Lb)や、同クラスの女性世界記録548kg(1,208Lb)がそれだ。619kgの記録などは、ウエイト対ライン強度の比率でなんと41対1以上を達成しているのだ! さらに、1986年にポートステファン沖でキャッチされた412kg(908Lb)のタイガーシャークは、実に10kg(20Lb)テストラインによるもので、同じく41対1の対ライン強度比率を達成している。
これらのタイガーシャークは誰の目にも巨大に見える大きさであるが、クイーンズランド北部のグレートバリアリーフの外側に沿った海域には、それ以上の巨大な個体がいると考えられている。この海域では、フックアップした1,000Lbオーバーのブラックマーリンが、推定900kg(2,000Lb)のタイガーシャークに襲われている。このサイズのタイガーシャークによって、IGFAのオールタックル世界記録が塗り替えられるのは、ほとんど時間の問題と言えそうだ。 |
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オーストラリアの釣り雑誌“MODERN FISHING”の編集者、G.ブース氏が30Lb(15kg)テストラインで釣った1,301Lb(590kg)のタイガーシャーク。18/0のフックがすっかり伸びてしまっている。 |
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チャムスリックに誘われて姿を現わした小型のホワイトシャーク |
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シドニー沿岸にはこれらのサメが豊富で、特にマコやブルー、ハンマーヘッドに関してはレコードを狙える個体さえいる。シドニー沖のシャークフィッシングは、水深100から400mの大陸棚のエッジに沿ってチャムトレイル(編集部注:潮に乗せて煙幕状に漂わせるチャムの帯で、「チャムスリック」とも呼ばれる。サメはこの帯を辿り、ボートまでやってくるわけである。オーストラリアでは「バーリー」とも呼ばれる)をつくることから始まる。タイガーシャーク用には深めにベイトをセットして、マコやブルー、ハンマーヘッド用にはライトなタックルを用いてベイトを浅めにセットする。 |
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シドニー沖のシャークフィッシングは夏から秋にかけて、11月から5月がベストシーズン。しかし、小型は年間を通して狙うことができる。また、ブルーとマコの2種に関しては9月と10月にも狙うことができる。
特定の魚種のニューレコードを狙うシャークハンターはもちろん、これからシャークフィッシングを楽しんでみようというスポーツアングラーにとって、オーストラリアは貴重な海である。特に、ニューサウスウェールズやクイーンズランド南部、サウスオーストラリアには、シャークフィッシングの経験を積んだクルーの乗るチャーターボートが多く、一生に一度のスリリングな経験を約束してくれる。きっとブラックマーリンとは一味もふた味も違った興奮が得られるはずだ。 |
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ギャフィングされた520Lb(236kg)のマコ。列になって生え揃った鋭い歯がよく分かる。 |
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タグを打たれた小型のマコ。タギング・プログラムによってサメ類の謎が少しずつ解明されている。 |
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ホエラーシャーク。この位がオーストラリアでのアベレージ。 |
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シドニー沖でキャッチされた750Lb(340kg)のマコシャーク。 |
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悪魔の使い、あるいは畏怖と崇拝の対象
サメの博物学的考察
海とともに生活する人々にとって、サメは古代より脅威と畏怖を抱かせる存在であったようだ。オセアニア圏の海洋民族の間では、人食いとしてのサメを恐れると同時に、サメを祖先の霊として奉る精霊信仰が一様に見られる。メラネシア文化の中心地ニューギニアでは、サメに似せた怪物のいる精霊小屋に入ることで、祖先の霊が子供を成人させると信じられている。また、16世紀以来スペイン人によるキリスト教改宗が徹底されたポリネシア一帯においても、精霊信仰はいまだに根強く、先祖に供えた豚肉でサメを釣り、これを食べることで祖先の霊を自らの体内に導くといった儀礼が存在している。この他にも、ニューヘブリデス(バヌアツ)ではサメ祭りが1年に1回行なわれており、タヒチやハワイのサメ神もよく知られるところである。また、このようなサメ神はアイヌにもあり、海の守護神として祀られていた。 |
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一方、西欧においては16世紀の大航海時代の到来と共に、サメの脅威が広く一般に知られるようになった。それ以前にも、古代ローマの時代からサメは海綿採りたちに恐れられていたが、悪魔としてのイメージが定着したのはやはり16世紀である。新大陸の発見によって大西洋には多くの奴隷船や商船が航海することになったが、それは同時にサメの恐怖との出会いでもあったのである。サメの噂は船乗りたちによって西欧に持ち帰られ、聖書に登場する怪物「リバイアサン」のイメージと重なって広く知られるようになった。 |
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このように、オセアニア圏の海洋民族が崇拝の対象としてサメを祀っているのに対して、海との関わりが時間的にも精神的にも浅い西欧においては、サメが徹底して悪魔のイメージでしかとらえられていないのは興味深い。ちなみに、英語の「シャーク」は独語の“Schurke”(悪党)に由来しており、サメを意味する仏語の「レカン」も「レクイエム(鎮魂ミサ曲)」と同じ語源で、「死後の静寂」の意がある。 |
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かつて映画『ジョーズ』の撮影隊が実写場面を撮りにサウスオーストラリアを訪れた際、実際のホワイトシャークが予想よりもはるかに小さかったために、小型の檻に小柄のスタントマンを入れて縮尺を合わせなければならなかったというのは有名な話である。また、『ジョーズ』の大ヒット以来、サウスオーストラリアではダイバーを檻に入れてホワイトシャークを見物させるという冒険ツアーが登場し好評を博していたが、ここ数年はチャミングを1週間以上続けても1尾も姿を現わさないことさえあるという。
はたしてホワイトシャークはメガロドンと同じ運命を歩みつつあるのだろうか。オーストラリアでは今、アングラーの良心が問われている。 |
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ちなみに、俊敏な猛ダッシュとジャンプで知られるマコ(アオザメ)のIGFA世界記録を調べてみると、ライトラインの記録がほとんどオーストラリアで達成されていることが分かる。16Lbテストラインで317.50kg(699Lb15oz)、12Lbテストラインで296kg(652Lb8oz)、6Lbテストラインで155.13kg(342Lb)、そしてなんと4Lbテストラインで75kg(165Lb5oz)をキャッチしているのである! ムムム! まさに、オージーアングラー恐るべしといったところか…。 |
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