DON MANN BIG GAME TECHNIQUES & TIPS ドン・マンのビッグゲーム・テクニック(4) 写真・文/ドン・マン 訳・構成/編集部
左側が1970年代の初頭、プエルトリコのマイク・ビナイテスが製作したフラットフェイスのルアー。アイアンウッドを旋盤で削り出し、ホワイトのペイントを施したもの。
ウェブ・マガジン『スポーツアングラーズ』が自信を持って贈るビルフィッシャー待望のビッグゲーム・フィッシングのノウ・ハウ。筆者は9ビルフィッシュを1年足らずで達成してしまったビッグゲーム・フィッシング・ジャーナリスト、ドン・マンである。豊富な実践に裏づけられた貴重なテクニックの数々をアメリカ直送でお送りする。ここではトローリング・ルアーのヘッド形状を様々な角度から考察し、その発達のプロセスを明らかにした「THE HISTORY OF TROLLING LURES」を紹介する。
THE HISTORY OF TROLLING LURES
トミー・ギフォードの“lolly-do's”の時代から最近流行のソフトプラスティック製に至るまで、トローリング・ルアーは実に長い発達の歴史を持っている。ギフォードとブッチ・ゴンザレスが、U.S.ヴァージン・アイランド、セント・トーマスのジョニーハーバー・ラグーンマリーナの堤防に腰かけ、マングローブの根っこを材料にルアーヘッドを削り出していたのは、もう数十年も前のことである。スカートは黄色の古びた布切れだった。それをセント・トーマス沖でテストした時には嘲笑されたものだが、見事にブルーマーリンをキャッチしたのを見て、デッドベイトの信奉者たちは考えを改めたのだった。 時をほぼ同じくして、ハワイのアングラーの中にはすでに木材を削ってそうしたルアーを作り出している者もいた。それらは30年代40年代のスポーツフィッシング・クルーザーのスローなトローリングスピードに合わせたヘッド・シェイプをしており、ヘッドのフェイス(ヘッドの前面)はたいていカップ状に窪んでいる(dished face)か、あるいは斜めにカット(slanted face)されていた。 時を経てボートの走行性能が向上すると、今度は可能な限り広い海域を探ったほうがいいという考え方がスキッパーの間に広まり、より速いトローリングスピードでもアクションするように、スキッパーたちはルアーの型を修正した。その1人がプエルトリコのクラブ・ノーティコにいたキャプテン、マイク・ビナイテスだった。彼は70年代の初期にそれまでの主流であったロングヘッド&スランテッド・フェイス(現在のものよりもかなりヘッドが長く、フェイスが斜めにカットされている)タイプの先端部分を切り落とした。その結果誕生したのが、ショートヘッドのずんぐりむっくりとしたフラット・フェイス(まっすぐにカットされたフェイス)ルアーである。10ノット以上のスピードでトローリングしても激しくスモーク(細かなしぶき)を上げ、バブル・トレイル(ルアーの後方にできる泡の尾)を形成し、断続的にルースターテイル(噴水のような水の跳ね上げ)を飛ばす。彼が製作した最初のルアーはアイアンウッド(非常に硬質の木材)のヘッドに白色のエポキシペイントを施したものだった(タイトル部写真を参照)。 しかし、旋盤で木材を削り出す作業は非常に手間暇のかかることだった。そこで、次にマイクはルアーヘッドをアクリルで型抜きするという方法を取り入れた。昼間のチャーター業を終えると、彼は夜ごとグラスファイバー製の型にアクリル・レジンを流し込み、次々にルアーを製作していたのだった。
このような経緯を経て、トローリングルアーの主流となったのは、ハイスピード向きのフラットフェイスのストレートランニング・タイプであった。フェイス部分がカップ状に窪んだスクープト・フェイス、またはディッシュト・フェイスと呼ばれるスイミングタイプは今日では実に限られた用途でしか使われない。スピードの遅いボートやゆっくりめの速度でトローリングする場合である。
フラットフェイスからコンケイブフェイスへ
しかし、80年代半ばになると、それまでポピュラーであったフラットフェイスのストレートランニングルアーにも改良が施される。ずんぐりむっくりの短いヘッドやフラットフェイスは依然として流行していたが、しだいにフェイス部分がロウト状に窪み始めた(コンケイブ・フェイスまたはチャガータイプと呼ばれる。スクープド・フェイスやディッシュト・フェイスがカップ状に丸く窪んでいるのに比べて、コンケイブ・フェイスの窪みはロウトのようにより直線的)。アングラーたちがより微妙なスロットル操作をするようになったためである。これらのフェイス形状はスランテッド(傾斜)ではなく、リーダーホールも中央にあるが、対応するトローリングスピードにはかなりの幅がある。そればかりか、素晴らしいバブルの尾を引き、スモークやルースターテイルを飛ばすのである。このタイプのルアーの場合、ベストのトローリング・スピードを決めるのは、ルアーヘッドの直径と窪みの角度なのだ。 その後、コンケイブ・フェイスのルアーは着実に人気を得ていき、何尾ものトロフィーマーリンを仕留めた。ブーン(Boone's)社のコンケイブフェイス・ルアー「サンダンス(Sundance)」は、ニュージャージーのハドソン・キャニオン沖で945Lbのモンスター・ブルーマーリンをキャッチし、R&S社のオールアイ型フラットヘッド・コンケイブフェイスは1987年セント・トーマスで開かれたボーイスカウト・トーナメントにおいて529Lbのビッゲスト・マーリンを射止めた。その後すぐに、それと同じブラック・オーバー・ブルー(ブルー上にブラックが被さっているということ)のスカートが大流行したのだ。プエルトリコのクラブ・ノーティコで開催されたIBT(インターナショナル・ビルフィッシュ・トーナメント)においても、やはりR&Sのコンケイブフェイスによって実に131尾のブルーマーリンがキャッチされている。そのうち何尾かは同じオールアイ型で釣られたものだったが、ほとんどは新しいティアドロップ型であった。しかし、どちらもコンケイブ・フェイスであることに違いはなかった。
「それらしく見える」ということ
しかしながら、ルアーのアクションを決定するファクターは実に多様である。したがって、どのルアーにもベストのアクションをする状況というものが必ずあるものだ。たとえばどんなファクターがあるかといえば、ざっと次のようになる。
他にも、ルアーのアクションはラインの長さで調節することができる。これはスピードが遅いボートでは効果的な方法だ。フラットとアウトリガーいずれのルアーでも、ボートに近付ければ近付けるほど、海面とラインとの角度は広がる。その結果、ルアーヘッドは持ち上り、よりたくさん空気を飲み込むのでバブリングが派手になるというわけである。また逆潮でトローリングする時には、反対にルアーをボートから遠ざければよい。ラインと海面との角度が狭くなるので、ルアーはより水中を泳ぐことになる。また、海が荒れている時には、ウェイテッド・ルアーに交換するという手もある。さらにトローリング・スピードを落として、ボートから離せば、ルアーを水中で泳がせることができる。
それぞれのヘッド形状に応じたトローリングスピード
さて、ここで少しトローリング・スピードについて話をしよう。フラットフェイスやコンケイブフェイスのストレートランナーの長所は、ハイスピードでもスロースピードでも同様にバブリング・アクションするところにある。ソフトヘッドのような軽いルアーは、スローもしくはミディアム・スピードで特に効果的だ。アクリルレジン製の重いハードヘッドで、しかもフェイスの径が大きなコンケイブ・フェイスのルアーは、よりスローなトローリング・スピードに向いている。コンケイブ・フェイスの場合、フェイス径が小さくなればなるほど、適合するトローリング・スピードは速くなる。 ディッシュト・フェイスのスイミングルアーは現在ではかつてほど使われなくなってしまったが、それでも活躍の場所はまだある。至近距離をフラットで流す場合がそうで、いわばティーザーのような役割を果たすのだ。これは船足の極めて遅いボートには向いているだろう。だが、6〜8ノットにもなると、もはやスイムせずに空を飛んでしまう。 また、特にハワイで人気の高いルアーがスランテッドフェイス(フェイスが斜めにカットされているタイプ)のプッシャータイプ(コナヘッドとも呼ばれる)である。このタイプは速く曳いた時にはストレートランナー的なアクションをし、実に派手にバブリングしながらルースターテイルを飛ばす。フェイスの傾斜角にはルアーによってかなりの差があるが、そのわずかな違いがアクションにとても大きな影響を及ぼす。また、このタイプを高速でトローリングすると、アクションがイレギュラーになりがちだが、これは時にダブルフックを180度の逆方向にセットすることで修正できる。いわばフックがラダーやキールのような役割を果たすのである。 前にも述べたように、この釣りにはキマリがどうも多すぎる。このルアーはこの波に流し、あのルアーはあの波に流すとか……。しかし大切なのはルアーが「それらしく見える」ということなのだ。可能な限り派手にスモークを上げ、しっかりと安定したアクションをし、決して空を飛ばないこと。「それらしく見える」ことこそ唯一のキマリだと言えるだろう。
筆者紹介/ドン・マン(Don Mann)
アメリカのビッグゲーム・シーンを語る時には欠かせないライター&フォトグラファー。ただ傍観者として関わるのではなく、自らもロッドを握る。アメリカでは非常に名の知れたアングラーである。事実、すべての9ビルフィッシュを11カ月と1週間のうちにキャッチするという偉業を達成しており、IGFAに認定され、1989年のギネスブックにも名を残している。この記録は当ウェブで紹介したラス・ヘンズリーに破られるまで史上最短のものであった。また、37kg(80Lb)テストラインで810Lbのパシフィック・ブルーマーリンをキャッチしており、栄誉あるIGFA「10to1クラブ」入りを果たしている。共著に「Great Fishing Adventures」があり、「Marlin」「Fishing World」「Florida Sportsman」等に記事を連載している。