DON MANN BIG GAME TECHNIQUES & TIPS ドン・マンのビッグゲーム・テクニック(11) Reading the Signs サインを読む
By Don Mann Translation/Tsuruzo Kondo
フレッシュウォーターの釣りに慣れたアングラーが広漠とした海を目の前にして必ず思い至るのが、いったいどこで釣りをすればよいのか、というシンプルかつ極めて重要な問題である。たしかに、変化に富んだ川や湖とは違い、ノッペリとした海では、どこがポイントなのか判断に迷うところである。しかし、そんな海も実は変化に満ちている。ポイントを知らせるサインはいたるところに見られるわけで、アングラーあるいはキャプテンがそういった諸々のサインに気づくかどうかが勝負の分かれ目とも言えるのである。今回は、そのサインを見過ごさないためのコツを紹介しよう。
広漠たる海にも様々なサインが溢れている
アメリカの古い西部劇などを見ると、インディアンの斥候が何もない殺風景な地面から立ち上がり、自信たっぷりな威厳をもって、何時間も前に負傷した男が弱った馬に乗ってここを通ったと告げる場面がよく出てくるものだ。<br> オフショアフィッシングの達人たちも、こんな西部劇のワンシーンにならったかのように、一見すると何もない平坦な海原から何らかの“サイン”(兆候)を読み取るのだ。間違いなくそこには、ベテランのビッグゲーム・フィッシャーマンをして、トロフィー・キャッチへと導く沢山の“サイン”が存在しているのである。 古き時代のアメリカ西部と同じように、それらのサインは周囲の状況とどことなく異なっているものとして現われる。ゲームフィッシュを追い求める現代のフィッシャーマンにとっては、それらのサインは、大抵の場合、肉食魚の餌となるものがそこにあるかどうかという設問となって現われる。ベテランは一度でもそのようなサインを認識すれば、彼はもはやあてずっぽうな釣り方はせず、それによって彼の成功への確率は飛躍的に上昇するのである。 それでは、餌となる魚つまりベイトフィッシュの存在を素早く知るにはどうしたらいいのか。それにはまず海藻帯、漂流物、ナブラ、水色の変化などを発見すべきである。さらには、沖合の潮目、急峻な棚の落ち込み、海底岩礁……等々を知ることも重要だ。また、水温の変化に注意を払うことも大事である。それによって、潮流帯や海底の著しい起伏によってもたらされる“湧昇”(アップウェリング)の存在を知ることができるのだ。また、イルカなどもゲームフィッシュと同じ魚を捕食しており、彼らの存在は、その近辺にゲームフィッシュを惹きつける餌がいることを示している。
オフショアアングラーは、バードウォッチャーでもある
海鳥の種類や数、その行動などを学ぶことは、オフショアフィッシングの成功率を高めることにつながる。それは、ツナやシイラなど、スクール(群れ)を作る魚種ばかりでなく、単独で泳ぐ巨大なブルーマーリンなどを狙う場合にもあてはまるのである。それゆえに、操舵手、あるいはチームのメンバーは、ベイトフィッシュを探すのと同じくらい真剣に海鳥の姿をもとめて水平線に目を凝らすべきである。「海鳥だ!」という叫び声は、「魚が右側の仕掛けに近寄ってきたぞ!」という叫び声と同じくらいの興奮をもたらして然るべきなのである。
はるか上空のツナタワー グンカンドリ
グンカンドリが上空を旋回している場合はその海域に留まって、彼らの飛び方を観察する。そして、もし彼らが急降下したなら、その急降下した場所を集中的にトロールするのである。そんな場合、もしそこに泳いでいるのがマーリンでなければ、少なくともそれは単独で泳いでいる巨大なシイラであることが間々あるのである。
海鳥の種類と飛行形態から無限の情報を知る
遠く沖合で多数の海鳥が群れている場合、それはまったく違う意味合いを帯びている。無数のカモメ、アジサシ、カツオドリ、ミズナギドリなどが上へ下へと飛びかっているとき、それは、その下にブラックフィンやイエローフィン、ボニートやビッグアイ等々のツナのスクール(群れ)がいることを示唆しているのである。 そのような海域に接近すると、滑らかな海面からしばしば魚油の臭いが漂ってくるのが感知される。それはツナの群れが食べ散らかしたベイトフィッシュの残飯から発せられる臭いである。もし、そんなツナ類を釣りたければ、そのスクールの周辺をトロールするか、あるいは、ボートをスクールの通り道にドリフトさせてキャスティングすればよい。 もし、狙う獲物がマーリンならば、スクールの中心からボートを遠ざけ、大きな輪を描くようにトロールすることだ。そうすると、獲物を狙ってスクールの周辺を泳いでいるマーリンをヒットさせる可能性が高まるのである。そんな時、あなたがトロールしているルアーあるいはベイトは、スクールからはみだしながらもベイトフィッシュをむさぼり食っているツナ類とそっくりに見えており、それこそマーリンの狙っている獲物そのものに見えるのである。
種々のサインを整理する能力こそオフショアでの成否を分ける
もし、海鳥がまったく視認できないような場合には、水平線を隈なく観察し、浮遊物や海藻帯を発見する努力を払うことだ。海面に浮かぶホンダワラの帯や断片は、ベイトフィッシュのシェルターの役目を果し、その下の層には捕食魚が集まっているという事実を証明している。高性能な望遠鏡があれば、何もないような広漠とした海原から、海鳥、海藻、浮遊物……等々を発見するうえで非常な助けになるだろう。 海面のサザ波、潮目、海水の色の変化……等々も、釣果を上げるための有益なサインである。特に海面のサザ波は、アングラーには見えないはるか下の海底の起伏を示唆している。そのような海底の起伏がもたらすアップウェリング(湧昇)や潮目は、しばしばベイトフィッシュを海面近くにまで浮上させ、それによってゲームフィッシュを惹きつけることになる。海水の色の変化は、2つの異なる潮流があることを示しており、アングラーはその潮と潮の間をトロールするのがベストである。ベイトまたはルアーを、変化する色のより透明な側をトロールするとさらに釣果が期待できる。また、隣接する2つの潮の間をジグザグにトロールするのも悪くない方法である。どちらにしても、ベテラン・アングラーはあてずっぽうにただトロールしているのではなく、ある特定の理由があって、ある特定の海域をトロールしているわけである。 実際、ある種のサインを読み取る作業は、釣行日の前に行なうことができる。まず釣りを計画している海域の海図を調べる。そうすると、深度を表わす線が互いに寄り添っている場所がしばしば見つかる。深さ100尋の線を追っていくと、それが200尋、あるいは、時によれば300尋を示す線と接近している場所がある。そのような場所では釣りをしてみる価値がある。急激な深度変化のあるそのような場所には、強い潮流やアップウェリング(湧昇)があることが多く、したがってベイトフィッシュを探すゲームフィッシュもその場所へ惹きつけられてくるからである。それと同様に、海図上の複合同心円線は、海底岩礁がにょっきりとそびえていることを示唆しており、そのような場所こそ絶好のフィッシング・スポットなのである。