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クロマグロ(Tuna, bluefin)
永遠のランナー・生物としてのマグロ

文・橋本英明/写真・(株)八点鐘
協力・JTA

アーネスト・ヘミングウェイは「スペインの鮪釣り」という短編の中で、クロマグロの釣りについて描写している。
「…大鮪は沸き立つような勢いで水を裂き、全長六フィートの魚体をいっぱいに伸ばして空中に躍り出る。途端に、漁師の心臓は口蓋に跳ね上がり、一瞬後、馬が岸壁からダイビングしたかの如き音を立てて鮪が水中に落下し去ると、踵まで沈みきる。
大型の鮪は銀と黒ずんだ青の体色をしていて、船のすぐ脇から空中に飛び上がるときには目も眩むばかりの水銀の閃光を発する。『ヘミングウェイ釣文学全集』」

 
1979年10月26日、カナダのノヴァ・スコシアでケン・フレイザーによって達成された1496Lb(679.00kg)のクロマグロ(TUNA, bluefin)のIGFA世界記録。ラインは130Lbテストライン。

1970年、カナダのケイプ・ブレトン島近海で釣られた1065Lb(485.38kg)のクロマグロ。アングラーはグレン・ギブソン。ラインは130Lbテストライン。ケン・フレイザーの記録に破れるまで、グレン・ギブソンのこの記録はIGFAの世界記録であった。
  クロマグロ……。
マグロの中のマグロである。カナダやアメリカではブルーフィン・ツナ、大型のものはジャイアント・ブルーフィンなどとも呼ばれている。その巨大さ、迫力は、この写真からも十分感じ取っていただけると思う。
さて、ひとくちにマグロといっても、分類学上のマグロ属は7種のマグロからなる。まず、クロマグロ。食用としては高級品である。ついでメバチ。トロに人気がある。さっぱりとした赤身が好まれるキハダ。俗にインドマグロの名で呼ばれるミナミマグロ。シーチキンとして缶詰め、材料にされるビンナガ。そして、タイセイヨウマグロとコシナガ。つまり、マグロという言葉は、それらすべてをひっくるめた総称なのである。
ここでは、やはりマグロの王様、クロマグロを中心に話を進めていくべきだろう。まずはプロフィールから……。
[クロマグロ]スズキ目サバ科マグロ属。マグロ類の中ではもっとも大型に育ち、体長3メートル以上、重さ600キロ以上にも達する。魚体は紡錘形で肥満タイプ、体長は体高の3.2〜4.3倍ほどになり、頭は円錘形で大きい。解体して胃を開いてみると、小魚、イカ類、エビ類、はてはクラゲのようなものまで、いろいろな海の生物が入っているという。子魚といっても、50〜60センチの魚を丸のみにするクロマグロもいる。
産卵は亜熱帯海域で行なわれるらしい。クロマグロはミナミマグロと並んで、マグロ類の中でもっとも産卵数の多い部類だ。ひと腹100万から1000万粒、それ以上の卵をもつこともある。想像もつかないことだが、クロマグロのあの巨体に比べて卵はあまりにも小さい。直径0.8ミリ。ちなみに、10数センチほどの小魚、目ザシや煮ボシにされるカタクチイワシの卵は1.1ミリである(※1)。
クロマグロの生活圏は、太平洋、大西洋、地中海、黒海、インド洋など、世界の温帯から亜熱帯の一部にかけてと、広くにわたっている。マグロ属の中では比較的冷たい水を好むらしく、北半球ではもっとも高緯度の海域に現れる。1961年の調査だが、北太平洋ではアラスカ沿岸まで、北大西洋ではノルウェー沿岸あたりにまで分布することが判明した。詳しい行動はまだよく解明されていないが、温帯海域で餌をとりながら回遊移動し、ある年齢になると東西にも渡洋回遊するようになるといわれている。
 
ネギと煮物の間に見えるのがマグロの卵である。この卵径0.8mmほどの卵が海に放たれた後、あらゆる生存競争に打ち勝てば、やがて700kgにも及ぶ大魚に育つのである。しかし、その確率は非常に低い。
  また、30数年ほど前までは、日本産のクロマグロとアメリカ産のブルーフィン・ツナが別種ではないかと考えられていたが(※2)、それぞれを標識放流した結果、同じ種であることが確認されたのである。カリフォルニアから放たれたブルーフィン・ツナが日本で、日本から放流したクロマグロが、カリフォルニアで、それぞれ捕獲されたのだ。

1. 大西洋のクロマグロ(Thunnus thynnus)に追われて必死で逃げる被捕食魚(ブルーフィッシュ、Pomatomus saltatrix らしいが、はっきりしたことは分からない)。クロマグロはブレーキをかけてジャンプし、胸鰭と腹鰭をいっぱいに開いて獲物を追っている。
 
2. 獲物を捕えそこなって空中にあるクロマグロと、反転して逃げようとする被捕食魚を見事に捉えた写真。
 
3. 両者が空中から水中に入って、次の行動に移る直前の迫力ある写真。
         

4. 水中から再び強力な尾鰭を振って跳躍力をつけ、獲物に飛びかかりアッという間に捕食に成功。強い緊張感がみなぎり、胸鰭と腹鰭をいっぱいに開き鰓蓋も開いている様子を見事に捉えている。
 
5. 写真4で獲物を一度捕えたものの、尾鰭の棘を立てて抵抗されたので、くわえ直そうと口から獲物を出したところ。そして再び頭部に食いつこうとする一瞬前の写真。餌魚が小さい時には、このようなくわえ直しの行動はとらないものと思われる。
 
6. 写真の5でくわえ直そうと吐き出した魚が海面に落下したので、再度頭部に食いついたと考えられる写真。相変わらずクロマグロは胸鰭を開いているが、それは緊張のせいと、重い体重のため、急速に自らの魚体が沈下するのを防ぐためでもあると考えられる。
         
ビッグゲーム・フィッシングでは、カジキと並んで、マグロは格好のターゲットである。しかし、その釣趣はカジキに比べると面白みに欠ける感がある。このようなクロマグロのジャンプ・シーンなどは、普通、まずお目にかかれることがないからである。マグロ類はストライクの後は、ただひたすらに潜り続ける。アングラーは全力でその強烈な引きに、ただ耐えるのみである。
写真解説:京都大学農学部付属水産実験所 中村泉/photo:Murray Brothers
 
これだけ広範囲にわたって移動するからだろう、クロマグロは高速で泳ぐ。平均速度8〜14キロらしいが、瞬間最大速度は70キロほどに達するという。水の密度が空気の800倍ということを考えると、これは驚異というほかない。
このスピードに関しては学者によってさまざまな説があり、例えば身の危険にさらされたときなどは、瞬間最大速度にして160キロものスピードを出すという人もいる。こうなると、まさに魚雷である。紡錘形・流線形の魚体もスピードを追及した結果なのだろう。高速で長距離を泳ぎ抜くスタイルに完全に適応している。三日月形をした堅めの尾びれ、その付け根の補強性、強靱な筋肉、また高速遊泳時に受ける水の抵抗を少なくするため、背びれや尻びれをきちんとしまい込めるように溝がもうけられている。口から入ってエラから流れる海水も、口膣内で乱流が発生することのないように各器官がデザインされている。
さらに、彼らは泳ぐことを止めない。泳ぐことを止めるとき、それは死ぬときである。クロマグロに限らずマグロ類は海水に対する体比重が大きいので、泳がなければ沈んでしまうからだ。また、マグロは特殊な血管系を備えていて、魚の中では例外的存在なのだが、多少の体温調節をするのである。あの赤い筋肉を常に伸縮させ、まわりの海水より2〜10度も高い体温を保っている。獲れたてのマグロの内蔵を抜くときの感触は「魚というより動物に近い」という。まるで温血動物のようだ。他の魚類に比べ、マグロの代謝率は高く、そのために酸素が欠かせない。昼も夜も、眠りながらでさえも、海水に含まれる酸素をエラから摂取する(※3)ために、口を少し開いて泳ぎ続けるのだ。
 
餌もたくさん食べなければならない。マグロの体は約75パーセントが泳ぐための筋肉で、その筋肉を運動させるためには、エネルギーの45パーセントを注ぎ込むといわれている。高い代謝率を維持するためには、常に餌を求めて、食べつづけなければならないのだ。
小さな卵から生まれ、数々の困難を切り抜けてほんの僅かな確率で生き残り、巨大で、堂々と、みごととしか言いようのない魚体を見せつけるマグロ。ビッグゲーム・フィッシングの黎明期から今日に至るまで、その偉大なるターゲットとして釣り人を魅了し、さまざまなエピソードと共に、畏怖と畏敬の念を持って語られてきた、海の勇者としてのマグロ。七つの海をコンパスも持たずに航海するマグロ。釣り針を飲み込むまで、あるいは網に掛かるまで決して泳ぐことを止めようとしないマグロ。息絶えてからも、氷塊となって旅をつづけるマグロ。
マグロは、永遠の旅人である。
 
※1 クロマグロではないが、メバチとカタクチイワシの、おもしろい成長データがある。
 
卵径
仔魚 一年魚 生物学的最小型 最大体長
メバチ
0.6mm
1.5mm 55cm 100cm 200cm
カタクチイワシ
1.1mm
2.6mm 11cm 8cm 15cm
 

※2マグロ類の分類にいちおう決着がついたのは1965年ごろのこと。1700年代から分類研究は行なわれていたが、各国の学者たちそれぞれが自分の分類体系をたてたために、複雑怪奇、統一を欠いた時代が長く続いた。研究サンプルとしてのマグロが、各国の近海モノしか手に入らなかったためでもあるらしい。クロマグロなどは1758〜1963年の間に、なんと20以上もの学名が報告されている。
※3スピードをコントロールするのはエラから取り入れる酸素の量らしいということが、あくまでも実験室内の測定データからだが、判明している。水中の溶存酸素量は空気中の約25分の1。遊泳時、といっても常に泳いでいるワケだが、マグロが口から取り入れる海水の量は、そのスピードに比例して増大する。

以下の文献を参考にさせていただきました(アイウエオ順)。
「いさば」田山準一著(主婦の友社)「岩井保・中村泉・松原喜代松:マグロ類の分類学的研究」(京都大学みさき臨海研究所)「魚偏に遊ぶ」田中秀男著(PMC出版)「江戸前の魚」渡辺栄一著(草思社)「おもしろいサカナの雑学」篠崎晃雄著(新人物往来社)「クストー海の百科・自然のバランス、泳法の秘密」末広恭雄監修(平凡社)「黒汐反流奇譚」矢代嘉春著(新人物往来社)「魚ガイドブック」香川綾監修(女子栄養大学出版部)「魚・肴・さかな事典」(大修館書店)「さかなの本・1」(講談社)「魚の目さき」伊藤勝太郎著(徳間書店)「魚の履歴書・下巻」末広恭雄著(講談社)「死んだ魚を見ないわけ」河井智康(情報センター出版局)「世界のマグロ資源とその諸問題」J.L.カスク講演・石井昌夫訳(日本水産資源保護協会)「続・マグロの話」田山準一著(共立出版)「大百科事典14」(平凡社)「ヘミングウェイ釣文学全集下巻海」アーネスト・ヘミングウェイ著、秋山嘉・谷阿休訳(朔風社)「BOAT & GAMEFISH(1986.7-8、雑誌)」(八点鐘)「マグロは時速160キロで泳ぐ」中村幸昭著(PHP研究所)「ものと人間の文化史17・釣針」直良信夫著(法政大学出版局)

These remarkable photographs were taken by Paul Murray aboard the Cookie 2 July, 1987 on the tuna grounds south of Cape Cod, Massachusetts. Paul was using a Pentax LX with a 75:150 zoom lens and Kodacolor film.

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