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HOME BIG BLUE エッセイ/ビッグクルー BIG BLUE(2) カジキ、その種の行方は?
 
カジキ、その種の行方は
  太洋の一滴の水のなかにさえ、
われわれと縁の深い無数の生物が住んでいることを思えば、
頭の上をめぐっている星のなかに、
われわれと関係あるものがなにもない道理があるだろうか……。
 
by サン・ピエール
先日、懐かしき友よりメールが届いた。かつて我が社で編集の苦労を友にしてくれたI君からであった。
彼はその先見の明から、10年ほど前にマリン業界やら出版業界から足を洗い、長年の夢であった有機農業なんぞをやりながら着々とその地歩を固めている。未だにビーチコマー(beachcomber)、いや最近ではカスタウェイ(castaway)と化しつつある私とは大違いの手固い人生である。
そんなI君が、久方振りに書棚から取り出した“ZIN”(魚偏に人と書いて“ZIN”と読む。“ZIN”とは人魚を意味し、海とビッグゲームが好きな方の独断と偏見に満ちた想い入れの書にしたいという戯言を吐きながら15年ほど前に八点鐘が世に問うた書籍である)を見て、何やら懐かしく想うところがあったのか「ところであのハチェットマーリン騒動は、その後どうなりました?」経済的にも余裕が出てきたのだろう「もし狙えるものなら、どのあたりの海がいいんでしょうね?」ときた。
“ハチェットマーリン(hatchet marlin)”とはかれこれ30年以上も前、大西洋域のスポーツアングラーからその報告がなされ「すわ、新種発見か!?」と色めき立ったものだが個体標本や写真もないまま、その報告に基づいた図版だけが残されただけで今に至っている。多分、ニシマカジキのちょっとした個体差程度のものであろうが、IGFA(インターナショナル・ゲームフィッシュ・アソシエーション)オフィスでも当時、ちょっとした話題となったものである。  
 
カジキ分類の世界的権威である中村泉氏らにより、これまで世界には2科4属11種のカジキ(billfish)がいるとされてきたが、昨今の種の同定のための分子遺伝学的検査によるDNA分析結果を基に、太平洋と大西洋のクロカジキには種のレベルにおける差異がほとんど認められないという声が大きくなってきた。
カジキに興味を持ちだした頃、そう今からかれこれ4半世紀も昔の話だが、私が最初に覚えた学名がクロカジキことパシフィック・ブルーマーリンのマカイラ・マザラ(<i>Makaira mazara</i>)であった。ニシクロカジキことアトランティック・ブルーマーリンはマカイラ・ニグリカンス(<i>Makaira nigricans</i>)として何度も紙に書き、正確な発音も分からないままに、何とか頭にやきつけようとしたものである。
IGFAでは釣魚記録を採り始めた頃から両者の学名を<i>Makaira nigricans</i>とし、太平洋と大西洋産の違いによる各々の記録を残している。私が初めてIGFAに入会したのは1978年のことだが、当時送られてきたイヤーブックにおける両洋のクロカジキの学名とその記録を眺めながら、「何事にもアバウトな米国人らしいな…」と妙な感慨を抱いたことを記憶している。
クロカジキとニシクロカジキを別種とする研究者の論拠は、その側線の形態にある。若魚期までの前者のそれは単純なループ状を呈し、後者のそれは極めて複雑な細かい網目状を呈しているとするのである(魚体が大きくなると側線系は皮膚の下に埋没して、外見上の観察が困難となり、分類上の手がかりはなくなってしまう)。この若魚期の側線形態の違いが同一遺伝子に支配されているとは考えられず、この表現型(phenotype)は遺伝子型(genotype)と密接に関連しているはずで、今回のDNA分析報告書はその部分の遺伝子の違いを見落としているのではないか?という意見である。
側線の形態(表現型)の大きな違いを認めないならば、遺伝学も形態学もDNA分析も成り立たないのではなかろうかと考える研究者の言葉に、現在のDNA鑑定レベルも果たして万能と呼べるにふさわしいものかと一抹の疑問を感じると同時に、永年に渡りカジキの形態を仔細に観察してきた研究者の憤懣やるかたない思いをも感じた次第である。
カジキの、そのジャンプ、そのファイトに魅了された人々が、その相手をより深く知ろうとするのは当然の帰結であり、そこに文化が生まれる。多様性に対するこだわりは、画一的なDNA分析の更なる精度を高めることにも繋がるであろうし、種の多様性を解明する手掛かりともなる。
ともあれ今回、米国ヴァージニア州立大学のジョン・グレイブス博士らのDNA分析結果を根拠として両者を同一種と見なすことが正式に決まったことを受けて両種の学名は<i>Makaira nigricans</i>として統一されることになるようだ。
 

1985年5月13日、午後4時50分。与那国の海で初めてロッド&リールを使用したスポーツアングリングによって記録された193kgのクロカジキ。
アングラー/秋山 勇
  私が初めてIGFAに入会した1978年当時のオールタックル部門のクロカジキの記録はグアムのリティディアン・ポイントで1969年8月21日に記録された522.99kg(1153ポンド)。そう、グアム島の空港に今も剥製として飾られているあのカジキだ。ニシクロカジキの記録はバージン諸島のセント・トーマスで1977年8月6日に記録された581.51kg(1282ポンド)。
ひるがえって2004年度現在の記録を見るとクロカジキはハワイ島のコナで1982年5月31日に記録された624.14kg(1376ポンド)。ニシクロカジキはブラジルのビットリアで1992年2月29日に記録された636.00kg(1402ポンド)となっている。ただしIGFA記録には認定されていないもののクロカジキでは1971年6月10日にハワイ、オアフ島沖で釣られた819kg(1805ポンド)という記録があることも忘れてはならない。
 
 
エッセイ/ビッグクルー
   
BIG BLUE(1) はじめに、あれやこれや…
BIG BLUE(2) カジキ、その種の行方は?
BIG BLUE(3) 釣りを正当化するもの…
BIG BLUE(4) “最初の経験”に何を学ぶか…!?
BIG BLUE(5) ビルフィッシュを巡る縁
BIG BLUE(6) こんな時代に誰がした…!?
BIG BLUE(7) 巨魚を釣る資格ある者
BIG BLUE(8) 記録から検証できるもの…!?
BIG BLUE(9) ビッグゲーム、ビッグボーイ。
BIG BLUE(10) 娘たちが父に贈った一冊の本
BIG BLUE(11) 与那国の海にカジキを追う!
BIG BLUE(12) 世界有数の規模と、完成度の高いビッグゲーム・トーナメント(JIBT)が、なぜ斯くも国際的には無名なのか?
BIG BLUE(13) カジキはカジキ、マグロはマグロ
BIG BLUE(14) リリースしたカジキはマカジキ、されど 再捕されたカジキはクロカジキ!?
BIG BLUE(15) “クオリティー オブ フィッシング”その発想を育てるための、さまざまな自己規制
BIG BLUE(16) “バラシ”の体験に何を学ぶか?
BIG BLUE(17) '06 TRY AGAIN!!
BIG BLUE(18) 『BIG GAME』創刊
   
 
 
 
 
 
 
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