「BLACK BART」のチャーター料(1日900ドル、トーナメントの場合は1000ドル)は、一般チャーターボートの倍だ。飛行機にファーストクラスがあるように、フィッシングボートにもファーストクラスがあってもおかしくない。しかしボートの大きさやキャビンの雰囲気が格別デラックスというわけではなく、デリーシャスな飲食物が用意されているわけでもない。やはり“釣りの天才”とか、“記録男”と異名をとるキャプテン、バート・ミラーの輝かしい実績と、巧みなマネージメントが大きな付加価値になっていることは否めない。そこで他のボートとくらべて一味違う「BLACK BART」の“偏差値”を探ってみた――。
16インチのギャフで巨大マーリンの予感
巧みなマネージメントで完璧のチームワーク
マーリンが釣れるのは決して偶然性だけによるものではない。 マーリンが回遊している海域を探し当てて、潮に適合したルアーを最高のコンディションで流す。また状況によってライブベイト(生きエサ)、デッドベイト(死んだエサ)の使いわけなど、ボートキャプテンの適確な判断と緻密な行動作戦が必要だ。 私が乗船した5日間、出勤(?)してきたキャプテン、バート・ミラーはいつも愛用のベンツから小汚いビニール袋をとりだしてボートのクーラーに放り込む。袋のなかには冷凍のオペル(ムロアジの一種)かサバが5〜6尾、デッドベイト用だ。 次にキャビンのなかの引き出しを物色する。何10本ものルアーのなかから5〜6本のルアーを慎重に運び出し「きょうはまずこのルアーを流してみますよ」まるでフランス料理店のソムリエがワインをすすめるかのように提示してみせた。 選んだルアーはさらに1本1本丹念にチェックし、ときには慣れた手つきで惜しげもなくスカートを取り替えてみせる――これもお客が見とれるショービジネスである。 バートは4本のルアーを中年のクルーに渡すとき、それぞれのルアーの流す順番まで細かく指示するのには驚いた。 バートと2人のクルー、たった3人の職場といえども職務分担が規律正しく守られている――バートの巧みなマネージメントは、ただの見せかけだけではないようだ。トローリングはチームワークの釣りだからである。 たとえばマーリンがストライクしたとき、即応する操船、他のラインの巻きあげ、そしてリーダーのキャッチ、ギャフ……、チームワークがぴったりと機能しなければ、マーリンを釣り上げることはできないからだ。(つづく)